ブルーリボン賞特急「Laview」で飯能へ ムーミン谷のテーマパークでイベント「ウインターワンダーランド」始まる

西武特急 001系Laview イメージ(写真:鉄道チャンネル編集部)

東京・池袋から西武池袋線のブルーリボン賞特急「Laview(ラビュー)」で40分、〝都会のスイッチバック駅〟として知られる飯能駅に到着します。西武鉄道は飯能を観光拠点駅と位置付け、リニューアルなどでイメージアップに取り組んできました。

コンセプトは「北欧風」で、理由は駅近隣のテーマパーク「ムーミンバレーパーク」のモチーフがフィンランドだから。本稿ではパークで体感型アトラクション「ウインターワンダーランド・アドベンチャーウォーク」が始まったのに合わせ、飯能駅を紹介しつつパークの近況を報告しましょう。

(本稿は鉄道チャンネルの連載「駅ぶら04」と対象駅が重なります。併読いただければ幸いです)

天井をカモメが飛ぶフィンランド調駅舎

リニューアルされた飯能駅はホームの床も木調。Y字形の柱につながるベンチも木製です。

飯能は西武池袋線の中核駅で、スイッチバックなのでラビューもいったん停車します。西武は2018~2019年の駅リニューアルで、国内私鉄駅では珍しい海外デザインコンペを実施し、フィンランド大使館と共催で同国のデザイナーから作品を募集。最優秀作選考からの詳細設計を経て2019年3月、新しい飯能駅を誕生させました。

フィンランドのデザイン事務所「N.e.o ark(ネオアーク)」の作品は、木調を基本に膜天井やアルミ製カモメのモチーフ、埼玉県産の木材などで装飾し、自然を採り入れた温かみある空間を創出しました。飯能駅のホームは3本ありますが、1、2番ホームの階段はアシ、3、4番ホームは樹木と、行きと帰りで違った雰囲気を楽しんでもらえるように工夫しました(私は往復とも4番ホームでした)。特急用5番ホームは、照明による演出で粉雪を降らせます。

コンコースの天井をカモメが飛びます。

広々としたコンコースの天井を飛ぶのは、無数のカモメのオブジェ。私は本稿を書くまでまったく知らなかったのですが、「かもめ食堂」という群ようこさんの小説と、小説が原作の映画があるそうで、フィンランドの首都・ヘルシンキで日本食食堂を開店した日本人女性が主人公。ヘルシンキは港町で、カモメは日本のスズメのように最もなじみ深い鳥なのでしょう。

「西武池袋線飯能駅リニューアル」は、鉄道建築協会の2019年度協会賞作品部門で入選作品に選ばれました。「既存駅舎のリニューアルで、本物のフィンランドを実現するという今後の駅リニューアルの可能性、多様性を大きく広げる案件となった」が受賞理由です。

経営主体は投資法人 以前は西武のレジャー施設でした

ムーミンバレーパークにアクセスする飯能駅北口。駅ビル「PePe」を併設します。

駅を降りて、北口からアクセスバスでパークに向かいます。ムーミンバレーパークがあるのは、飯能市の宮沢湖畔。宮沢湖は人造湖で、ムーミンパーク以前は西武が「レイクサイドパーク宮沢湖」というレジャー施設を運営していました。

パークを開設したのは、フィンテックグローバルという東京に本社を置く投資法人で、運営会社のムーミン物語は投資法人の子会社です。フィンテックとフィンランドは、名前は似ていますが無関係。金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、スマートフォンを使った送金などが新規技術の代表例です。

フィンテックグローバルは2015年、西武鉄道から宮沢湖と湖畔約19ha(湖面を含めると約35ha)の用地を取得。湖周辺がフィンランドの風景に似ることから、ムーミンのテーマパークを発想しました。

開園は2019年3月で、それ以前の2018年11月にショッピングやレストランの無料エリア「メッツァ(フィンランド語で森)ビレッジ」を先行開業。メッツァとムーミンパークは、埼玉県南西部の新しいスポットとして定着しています。パーク運営には鉄道事業者もノウハウを提供するそうです。

旅人になって北欧を体感

昼のムーミンバレーパークはミュージカルのステージショーを開催します。昼はファミリー向け、夜はカップル向け。

ムーミンはフィンランド人作家のトーベ・ヤンソンの「ムーミン・シリーズ」が原作。日本では1969年からテレビアニメが放映され、家族で楽しめる番組としてお茶の間の人気を集めました。テーマ曲はアニメスタンダードです。

パークに機械仕掛けの大型遊具はなく、来訪者は旅人となって自然あふれる空間で〝挑戦、創造、共有、解放、探求、創造〟などをキーワードに北欧の文化や暮らしを体感します。展示施設「コケムス(フィンランド語で体験)」のほか、おさびし山、水浴び小屋、灯台といった物語に登場する施設がムーミンの世界を再現します。

そして、今冬の新しいアトラクションが「ウィンターワンダーランド・アドベンチャーウォーク」。宮沢湖の周囲約2kmを徒歩でめぐりながら北欧の冬を表すイルミネーションを鑑賞、コース全体が一つのストーリーになっているのがミソです。

木々のイルミネーションが宮沢湖の湖面に映ります。

ある夜、冬眠から目覚めたムーミンが外に出るとそこは一面の雪。ムーミン谷に登場するリトルミーやスナフキンといった物語の登場人物のほか、忘れん坊のリス、大きな白い馬、氷姫との出会いや冒険を通じ、春に向かって大人への一歩を踏み出す――。

暗闇に浮かび上がる白い馬。

アトラクションは2020年11月21日~2021年3月7日。17時スタートで20時まで。宮沢湖周回コースは延長約2km、所要時間約1時間。インスタグラムフォトコンテストなどのイベントも開催しています。

ICTでムーミンになる

アトラクションは、ICT(情報通信技術)を駆使したSound ARというコンテンツが技術的ポイントです。来場者は、スマートフォンに「Locatone」というエンターテインメントアプリをインストール。ムーミンバレーパークチャンネルからツアーデータをダウンロードして、「ツアー開始」ボタンをクリックすると物語が始まります。

開発企業はソニーホームエンターテインメント&サウンドプロダクツで、ソニーブランドのテレビやラジオ、オーディオ機器などのメーカー。GPSを利用してコース上の位置に応じてナレーションを流すほか、身体連動機能で、例えば来場者が足を踏み出すとイヤホンから雪を踏み締める音が流れる音の演出で臨場感を高めます。

ムーミン物語とソニーの担当者の話では、「今は多くの方がスマホを持っているので、三密回避の狙いも込めてスマホ利用のアトラクションを考案しました」とのこと。今後、鉄道関係のイベントでも利用できる場面がありそうです。

ムーミンパークへはMaaSで

ラストは交通の総合情報基盤・MaaSの話題。経路検索サービスのジョルダンとムーミン物語、それに西武バス、国際興業、イーグルバスのバス3社は飯能市の協力を得て、モバイルチケット企画券「Meets! HANNO Pass(ミーツハンノウパス)」を売り出しています。

ジョルダンが力を入れるMaaSの新機軸で、パーク入園券、飯能駅(西武)か東飯能駅(西武、JR東日本)からのシャトルバス往復乗車券、飯能市内の店舗で優待が受けられるクーポン券をセットして割引価格で提供します。ジョルダンの「乗換案内」アプリなどから購入が可能で、スマホにチケット券面が表示されます。日本人入園客のほか訪日外国人がターゲットで、販売、利用ともに2021年1月11日まで。

※……「東飯能駅」~「メッツァ」間のシャトルバスは運休中です(2020年11月時点)。

文/写真:上里夏生

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