なおも先を見る

 「ハイヤ」とは南風を言うらしい。平戸市田助町はその昔、航海に出る船が順風を待つ「風待ち」の港町で、多くの船が出入りした。船乗りの酒盛り唄から生まれた民俗芸能、田助ハイヤ節は、全国に数あるハイヤ節などのルーツとされる▲そのことを仲間や専門家とともに突き止めたのが土肥(どい)テイさん(87)。地元で伝え続けようと、子ども教室も開いてきた。歩んだ道を振り返れば、小学生の「甲高い歌声」が聞こえてくるという▲きのう長崎新聞文化章の贈呈式があり、受章したお三方が「これまで」と「これから」を語った。精神医学の研究に尽くした中根允文(よしぶみ)さん(82)は、差別や偏見の絶えないこの社会をずっと案じ続けている▲新型コロナによるうつ病と、感染者への差別や偏見という新たな問題もある。「おまえさん、もっと頑張れよ」。心でそんな声が響くという▲「音楽が人生からなくなってはいけない」と、プロオーケストラ「長崎OMURA室内合奏団」を育てた村嶋寿深子(むらしますみこ)さん(84)は語った。コロナで合奏団の活動がいっとき止まり、その思いを深くしたらしい▲「年長の土肥さんにきょうお会いして、私ももっと頑張らなくてはと思っています」と村嶋さん。こうべを垂れるほかない。道を究め、道を切り開いた方々が、なおも先を見ている。(徹)

© 株式会社長崎新聞社