中華料理人・五十嵐美幸が自身に課す“セブンルール”「自分の身を捧げるくらい、夫を信頼している」

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視聴者が“今最も見たい女性”に密着し、自身が課す“7つのルール=こだわり”を手がかりに、その女性の強さ、弱さ、美しさ、人生観を映し出すドキュメントバラエティ『7RULES(セブンルール)』。

11月24日(火)放送回では、中国料理「美虎」オーナーシェフ、五十嵐美幸に密着。渋谷区幡ヶ谷の住宅街に、ひっそりと佇む店で、豚の角煮を黒酢で仕上げた酢豚や、油揚げで包んでうま味を閉じ込めた焼売など、オリジナリティに富んだ創作中華で多くの食通をうならせてきた。

病や育児など、目のまえに立ちはだかったいくつもの壁を乗り越え、唯一無二の味に辿りついた彼女のセブンルールとは。

ルール①:食材を調味料にする

開店2時間前の午後4時、厨房では仕込みが始まる。

油、砂糖、塩を多く使うことになる中華料理。それらの調味料で体が疲れてしまうことに気づいたという彼女は、「毎日食べれる中華」を目指し、担々仕立ての肉じゃがや、油揚げを使った焼売など、和を取り入れた創作中華を作っている。

彼女の料理を味わった来店客は、口を揃えて「優しい」と言う。優しい味の日本中華を作るため、彼女が徹底しているのが、野菜をミキサーにかけてペーストにし、調味料にすること。

黒にんにくペーストやねぎペースト、かぶペーストなど、さまざまな食材をペーストにして、その甘みや香りを生み出すことで、“重く”ならないのだという。しかしそれも、ただミキサーにかけて作るのではない。

カリフラワーのペーストを作るときも、事前に素揚げしてアクを抜き、湯通しして余計な油を落とす。そこに自家製の鶏ダシをかけ、一時間以上蒸しあげる。そうして出来上がったペーストは、海鮮食材と煮込み、塩で軽く味付けをすれば、海鮮とカリフラワーの優しいうま味が染み出た「カリフラワーの海鮮クリーム煮」が完成する。

「パンっと味が来るんじゃなくて、人間の五感を刺激して、『なんだこの香り』とか『なんだこのうま味は』っていうの(驚き)を大切にしたい」と、彼女は語った。

ルール②:中華鍋は使わない

都内で有名中華料理店「広味坊」を営む家に生まれた彼女。幼い頃から厨房が遊び場だった。「小学4年生で餃子も肉まんも握れていたし、エビを剥くのも早くて『エビ剥きの美幸』って呼ばれたり」と、父から料理の基礎を学んだ幼少期を振り返る。

高校を卒業後、本格的に料理の道へ進むと、21歳のとき、病気を患った父に替わって料理長に就任。その後、『料理の鉄人』への出演を機に、その名を一躍全国に轟かせた。

2008年には実家から独立し、「美虎」をオープン。中華料理の王道を歩んできた彼女だが、厨房での様子を見ると、中華鍋は使わず、フライパンで次々と料理を仕上げていく。

中華鍋を使わないのには、訳があった。

鍋を振るって料理を作る中華料理の世界で、活躍する女性は少なかった。そんな中、男性料理人に負けじと、がむしゃらに張り合ってきた。その負担から9年前、背骨の中を縦に走る靭帯が骨に変化し、脊椎などが圧迫され、感覚・運動障害を引き起こす難病「後縦靭帯骨化症」を患った。

今も、後遺症と戦いながら料理を作り続けている。

「自分の体と付き合いながら、中華鍋で作る以上のものを。同じレベルじゃダメなんですよ。中華鍋を振らなくても、それ以上のものを作らないと、世の中に認めてもらえない」と語る彼女。

火にかける前に食材を油になじませる、そして効率よく加熱するために蓋を閉じるなど、中華の技法にアレンジを加えて現在のスタイルを確立。病に倒れ、中華鍋を手放したことで、自分らしい味にたどりついた。

ルール③:新作メニューを作るときはスーパーをぐるぐる回る

彼女の仕事は、店での調理だけにとどまらない。これまで20年以上、テレビや雑誌などでレシピを紹介し、出版したレシピ本は10冊以上。さらにオンライン料理教室も開く彼女は、日々、新作レシピの創作に追われている。

新たなレシピの創作時、彼女が決まって訪れるのが、スーパーマーケット。主婦のためのメニュー開発が多いため、身近な食品の手に入るこの場所が、彼女にとっての「第2の豊洲」「第2の築地」なのだという。

重いものを持てない彼女のため、荷物持ちとして夫の順一さんも付き添い、店内をぐるぐると回る。「どこに何が売っているか」を把握している彼女は、「どんな食材があるか」を改めて目にすることで、アイディアを得ている。

実際に、アイディアに行き詰まった彼女が、スーパーで出会った“かつお節”から着想を得て、特製の唐揚げを考案したこともある。パリパリした食感でうま味のあるもの、それを探していたときに見つけたのが、かつお節。鶏肉にまぶしたら、うま味の相乗効果が起こるとひらめいた。

