原田知世「時をかける少女」クオリティ高すぎのアイドル映画に感動! 1983年 7月16日 角川映画「時をかける少女」が劇場公開された日

映画のために書き下ろした新曲「時をかける少女」

全盛期のミュージシャンの100%のタイアップ曲が好きだ。

古くは、ポール・マッカートニー&ウイングスの「007 死ぬのは奴らだ(Live And Let Die)」がそうだし、前に『ゴダイゴ「銀河鉄道999」にみる作家性と商業主義の両立』で書いたゴダイゴの「銀河鉄道999」もそう。そして、今回取り上げるユーミン作詞作曲の「時をかける少女」も――。

いずれも、出来合いの曲をタイアップに乗せたのではなく、映画のためにわざわざ書き下ろした新曲である。何がいいって、曲のタイトルが映画の題名そのままってのがいい。いかにもなタイトルの最後に(映画『○○○』主題歌)と表記されるより、100倍潔い。

映画と同タイトルってことは、映画がコケれば、主題歌もその影響を少なからず受けるということで、リスクも高い。だが―― これらはいずれ劣らぬ名曲揃い。もちろん、映画もヒットした。鶏が先か卵が先かの議論じゃないが、映画と主題歌がwin-winの関係にあるのは、実にいいことだ。

映画『時をかける少女』は、今から37年前の1983年7月16日に封切られた。同名タイトルの主題歌はこの作品のためにユーミンが書き下ろしたもの。ヒロインの原田知世が歌い、セールスは50万枚以上、オリコン年間11位と大ヒットした。よほど自信作だったのか、ユーミンはセルフカバーした同曲を同年12月にリリースしたアルバム『VOYAGER』にも収録している。

 時をかける少女 愛は輝く舟  過去も未来も星座も越えるから  抱きとめて

原田知世、「角川・東映大型女優一般募集」で角川春樹の推薦による特別賞

思えば、それは嬉しい誤算だった。 話は少しばかり、さかのぼる――。

映画公開の前年の1982年4月、角川書店は、大学受験で休業中の薬師丸ひろ子の穴を埋めるべく、『角川・東映大型女優一般募集』と称して、オーディションを開催する。よく誤解されがちだが、この時のグランプリは渡辺典子で、原田知世は角川春樹の推薦による特別賞だった。準グランプリでもなかった。

そして3ヶ月後―― 彼女は晴れて連続ドラマ『セーラー服と機関銃』でデビューする。僕らが原田知世という存在を知るのはこのタイミングである。おかっぱ頭に小さい目―― 正直、第一印象はパッとしなかった。

そのドラマも、先輩の薬師丸ひろ子が主演した同名タイトル映画と違い、当時のフジテレビの悪い癖でコメディ色が強く、僕は早々に離脱したのを覚えている。しょせん、薬師丸の休業中の穴埋め要員―― そんな印象だった。10月から主演ドラマ第2弾『ねらわれた学園』が始まったが、コメディのトーンは相変わらずだった。

だが、その時1つだけ小さな変化があった。彼女は髪をショートにしたのだ。当時、14~15歳。成長期で刻一刻と容姿が変わる年ごろである。

「原田知世、ショートにして可愛くなったろ?」

そんな声が、僕の周りの男子からも聞かれ始めた。

監督は大林宣彦、角川春樹のプライベートフィルム「時をかける少女」

そして年が明けて1983年。彼女は中学を卒業して、日出女子高校に進学する。その間の春休み―― 彼女は1本の映画を撮った。それが同年7月公開の『時をかける少女』である。後から知った話だが、この映画の出資は100%、角川春樹のポケットマネーだったという。つまり、彼のプライベートフィルムである。

監督は大林宣彦が指名された。前年に映画『転校生』を撮り、そのロケーション映像の美しさや青春映画の瑞々しさが評価されての起用だった。原田知世自身の推薦もあったという。大林監督は自身の故郷である尾道での撮影は『転校生』1本きりと決めていたが、角川のたっての願いで再び尾道で撮ることになった。

そして話は冒頭に戻る。

映画『時をかける少女』は、薬師丸ひろ子の『探偵物語』との併映で公開された。薬師丸の復帰第一作ということもあり、ヒットは約束されたようなものだった。僕も友人たちと夏休みに入ってすぐ観に行ったのを覚えている。晴れて女子大生になり、髪型をボブに変えた薬師丸目当てだったのは言うまでもない。だが―― 映画のラスト、彼女と松田優作が深く、長いキスを交わし、僕ら男子高校生のガラスのハートは打ち砕かれる。噂では、薬師丸のほうから舌を入れたという話だった。

