乙武洋匡さん「会話が広がれば、きっかけが障害でもいい」パラトリエンナーレ公開トーク

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障害者と多様な分野のプロフェッショナルがコラボレーションする現代アートの国際展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ 2020」(主催:ヨコハマランデヴープロジェクト実行委員会)。そのイベントの1つ、「パラ枠を超える伝えかた」をテーマにした公開トークに、乙武洋匡さんが登壇した。

乙武さんは、四肢欠損で生まれつき手足がなく、大学3年のころの著書『五体不満足』がベストセラーとなったことで知られている。常に特別視されて育ち、大学卒業後はスポーツジャーナリストや東京都の教員を経て、政治家を目指すもスキャンダルが報道され、目指す方向を変えた。

多忙な日々から一転し、2017年には37カ国を放浪。帰国後、パラスポーツなども取材、YouTuberとなった。義足エンジニアの遠藤謙氏とともに義足で歩けるようになることを目指す「乙武プロジェクト」にも取り組む日々。

この日、聞き手を務めたのは、車椅子インフルエンサーの中嶋涼子さん。お互い障害を持つ当事者であり、YouTuberでもある共通点をもっている。

パラトリエンナーレの看板企画である「パラトリテレビ」を率いた中嶋さんと、当事者発信の大先輩である乙武さんが、「パラ枠を超える伝え方」について公開トーク。そのハイライトを紹介します。

“障害者の代表”にされることが煩わしかった

乙武:僕は本(『五体不満足』)が売れて、進路を考えていた頃(22歳)、福祉やバリアフリーに従事する進路が自然だと思われていました。でも、本を読んだ方はわかると思いますが、僕自身は福祉の道へ進みたいとは思っていませんでした。幸か不幸か顔が売れた自分が福祉に進めば、やっぱり「障害者は福祉」という固定概念がロックされてしまう。逆に、意外性のある分野で期待を裏切りたいと思いました。

当時はまだパラリンピックが知られていないような状況で、障害者とスポーツのつながりが見えていなかった時代でしたけど、体を動かすことやスポーツを観ることが好きだったので、スポーツを仕事にしたら、「え? 障害があるのに? そんな分野で!?」と、いい意味で(世間を)裏切れるかなと思ったんです。

もう一つは、私自身がメディアに取り上げられるとき、いつも自分はすべての障害者を代表することはできないと説明しても、番組の尺の都合とかでカットされ、結局、障害者を代表する形になってしまうことが煩わしかった。それで、自分が語るよりもスポーツライターとしてアスリートの頑張りを黒子として書く方がラクだなぁと思ったのはありました。

中嶋:それで、知名度があって、誰もが知っている乙武さんはジャーナリストになったんですね。

乙武:最近YouTubeだけでなく(インターネット番組の)Abema TVで水曜日のメインキャスターとして出演しています。多くのテレビの場合、画角がバストアップなのですが、Abema TVは首より上なんです。

そうすると、Abema TVをみて僕を知った若い人は、YouTubeで初めて全身を目にして、乙武さんて手足ないんですか!? って驚いて書き込みしてきたりするんです。

「あの人、障害者で車椅子で活躍してるよね」じゃなくて、「ニュース番組で司会やってる人がじつは手足なかったんだ!」ってなるんです。時代は来るところまできたんだなと思います。

“感動ポルノ”など障害者がキーワードに

乙武:スキャンダルの後、海外を放浪していたんですが、その間に相模原市で障害者の方が殺傷される事件があり、リオパラリンピックがあり、24時間テレビに対して初めて“感動ポルノ”という批判が沸き起こったりしました。けっこう世の中で障害者がキーワードになるようなことがありました。

ただ、そういう話題が出ると、自分は自粛していると言っても、メディアがコメントを求めてやってくる。2年経っても日常的にメディアに出る障害者が現れなかったので、乙武しかいないのは不健全だが、乙武すらいないのはもっと良くない。そこで、のこのこ戻ってきたわけです(笑)。

それからまた2年たって、いまは車椅子にのったアイドルやYouTuberが増えてきたと思います。若手が充実してきたので、もう引退してもいいかなと思っています。

中嶋:みんな乙武さんに憧れているんです。

乙武:憧れているようなことじゃダメなんですよ、「あのオッサン老害だから追い出そう!」って、ガツガツこないと。

中嶋:私は、“乙武超え”めざしてますけどね、なかなか超えられません。「中嶋さん車椅子だったんですね!」って言われるレベルに到達するってけっこう大変なことですよね。

健常者から障害者はどう見えるのか

乙武:LGBTQの方々も同じ悩みを抱えています。(もと女子フェンシング日本代表でLGBTQの当事者活動をしている)杉山文野さんもそう言っていました。

メジャーなところで活躍するには障害を持つ当事者の文脈じゃないところで活動しないとって。健常の視聴者がみて、なるほどね、と言われることもしゃべれないと、さらに話が広がっていかないでしょう。

中嶋:乙武さんはスポーツライターの経験が活きていますよね。後輩に対してアドバイスはありますか?

乙武:経験は役に立っていると思います。僕も芸能とか、正直興味なくてもコメントしないといけない。興味ないことでも勉強が必要。いまは誰でもYouTuberとして発信できるから、自分の番組でインタビューをして知識を伸ばすということができると思います。

中嶋:実は私もYouTubeで人生が変わりました。喋るのが面白くなって。

きっかけは自分の障害かもしれないけど、そこから会話が広がります。障害をきっかけにしてもいいと思います。

乙武:僕も同じ考えです。伝える側として興味を持ってもらうには、障害者でなければ理解できないことが軸になる。

でも、その立場だけで発信をすると、障害に関わりない人に響かない。健常者から見た障害者ってどう見えるのか?知っておく必要がありますよね。

パラ枠を超える発信へ

障害の当事者+YouTuber同士の2人。核心に迫る話題を交えながら、ハロウィンで本物の死体と間違われるという自虐ネタを披露するなど、過去のスキャンダルが転機となり成長を重ねた現在の乙武さんに学び、リラックスした雰囲気で行われた。

また、会場は、コロナ感染増で一般席が撤去されたが、中嶋さんをリーダーに、約3カ月で6回のオンライン会議を行い「パラ枠をこえる伝えかた」について話し合った「メディアラボ」のメンバー20人(=障害の当事者や、障害を伝えることに関心のある人など)が集まっていた。

ヨコハマ・パラトリエンナーレは、3年に1度、横浜トリエンナーレの年に開催される。3回目となる今年は集大成となるイベントが企画されていたが、コロナ禍により当初予定していた全プログラムの大幅な変更を余儀なくされた。

しかし極めて稀なこの機会に、これまでマイノリティのみが抱えていた困りごとをマジョリティと共有し、コロナ収束後の共生社会づくりを見据えた、新しいプログラムへと創り変えた。

横浜市役所新庁舎での展示は終了したが、結果として同イベントのほとんどのプログラムはオンラインでも楽しむことができる。コロナという人類共通の危機に、国内外の多様なクリエイターが力を合わせた産物であることも合わせて鑑賞することができるだろう。

(取材・文:佐々木延江/編集:毛谷村真木