刃物の「柄」と蒔絵の「繪」、新しい工芸に触れられる場『柄と繪』

様々なバリエーションの刃物の「柄」と蒔絵といった「漆」に触れられるギャラリー兼ショップが刃物の町に誕生しました。
今回は2020年9月にオープンしたばかりの『柄と繪(えとえ)』の魅力についてご紹介していきます。

越前市の南東部、龍神山の麓にある池ノ上工業団地。
周辺には越前打刃物の工房が多くあるほか、大きいトラックや重機が頻繁に行き来していたり、機械が作動する音が聞こえてきたりと工業団地の雰囲気が感じられるエリアです。

2020年の9月にこの池ノ上町に新しくオープンしたのが、柄と繪(えとえ)。
さまざまなバリエーションの刃物の「柄」と蒔絵などの「漆」に触れられるギャラリー兼ショップです。

べんがら色をした外壁と大きいガラス窓が開放的。写真提供:柄と繪(photo by Takano Tomomi)

柄と繪があるのは、福井県越前市。
昔から越前打刃物の産地として名を馳せてきたエリアです。
越前打刃物には700年ほどの歴史があり、鋳造技術や職人の手研ぎの技術が高く評価されたことで、全国で刃物としては初めて伝統工芸品として指定されました。

刃物と聞くとどうしても刃の切れ味などに目がいってしまいがちですが、持ち手の柄の部分に刃物を挿すことで初めて刃物として完成します。
さらに、柄の素材や仕上がりによって安定感や耐久性に影響があるので、包丁の機能を考える上で柄というのはとても大切な部分なのです。

柄と繪を運営する山謙木工所は、1912年創業の老舗。
刃物の町で柄を作り続けています。
なお、刃物の柄だけを製造する会社は福井県では山謙木工所のみで、全国でもごくわずかなのだそうです。

越前打刃物を彩り、陰ながら支える素材、山謙木工所の合わせ技

柄の製造は、最初に加工機械による削り出しを行い、最終は手作業によって1本1本仕上げられます。
だいだいの柄は加工機械により木地の傷が取れるそうですが、細かい傷に関しては機械で取りきれないものもあるようで、そういった物に関しては、一本一本手で磨く必要があるため、かなりの手間と技術が必要となるそうです。

そして、さらに驚きだったのが、柄の形にも種類がいくつかあるということ。
山謙木工所では、「しのぎ」、「楕円」、「八角」という3種類の形の柄が作られており、それぞれ形状に応じて少しずつ幅や持った時の感触が異なることから、使用用途で使い分けられるのだとか。
最終的に鍛冶屋で作られた刃の部分と柄とが接合されることで和包丁が完成します。

左から、楕円、しのぎ、八角

また、接合の際、通常であれば削り出した柄に直接刃を挿し込むというのが一般的な技法だそうですが、この技法だと柄に使用できる木の種類が制限されたり、また刃がまっすぐに挿さらずに木が割れてしまうことも。

そんな中、柄を二重構造にすることで、刃と柄双方に負担をかけることなく、まっすぐに挿すことができる独自の特許技術を山謙木工所の先代が編み出しました。
この技術は、包丁の仕上がりの良さと多様な柄のバリエーションの実現を可能にしたそうです。

ちなみに、山謙木工所で柄として頻繁に使用される木材が、深い紫色をした紫檀(したん)という高級材。
黒い紫っぽいような色味が上品でとっても美しいんです。
他にも、黒檀やチェリー、寿檀といった様々な樹種の柄を扱っており、世界でも注目度もますます高まってきているそうです。

刃物と蒔絵に触れられる新感覚のギャラリーショップ

今回柄と繪にお邪魔してお話を伺ったのは、山謙木工所の4代目である山本卓哉さんと、奥様で蒔絵師の山本由麻さん。
現在は、基本的にお二人がメインで柄と繪の運営をされています。

写真提供:柄と繪(photo by Takano Tomomi)

柄と繪の1番の特徴といえば、柄と漆を同時に楽しめるということ。
元々、奥様の由麻さんは、大学時代に漆芸を専攻されていたこともあり、山本さんとのご結婚を機に山謙木工所に入られるまでは、漆器産地である鯖江市河和田地区で蒔絵や塗師としての修行をされていたそうです。
そういった背景もあり、山謙木工所の「柄」と由麻さんの蒔絵や漆塗りの「絵(繪)」の要素を組み合わせた柄と繪が生まれました。