だが、そんな純朴なティーンエイジャーを救ったのも、また映画だった。インターミッションを挟んで始まった『時をかける少女』を観終わった時、先の映画とは別の意味で、僕らのハートは撃ち抜かれた。

原作はSF小説、大林マジックと尾道のたたずまいが醸し出す幻想的な空気

もともと、『時をかける少女』は、僕ら世代には有名な小説だった。当時は、70年代半ばから80年代にかけてSF小説ブームがあり、筒井康隆や星新一、眉村卓などが中高生によく読まれていた。中でも “時かけ” は以前にNHKの少年ドラマシリーズで『タイムトラベラー』なるタイトルでドラマ化された経緯もあり、よく知る話だった。だが―― 映画で観るそれは、僕らの予想していたものとはまるで違った。

物語はスキー場のシーンから始まる。いきなりモノクロ映像である。原田知世演ずる主人公・芳山和子が満点の星空を眺めながら「あんまり綺麗すぎて、なんだか怖い」とつぶやく。ここで、未来から来た運命の人、深町一夫(高柳良一)と出会うが、彼女は記憶を上書きされ、2人は幼馴染になる。ちなみに、この4年後、再び彼女はスキー場で運命の出会いを果たすが―― それはまた、別の話。

このスキー場のシークエンスの後、彼女を含むクラス一行は列車で帰途につくが、町に近づくにつれ、段々と画面が色付いてくる。これ、“パート・カラー” と呼ばれる古くからある映像技法の1つだが、この作品は端々にこの種の “大林マジック” がさく裂する。

例えば、場面転換の際に左から右へ映像をスライドさせる “プッシュオフ”、被写体のフレームサイズは変わらないのに背景だけが動いて見える “ドリーバック・ズームアップ”、そして極め付けは、35ミリの250枚撮りモータードライブのスチールカメラを駆使しての “タイムリープ” の演出である。

それら一連のクラシカルな技法と、ロケ地である尾道のたたずまいが相乗効果を生み、この映画は全編がまるでおとぎ話のような幻想的な空気を醸しだしている。それゆえ、古風な出で立ちの原田知世が絶妙にハマる。

主人公・芳山和子が持つ不思議な力、タイムリープをめぐるストーリー

ストーリーはさほど複雑ではない。とある土曜日の放課後、和子(原田)と深町(高柳)、それに堀川吾朗(尾美としのり)の幼馴染み3人が、理科室の掃除を命じられる(そーいえば当時、尾美としのりと鶴見慎吾って、よく混同しませんでした?)。その時、深町と吾朗がゴミ捨てに行ってる間に、1人残った和子が実験室に入り、ふとしたことからラベンダーらしき謎の香りを吸って気を失う。

そして、その日を境に、和子は不思議な力を持つようになる。タイムリープである。何度か不思議な出来事が起きて、とうとう彼女は月曜日を2度繰り返す。この間、大林監督は原田知世に体操着の短パンを履かせたり、弓道部のコスプレをさせたりと、サービス精神を忘れない。さすがの “脱がせの大林” も、知世相手ではこれが限界だった。

2度目の月曜日の放課後、彼女は雨宿りで深町の家を訪れる。意外にも、幼馴染みなのに、その家に入ったのはその日が初めてだった。

「それはきっと、僕が芳山クンのうちに遊びに行ってたからじゃないかな」 「あぁ、それはよく覚えているわ。だって、あの時だって――」

 モモ、クリ、三年、カキ八年  ユズは九年で成り下がる、  ナシのバカめが十八年。

それは、2人が幼い時に過ごした雛祭りの思い出だった。絵本を読みながら歌うのは挿入歌の「愛のためいき」。まるで童謡のようだが、れっきとしたオリジナルソングで、なんと大林監督の作曲である。

この時―― 思い出の中では、2人は遊んでるうちに倒れた鏡台で共に指にケガを負う。自分もケガしているのに、和子の傷口の血を吸い出す深町少年。今も残る傷跡は、和子にとって深町との大切な思い出だった。ここで、意を決して和子はタイムリープの件を打ち明ける。

「笑わないでね… 私ね、丸1日、時間が逆戻りしちゃったみたいなの」 「デジャビュ… かなぁ。時々あることなんだ」

自分が当の仕掛け人なのに、白々しく返答する深町。

この夜、和子は2度目の地震と火事に遭遇して、駆け付けた深町と再び落ち合う。そして別れ際、おやすみの握手を交わす2人―― この時、和子は深町の指に、あの日の傷跡がないことに気づく。

