衆院選はいつ?2020年末に考える来年衆院総選挙4つのシナリオ(選挙コンサルタント・大濱崎卓真)

早いものでどこに行ってもクリスマスソングが聞かれる時期となりました。さすがに永田町ではクリスマスソングで浮かれるような状況ではありませんが、12月5日に会期末を迎える臨時国会は延長の見込みもほぼ無くなり、いよいよ衆議院議員総選挙は来年2021年に持ち越すことがほぼ確実となります。これまで何度か「衆院選シナリオ」を書いてきましたが、2020年の年末にあたって、来年の衆院選スケジュールのシナリオと展望をまとめておきたいと思います。

首相官邸公式Facebookより

シナリオ1(通常国会冒頭解散)

無いと言われている通常国会冒頭解散ですが、一応シナリオなので紹介はしておきたいと思います。来年の通常国会は1月に召集されますが、その召集とともに解散総選挙を行うというのが、このシナリオです。

政府与党側の思惑としては、コロナ感染拡大や経済不況の不確実性が増す前で、かつ比較的内閣支持率の高いうちに解散を行ってしまうことで、議席減リスクを最小限に抑えたいという考えがあります。一方、現状においても第1波・第2波を超える「第3波」の到来と言われている中での解散総選挙は国民の理解を得ることは難しいでしょうし、国会議員の感染も言われている中で大きく人が動く選挙を行う是非が問われることになります。また、菅内閣誕生直後にも解散が噂される中で、「仕事をしたい」という菅総理のメッセージが伝わったことで早期解散はないという共通認識が生まれましたが、現状では組閣からまだ数ヶ月という状況であり、菅総理の実績というのも乏しい状況を考えれば、何を大義名分に選挙を行うのか、という根幹の部分も見えてきません。

現実的な日程選択も厳しいところがあります。まず、通常国会は1月中の召集が法的に義務付けられていますが、一方で本予算(令和3年度通常予算)を年度内(3月31日)までに通そうとするならば、衆院通過を2月中に行うのが鉄則とされています。来年度本予算はそもそもシーリングも含めて1ヶ月遅れで策定されていますから日程の猶予は全くありませんが、これまでの通例から考えれば、予算の実質審議には15日程度は最低でも必要と言われており、どれだけ遅くとも2月8日には予算委員会で審議入りする必要があります。そうすると、2月1日〜5日の間に、国会開会の一連の流れに加えて、委員会の委員長選任や理事専任といったいわゆる「店開き」が必要になります。

その前に選挙を入れようとすると、投開票日は1月31日か1月24日に絞られます。1月31日投開票であれば公示日は19日となり、召集を4〜8日に行って即解散であればスケジュール上は成り立ちます。1月24日投開票であれば公示日は12日であり、4日召集即解散しか選択肢はないでしょう。ただ、現実問題として先ほどの予算委員会の審議に「第3次補正予算」の審議を入れたり、年末年始の休暇分散を政府が民間に要望している実態を考えれば、1月中の解散総選挙はもはや非現実的と言えます。自民党の森山国対委員長も第1週の召集はできないとコメントしていることから、実質的に永田町ではこのシナリオ1はなくなったとの見方が大勢です。

 

シナリオ2(通常予算成立後の4月)

2つ目のシナリオは、通常予算成立後の解散です。シナリオ1で述べてきた通り、今年度中に第3次補正予算や本予算を成立させるためには、スケジュールが厳しい状況であり、これらをオンスケジュールで実現させることができたとすると、まともに考えた解散総選挙の最初のタイミングは、3月末の通常予算成立後という筋です。

メリットとしては、菅内閣としてこれまで訴えてきた各種の政策に対して予算が割り当てられることで政策実現の素地が固まり、菅内閣としての実績を訴えることが可能になります。ただ、予算根拠がついただけという状態では、実績を国民が享受できるタイミングではないため、デジタル庁設立などといった目玉政策の実現見通しの話などがメインになってくるのではないのでしょうか。また、この時点では東京オリンピック・パラリンピックの最終的な開催可否判断も見えているはずですし、新型コロナウイルスのワクチンも医療従事者や要リスク者には回り始めている可能性が高いでしょう。

一方、通常国会の予算審議においては与野党の対決がどの程度になるかも注目です。総選挙の年の予算委員会ともなれば、与野党が支持率の上昇を狙ったパフォーマンスを過激化することも考えられます。一般的に内閣支持率は内閣発足直後が最も高く、そのあとは漸次低下傾向となることを踏まえれば、4月の時点ですでに「追い込まれ解散」と言われる可能性もあります。また、シナリオ1を見送る時点で、シナリオ2の場合の感染状況や経済状況の見通しは立たないでしょうから、経済的苦境から年末や年度末を乗り越えられないで倒産する事業者が大きく増えたり、コロナ感染者が拡大し続けたりするようなことがあれば、解散総選挙が政府与党には大きなリスクとなるでしょう。

