クリーンに決まるのか泥沼か「胃が痛くなる」かつてない混戦のチャンピオン争い【第8戦富士GT500プレビュー】

 自力優勝によるチャンピオン候補が6台、数字上の候補が10台という、かつてない接近状態で迎えることになった、2020年スーパーGT最終戦富士のGT500クラス。今週末に行われる最終決戦で頂点に立つのはどのチーム/ドライバーなのか。ランキング上位3チームのエンジニア、ドライバーの声を聞いた。

 まずは現在のポイントランキングを振り返ってみよう。

Points No. Car

51pt #17 KEIHIN NSX-GT

51pt #37 KeePer TOM’S GRスープラ

49pt #23 MOTUL AUTECH GT-R

49pt #100 RAYBRIG NSX-GT

48pt #8 ARTA NSX-GT

47pt #14 WAKO’S 4CR GRスープラ

45pt #36 au TOM’S GRスープラ

42pt #39 DENSO KOBELCO SARD GRスープラ

37pt #38 ZENT GRスープラ

31pt #64 Modulo NSX-GT

 以上のポイントランキング上位10台に数字上、チャンピオンの可能性があり、そのうち上位6台が最終戦で勝った場合は相手の順位にかかわらず、チャンピオン獲得となる(※14号車はポールポジション獲得の1ptも必須)。逆を言えば、この6台の中で自分たちがたとえ2位でも、残りの5台のうちどこかが優勝すれば、チャンピオンを逃してしまうという、過酷な戦いでもあるのだ。

 まずは現在、ランキングトップのKEIHIN NSX-GTの田坂泰啓エンジニアに今の心境と週末の見通しについて聞いた。

「勝たなければいけないレースは嫌ですね。考えただけで緊張する(笑)。でも不思議とセッションが始まったら緊張もなくなるんですけど、今が一番緊張していますね。胃が痛くなる(苦笑)。俺はもともと富士を苦手としているんですけど、今年の第2戦で勝てましたね。トヨタ勢も得意としていますけど、ウチは決勝に関してはすごく安定しているからね」

 週末のポイントとしては、予選を挙げる。

「予選に関しては同じNSXでも一発が速いところがあるので、そこよりも少しでも前に行きたいですね。富士は抜けるサーキットだけど、どうしても抜くのに時間が掛かってしまう。第2戦で勝ったときも前の8号車を抜くのに7~8周掛かった。やはりスタートの走り出しのタイヤのグリップがいいときは、最終コーナーのトラクションもいいのでそうそう簡単には抜けない。そのあたりを考えると、やはり予選はできるだけ前に行っておきたいですね」

 続いては17号車と同ポイントながら、ランキング2位の37号車KeePer TOM’S GRスープラ、小枝正樹エンジニアに聞く。37号車は4年連続のタイトル争いとなるが、今年の状況はいつもと異なるようだ。

「今年はレギュラードライバーとは違った形ですので、何かいつもと違った感覚があります。とは言っても(平川亮&山下健太)コンビでどうこうあるわけではなくて、山下選手も普通に対応してくれるというかうまいですし、実際、前回の決勝も期待したとおりでした。前回はこちら側が予選のセットアップで行きすぎてしまった部分があったので(予選13番手)、そこは申し訳なかったなと思います」

「今回は2位、3位ではダメだと思っています。勝たないとタイトルは獲れないと思っています。とはいっても、やれること、考えられることはいつもと同じで限られていますので、大きく何かが変わるわけではないです。富士では開幕戦で勝てていますし、第5戦もウエイトハンデが重かったですけどクルマの感触としては悪くなかった(決勝4位)。その延長でうまくまとめられればと思います」

「この寒い時期はテストもしていないですし、タイヤの感触もわからないですし、どうなるか読めないところが大きいので、そのあたりをうまくアジャストして、メーカー間のパフォーマンスを埋められれば、なんとかなるのかなと思っています。本当にまずは明日、うまく転がってくれれば。走り出しで『いいかも、行けるかも』と思えるか『ダメかな』と思うか、ですね(苦笑)」

 続いてはニッサンGT-R陣営で唯一、チャンピオン争いに残ることができたMOTUL AUTECH GT-R。序盤戦の劣勢から、ランキング3位で最終戦を迎えることになった。松田次生が話す。

「自分の身体の体調もいいですし、クルマもやれることをやって見直してきたので、チームみんなの力が発揮できればチャンピオンはあとから付いてくると思います。シーズン始めの頃は正直、このように最後までチャンピオン争いができるとは思っていなかったので、シーズンを通してチーム、ドライバー、それぞれ開発や努力をして、それが実を結んでいる部分があると思います。そのお陰で苦しい状況でもチャンピオン争いができていると思います」
 
「明日の順位、予選が重要になってくると思うので、開幕戦の富士は結構、ストレートスピードを含めてきつかったですが、そういった意味ではライバルとどこまで差を詰めることができたかが見えますし、そこがポイントになってくるでしょうね」

「これだけの僅差のタイトル争い、楽しみもありますけど、一歩間違えればランキング9位まで落ちてしまうこともあるので、いろいろな意味でドキドキ感があります(苦笑)。それでもたぶん、一番緊張しているのはスープラ陣営で、絶対タイトルを獲らないといけないと思っているところで、僕らはチャレンジャーの気持ちで戦っていければと思います」

「とにかく明日、まずは走ってみて自分たちがどの位置にいるのかが重要なので、明日しっかり走って、作戦を組み立てたいなと思います。今回は2位ではチャンピオンは獲れないと思っているので勝つしかないですよね。作戦面でもレースではセーフティカーの混乱もあることを考えて、監督、エンジニア、チームとぬかりなく状況を見てくれれば、あとは僕たちがドライビングで対応するだけです」

 以上の3名の言葉からも、まずは重要になるのが明日の練習走行の走り出しの手応えと、予選順位。特にうがった見方をするならば、今回のチャンピオン争いは数字上の10台のうち、半数を占めているトヨタ陣営がポイントになる。

 トヨタのフラッグシップモデルでもあるスープラをベースにしたGT500仕様GRスープラのデビューイヤー、トヨタ陣営としてはなんとしてもタイトルを逃すわけにはいかない。5台で争うなかでもっとも避けたいのは同士討ちでライバルメーカーがタイトルを奪っていくシーンだ。

 当然、5台のなかでメーカーオーダー的な指令が発令される可能性も高く、これまでのGTを振り返ると、その条件としては予選順位の上位チーム、そしてオープニングラップ後の上位チームにメーカー内での特権が与えられるケースが多い。その状況を考えると、もしかしたらトヨタ陣営としては決勝よりも予選セッションの方が今週末最大のクライマックスになる、という可能性も考えられる。

 いつも以上に高まる今回の予選セッション、そして決勝でのチャンピオンを掛けたドライバー同士の意地のバトルで決まるか、それともメーカーオーダーを含めた泥沼のようなメーカー同士の戦いとなるか。いずれにしても、トヨタ、ニッサン、ホンダが威信を懸けて戦うGT500クラスの醍醐味のひとつを今週末、目にすることができそうだ。

ニック・キャシディの離脱で山下健太が前戦から加入したKeePer TOM’S GRスープラ。
2020年スーパーGT第2戦富士で優勝を飾ったKEIHIN NSX-GT

 

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