「あれ? ないわ… あなたの傷」

翌日、和子は通学途中で、旧家の屋根瓦が崩れ落ちるところから間一髪、吾朗を助ける。その時、不意に見た吾朗の指には、あの日の傷跡があった――。

急展開の物語でさく裂する大林監督の一世一代の演出と松任谷正隆の劇伴

ここから物語は急展開する。

一連の謎の答えを求め、自ら “時” をさ迷う和子。ここで、大林監督の一世一代の演出がさく裂する。先に書いたように、スチールカメラを駆使しての “タイムリープ” である。絶妙に時計のコラージュが重なる。このシーンにかかる劇伴もいい。音楽監督は松任谷正隆である。

全ての発端となった土曜日の実験室へのタイムリープを試みる和子。その途中、途中で、自身の幼少時のシーンにも遭遇する。雛祭りの日にケガをした和子の傷口の血を吸い出す1人の男の子の姿が見える。振り返ると―― それは幼少時の吾朗だった。

続いて、ある一家の通夜にも遭遇する。祭壇に親子3人の遺影が見える。中央にいる幼子が―― 深町少年だ。ちなみに、父親はカメオ出演の松任谷正隆サンである。遺影に驚きを隠せない和子。

「深町クン……」

そして、遂に土曜日の実験室へ―― 案の定、そこにいたのは深町だった。

「あなたは一体、誰なの?」 「僕は―― 未来人なんだ」

自身が、西暦2660年からやってきた薬学博士であることを告げる深町。未来の世界は植物が絶滅の危機に瀕し、薬の開発のために、どうしてもラベンダーが必要だと。そして、もう戻らなくてはいけないことも――。

「行かないで」 「帰らなくてはいけないんだ―― そればかりでなく、君の記憶も消さなくてはならない」 「そんな… あたし、誰にも言わない。あなたのことは、私の胸だけに」 「君は、僕のことは忘れて、この時代で幸せになるんだ」

最後に、いつか再びやってくることを告げる深町。和子の顔がパッと明るくなる。

「じゃあ、また会えるのね、私たち」 「会える… でも、君には僕だと分からない」

話しながら、和子の頬に “汚し” を入れていく深町。

「分かるわ。私には……」

薄れゆく意識の中で、さようならと深町に別れを告げる和子――。

物語は11年後に飛ぶ。

時に20代半ばになった和子は大学に残り、薬学の研究を続けていた。ある日、彼女は廊下で背の高いひとりの男性と出会う。

「あのう、薬学部の実験室はどちらでしょうか」

それは―― 大人になった深町だった。だが、和子に彼の記憶はない。

「それなら、この先よ」 「ありがとう」

別れる2人。その後ろ姿をしばし見送る和子――。

映画はここで終わる。

エンドロールに込められたサプライズ、これはアイドル映画だったんだ!

切ない。不覚にも、僕ら男子は全員泣いていた。こんなに感動する映画とは予想だにしなかった。嬉しい誤算だった。だが、僕らに更なるサプライズが待ち受けていた。エンドロールである。

スクリーンは黒味になると、あの曲の前奏が始まった。そして霧が晴れるように、次第に映像が浮かび上がる。そこには、あの実験室で倒れた和子の姿があった。そして次の瞬間、不意に彼女は起き上がると、頬に “汚し” をつけたまま、歌い出したのだ。

 あなた 私のもとから  突然消えたりしないでね

スクリーンの中、リップシンクロで歌う原田知世。そこから、これまでの名シーンの数々がプレイバックされ、そこでも劇中の構図のまま原田知世が歌っている。

 二度とは会えない場所へ  ひとりで行かないと誓って  私は 私は さまよい人になる

さっきまで泣いていた僕らが、気が付けば、歌う彼女に釘付けになっていた。共演者たちもスクリーンの中で、彼女に笑みを浮かべている。まるでカーテンコールのようだ。

そして、サビを挟んで、彼女のNGシーンが流れるに至り、僕らはようやくある事実に気づいた。

「そうだ、これはアイドル映画だったんだ!」

あまりにもクオリティが高すぎて、途中、アイドル映画であることを忘れていたが、よく考えたら、これは角川娘の2本立て映画なのだ。

 褪せた写真のあなたのかたわらに  飛んで行く

歌い終わり、彼女を取り囲む共演者たちが拍手を贈る。な、なんだこの演出は!

オーラスは、神社の境内を走って、こちらへと駆けてくる原田知世のカットだ。カメラの前で立ち止まり、少し照れながら笑顔を見せる。素の表情だ。時おり、ふと横目になったりして――。

気が付けば、僕らは全員、彼女に恋をしていた。

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※2018年7月16日に掲載された記事をアップデート

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