蒔絵が施された柄はカラフルでとってもキュート。いままでの柄の印象が覆されます

福井県の伝統産業は越前打刃物や漆器のほか、和紙箪笥越前焼など多岐に渡ります。
ただ、エリアごとでそれぞれメイン産業が異なるため、他の産地に別の産業が入り込むことはなかなかないのではないかなと思います。
実際に、柄と繪があるエリア周辺には、越前打刃物を製造する工房や、関連する施設はいくつかありますが、刃物×漆といったように伝統工芸と伝統工芸とが組み合わさって共存している施設は目新しく、これは間違いなく柄と繪の特性であり、楽しめるポイントです。

「墨流し」という伝統的な漆塗りの技術を使い、マーブルに彩られた柄

広々とした清潔感ある店内には、様々な刃物や蒔絵が綺麗にショーケースに並べられています。
また、大きいガラス窓から光がたくさん入る檜構造の建物は、見た目だけではなく香りも楽しめるのがポイント。

写真提供:柄と繪(photo by Takano Tomomi)

ギャラリーに展示されているのは、柄と柄さんの近くに工房を構える鍛冶屋さんの越前打刃物。
それぞれの会社によって模様や形、光り方などが全く違っていて、多様な個性を感じとることができます。

また、実際に触らせていただけるため、重さや握り心地などの感触を感じることができます。
同じ素材を使用していたとしても1つ1つ風合いが違っていて、「柄ってこんなにも格好いいんだ......」と思わずうっとりしてしまいました。

柄と繪では刃物や蒔絵のほかに、廃棄される柄の部分に漆絵を施したアクセサリーも販売されています。
木の温かい雰囲気や素材による色味の違い、漆特有の落ち着きのある質感がとっても可愛いです!

写真提供:柄と繪(photo by Takano Tomomi)

それぞれの形は柄の部分の形によって少し異なります。
ころんとした栗のようなフォルムをしているものは、「しのぎ」という柄の形状の種類なのだそうですよ。

写真提供:柄と繪(photo by Takano Tomomi)

そして、店内を見渡していると、ガラス越しに大量の木材が積まれているのが目に入りました。
実は、乾燥途中の柄の素材が保管されているストックヤードがガラスのすぐそばに配置されており、店内からもその様子が見られるようになっています。

このストックヤードに置かれている木材は乾燥途中のもの。
というのも、柄に使用される木材は2年から3年もの期間をかけて、しっかりと乾燥させなければならないそうです。
ちなみに、赤道に近いほど木は黒っぽい色味になるらしく、海外から輸入して利用されている木材もあるのだとか。

インドから運ばれてきた木材の数々

実際に作っている方から、1つのものが出来上がるまでの過程を教えていただけるのは、なかなか貴重な体験。
こういった話を聞くとワクワクして、購入前から愛着が湧いてしまいますね。

写真提供:柄と繪(photo by Takano Tomomi)

なんと他にも柄と繪には、包丁の試し切りや料理教室なども行えるキッチンスペースや、2階には講演会や勉強会ができるミーティングスペースがあります。

木の香りでリラックス。普段は従業員さんの憩いの場に

今後は、「包丁の研ぎ方ワークショップ」や「漆絵体験」といった、柄と繪ならではのワークショップの開催など、構想中のコンテンツが盛りだくさんなんだとか。
なお、包丁のお手入れ方法といった耳寄り情報もリリースされているので、詳細についてはInstagramをチェックしてみてくださいね!

刃物というのは日々の生活に当たり前のように溶け込んでいる存在で、特に包丁は料理をする時に欠かせないツールです。
しかし、切れ味が悪い包丁というのは、調理上不便というだけではなく、怪我の原因になってしまう恐れもあります。
したがって、毎日使うものだからこそ、使用感や耐久性など品質にこだわりを持つことはとても大切。

さらに、越前打刃物をはじめとする和包丁は、丁寧にお手入れをすれば数十年も使えるため、料理好きな人ほどその魅力に魅せられることでしょう。

柄と繪は、「包丁ってどんな種類があるの?」「包丁のお手入れや長く使用する上でのコツを知りたい!」「質のいい包丁ってどんなもの?」といった風に、ワンランク上の料理の相棒をお探しの方や、刃物についてもっと知りたい方に特に訪れていただきたい場所です。

お店の詳細情報は以下でご紹介しています。

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