河北抄(11/28):「現代に半跏思惟(はんかしゆい)像が出現…

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 「現代に半跏思惟(はんかしゆい)像が出現したと思いました」。宗教学者の山折哲雄さん(花巻市出身)は、南相馬市の作家柳美里さんと初めて会った時の印象をそう表現した。顔の表情が似ているとか。2人の対談集『沈黙の作法』にあった。

 「若い頃、よく言われました」。そう応じた柳さんの著作『JR上野駅公園口』が、米国の権威ある文学賞の一つ、全米図書賞(翻訳文学部門)に選ばれた。

 1933年、上皇さまと同じ年に福島県相馬郡八沢村(現南相馬市)で生まれた男性の生涯が、今と過去を行き来しつつ相馬弁を交えて語られる。でも郷愁を誘う心温まる類いの物語ではない。出稼ぎや公園暮らしといった、なかったことにされがちな現代の断面がそこにある。

 対談集で山折さんは、広隆寺(京都市)の半跏思惟像の「眼(め)」について「見ている世界は非常に多重的」「近くではなく、むしろ遠くを、思惟の世界を眼差(まなざ)している」とも評していた。

 小説には作家の視線が捉えた現実世界が凝縮している。受賞作は重版中。仙台市内の書店には12月上旬に並ぶという。