グラディス・ナイト、パティ・ラベル、ディオンヌ・ワーウィックの珍しい共演「Superwoman」

Gladys Knight and Patti LaBelle at the 1994 Soul Train Awards; Photo: L. Cohen/WireImage

グラディス・ナイト(Gladys Knight)の豊かで時に掠れる歌声は、曲の中枢へと切り込む。1952年、とあるバースデー・パーティーでアトランタの人々を感心させてから、1990年まで彼女は家族で構成されたバックアップ・グループ、ピップスと一緒にパフォーマンスしていた。1970年代後半、2年ほど契約上の問題で一緒にパフォーマンスできない時期もあったが、数十年にわたってヒットを飛ばし続けたグラディス・ナイト&ザ・ピップスは、スィート・ポテトとパイのようにしっくりまとまっていたのだ。

1987年、MCAからの初のアルバム『All For Love』をリリースした後、ナイトはソロで活動することを決意した。ミシガン・シチズン紙には「グループ活動は言ってみれば、延期にしたんです」語っている。彼女のコンサートは大変人気があったため、ツアー自体は続けたが、曲を足したり削ったりしてオーディエンスに新しい方向性を示した。「ザ・ピップス抜きのグラディス・ナイト&ザ・ピップスのショーをステージでやりたくありませんでした」と、ロサンゼルス・タイムス紙の取材で話している。

オリジナルはキャリン・ホワイト

新しいセットリストに加えた曲に「Superwoman」がある。新人だったR&Bシンガー、キャリン・ホワイトが1989年にヒットさせたバラードだ。人気急上昇のプロデューサー・チーム、アントニオ“LA”リードとケニー“ベイビーフェイス”エドモンズ、そして、彼らの影のパートーナー、ダリル・シモンズが作った曲であり、ある女性が自分の恋愛における思いを、情熱的に相手にぶつける内容だ。

歌詞では「時々抱きしめて愛情を示してくれるだけでは、もの足りないの」と歌っている。レコーディング時、ホワイトは20代であり、曲の切なさをほとんど理解できなかった。ミネアポリス・スター・トリビューン紙の取材で、ホワイトはこう応えている。

「最初は、陳腐な曲だと思いました。なんとか私なりにあの曲に共感できるようにはしたんです “Superwoman”に出てくる女性は、必ずしも私ではない。結婚もしていなかったし、精神的に曲を理解していたとも言えないですね。どうしたかというと、私の母がスーパーウーマンだったことを思い出したんです。私の父は家族を捨てたので。歌っている間は、母に想いを馳せるしかありませんでした」

グラディス・ナイト、パティ・ラベル、ディオンヌ・ワーウィックのカバー

ホワイトにとって感情面で難しかった曲は、当時、2回の結婚と離婚を経ていたグラディス・ナイトにはどんぴしゃで当てはまり、心から痛みが伝わるように歌い上げた。ある夜、彼女がステージのこの曲を歌った際、オーディエンスにMCAの重役、ルィール・サイラス・ジュニアがいた。そして、彼女の歌に非常に感動した彼は、同レーベルからの初のソロアルバムに収録するように提案したのだ。彼のアイディアはそこで終わらなかった。

彼は、R&Bの同胞でも友人でもあるパティ・ラベルとディオンヌ・ワーウィックと一緒に歌うように提案したのである。3人はすでに「シスターズ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラブ(愛のもとに集うシスター達)」というタイトルの合同ツアーを計画していたため、「あの曲を一緒にレコーディングするのは理に適っていると、私たちは思ったんです」と、ナイトはビルボード誌に語っている。

彼女達の「Superwoman」は、アニタ・ベーカーの出世作『Raputure』にも関わったマイケル・パウエルがプロデュースし、魂をむき出しにした懇願の曲というよりは、音楽をつけたキッチン・テーブルでの会話のように仕上がった。それぞれのヴォーカル・スタイルを反映して、気持ちが離れてしまった男性をどう感じているか歌っているのだ。ナイトの歌声は長年、彼との問題に耐えてきたように聞こえる。ワーウィックは争いから抜け出そうと決断したようだし、強烈に張り上げるラベルの歌声は、最後の音符を歌い切った途端、その恋愛関係を終わらせるように響く。

3人は、『ザ・オプラ・ウィンフリー・ショー』など高視聴率のテレビ番組に出演して一緒に歌った。黒人向けのラジオ局は大歓迎し、R&Bのトップ20に入った。この曲は、(南部の人種差別的な)ジム・クロウ法があった時代から、オバマ政権、そして現在のトランプ政権を通してキャリアを築き上げた3人のアフリカ系アメリカ人女性の絆の証となったのである。彼女達は特殊な能力ではなく、それぞれの自制心と立ち直る能力、そして信仰を合わせた力をもって、キャリアを長続きさせた。だからこそ、彼女達の「Superwoman」は元気を与えるのだ。それは、闘いの物語を共有した勝者達の歌なのだから。

Written By Craig Seymour

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