今では「これを超えるものはない。日本中の人たちに教えたいし、『日本を代表する唐揚げだ』って、世界にも伝えたいくらい」と言うほどの、彼女の自慢の一品となっている。

ルール④:営業前に子どもにスケジュールを必ず伝える

五十嵐は、店の2階の自宅で、夫と5才の息子・琳句(りく)くんと、3人暮らしをしている。「ママ、僕のこと好き?」と、毎日確認するほど、彼女のことが大好きな琳句くん。そんな琳句くんとの時間を少しでも長く取るため、昨年、自宅の1階に店を移転した。夫と母の助けを借りながら、日々、厨房に立っている。

ある日、料理の仕込みを終えた彼女は、2階の自宅へ。琳句くんに「今日、ママは下でお仕事です。今日は、いつもより少し遅いです。下でいっぱいお仕事しなきゃいけないの」と、その日の予定を丁寧に説明する。

琳句くんは以前、彼女の仕事の影響からかストレスを感じ、全身に蕁麻疹が出てしまったことがあるという。その時に病院で言われた、「『今日のママのお仕事は、こう』っていうことを、毎日子どもに伝えてあげてください」という言葉を守っている。

この日のスケジュールを伝え終えて店に戻ろうとする彼女に、琳句くんはぎゅっと抱きつき、見送った。

ルール⑤:子どもと遊ぶときは全力で

多忙な日々を過ごす彼女にとって、家族での外出は何より大切な時間。2、3ヵ月に一度は必ず1泊の小旅行に出かけ、家族だけの時間を楽しんでいる。自宅と店が一緒になっているからこそ、外出して子どもと触れ合うことで、「今日は、あなただけのママですよ」ということをきちんと伝えるようにしているという。

「歳を忘れて思いっきり遊べるようになった。子どもがゲームにハマっているから、私もめちゃめちゃ真剣にゲームやっていますからね」と笑う。時には子ども以上に夢中になってしまうことも。

ある休日に一家で訪れたゲームセンターのクレーンゲームの前には、「どこに引っかかるんだろう?」と真剣に悩む彼女の姿があった。

ルール⑥:夫のすべてを信頼する

ある日、新メニューの開発に取り組んでいた彼女。アヒルの肉ではなく、鶏肉で作る北京ダックを目指し、1ヵ月前から試作を重ねてきたという。

閉店後、試作品の味見を始めたのは、彼女の夫。彼女が「多分、私の料理の一番のファンです」と話す夫は、テレビ番組の元ディレクター。料理コーナーで彼女を担当したことが縁で、結婚に至った。

「子どもを産んで、どうしていいのかわからなくなった。仕事も料理もやりたいけど、子どもは宝だし」。そんなふうに悩んでいたとき、夫は「僕が仕事を辞めるから」と、料理人・五十嵐美幸を支えることを、一生の道として選んだ。

そんな夫について、「100%じゃ足りないくらい、すべてを信頼している」と、彼女。「主人なしでは、“五十嵐美幸”っていうのが完成されない。私の身を捧げるくらい、自分の人生を捧げてもいいくらい、信頼している人」だと話す。

彼女にとって大切な「味をみてもらう」ということも、まず一番は、信頼する夫に。

「美味しいけど、もうちょっとだね」という夫のコメントに、彼女は「知ってるよ。褒めないと」と、不満げ。「『よくここまで頑張ったね』でしょ」という彼女の言葉に従って声をかけた夫に、「あともう一息、二息いくには、やっぱり応援してくれる愛がないと」と笑いかけると、夫は照れたように顔をそむけた。

ルール⑦:美味しさ以上に思い出を

年に一度の重要な仕事があると、従業員とともに近所の家を訪ねた彼女。中華では「桂花醤(ケイファージャン)」と呼ばれる、金木犀のジャムを手作りするため、金木犀の収穫に訪れた。

収穫後は一つ一つ、茎や枝などを取り除き、しっかりと花びらが開いたものだけを選別する。長いときで10時間ほど、作業に没頭することもあるという。

毎年、金木犀のジャムを作り続ける理由には、美味しさ以上に大切なものの存在があった。

幼少期、両親は共働きで、食事は店のまかないが当たり前だった。そんな中でも、たまに作ってくれる母の味が、彼女の美味しい思い出に。それが、「自分の心に刻まれる料理を作りたい」という思いへとつながった。

季節の食材を取り入れ、食べた時の思い出が残る料理を。その一皿一皿は、舌だけでなく、心にも刻まれる。

どれだけ壁が立ちはだかっても、決して歩みを止めなかったからこそ見つけ出せた自分だけの料理の形。時間や手間がどれだけかかろうとも、その歩みは止めない。

「料理人って、お客さまに育ててもらうのが一番なんですね。その中でまだまだ私は、美味しいものを探して、思い出を一緒に作ってもらいながら、『美幸ちゃんこんなに成長したんだね』っていうふうに見てもらいたいし、私も作り続けたい」と、彼女は笑顔を見せた。

※記事内、敬称略。

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次回、12月1日(火)の『7RULES(セブンルール)』は、 看護師・村田詩子(むらたうたこ)に密着。心臓病では全国トップクラスの治療を行う、榊原記念病院の小児外来で、心臓疾患の子どもと親たちを支える一方、コロナ禍で話題となった“ゴミ袋で作る防護服”を考案するなど、「発明家」の顔も持つ、彼女の7つのルールとは。