 

シナリオ3(東京都議選とのダブル選挙)

3つ目のシナリオは東京都議選とのダブル選挙です。東京都議会議員選挙はまだ最終的な日程が選管からは発表されていませんが、前回は6月23日告示〜7月2日投開票で行われたことを考えれば、同様の日程か少し早い日程で行われる見込です。1月に通常国会を開いて延長がなければ、会期150日はちょうど都議選の時期と被るため、会期末の解散総選挙が浮上するわけです。

この「都議選」とのダブル選挙は、シナリオとしては本来ありえないものです。というのも、過去3回で第一党が民主系→自民系→都ファと入れ替わってきた都議会において、毎回同じ議席を保ってきた公明党の存在があるからです。連立与党である公明党は、この都議会議員選挙の前後3ヶ月の総選挙を嫌います。特にダブル選挙となれば大きな活動量が求められるため基本的にはダブル選挙を嫌がる傾向にありますし、自民党もそれに配慮するのが通例でした。

これが原則ではありますが、公明党の状況も微妙に変わりつつあります。今年11月の大阪と構想住民投票では、大阪という地域限定とはいえ、自民と公明が賛成反対で割れる結果となりました。最終的に住民投票は否決されましたが、「賛成」側についていた公明党の票が二分されてしまっていたことから、常勝関西とも言われる大阪の公明党・創価学会の力に陰りが見えたのも事実です。また、河井議員夫妻の買収容疑事件で自民党が空白区となっている広島3区に公明党が候補者を擁立することを決定したことは、自民党と公明党の将来的な協力体制に疑問を残すこととなりました。岸田氏のお膝元である広島で公明党が小選挙区から擁立を決定するという状況に対し、現時点で自民党から対抗できるメッセージは出せていません。このまま公明党の擁立を認めるのかどうかも焦点ではありますが、そもそも菅総理にとってかつては敵でもあった公明党との関係性をどうするのかにも注目をすべきだと思います。

ということで、このシナリオ3は、自公の関係性がさらにギクシャクすることがあれば、可能性としてはゼロでは無いというレベルのシナリオです。現実的には、自公の選挙協力体制が全国規模で崩れてしまえば、自民党は小選挙区1つに対し約1万票を減らす計算となることから大幅な得票数減が確実視されますし、公明党も貴重な小選挙区を自民党に明け渡す可能性が出てきます。その結果は当然国会の議席数にも影響を与えることとなり、3分の2はおろか、過半数を意識しないといけないほどの厳しい選挙になるでしょう。このような状況は自民も公明も望んでいないはずですので、最終的にはどこかで折り合いをつけると思われます。

 

シナリオ4(任期満了間近の解散もしくは任期満了)

これは前回の記事でも書いたシナリオですが、現状から最も可能性が高いのは、任期満了間近の解散もしくは任期満了による総選挙でしょう。「コロナ対策に集中するため」ということであれば、追い込まれとの批判を浴びることは少なく、また政治的空白を避けたと評価されることになります。一方、この場合は菅内閣としての実績が問われることになりますから、コロナの感染をどの程度抑えることができているのかということや、東京五輪の経済効果に対する評価なども選挙の焦点となるはずです。結果的にこれまでの「アベノミクス」やコロナ対策としての景気対策が効果的ではなかったというような風潮が強まれば、一気に野党有利となる可能性もあります。もちろん、そのためには野党側にも政権担当能力があることを示す必要があります。

東京オリンピック・パラリンピックが予定通りに開催されると想定して、閉会後即座に臨時国会を開いて召集するか、もしくは任期満了による総選挙かは、もはや細かいスケジュールの調整レベルの話です。10月21日の衆議院議員任期満了から逆算すれば、このシナリオ4は公示〜投開票のパターン組み合わせが3つほどしかありません。その中で自民党総裁選とダブルトラックでどのように与党が演出をしていくのかという点や、オリパラ効果を最大限に発揮した選挙戦を展開するかが鍵となるはずです。また、この時期までにワクチン接種の進捗が広く国民に進めば、「コロナに勝った」総理としての実績を前面に出すことも考えられることから、やはりシナリオ4が政府与党内で描かれている濃厚なシナリオではないかと考えます。

 

以上、4つのシナリオを書きました。特にシナリオ2やシナリオ4については、選挙コンサルタントとして具体的な日程候補や重複する他選挙へのシミュレーションなども考えているところですが、何より菅総理が「仕事をしたい」ということを前面に出していることを考えれば、「菅内閣としての成果が出るまでは解散総選挙はない」、と言い切れると思います。いつ解散総選挙があるかは、「コロナが収束する」や「経済が復帰基調になる」といった大仕事をいつ国民が感じることができるか(または感じることができずに時間切れとなって任期満了の選挙を迎えるか)ということに言い換えられるでしょう。

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