中川家と鉄道を味わい尽くす旅 クラブツーリズムと吉本が「よしもとスマイルクラブ50」創設 旅行会社の鉄道ツアーを考察

発表会で鉄道愛を熱く語る弟・中川家礼二さん(右)に鉄道に興味がない兄・中川家剛さんはあ然。 ここで突然、鉄道チャンネルの人気企画「鉄道クイズ番外編」です。礼二さんは鉄道の何を表現しているのでしょうか(正解は本文最後) 写真:「よしもとスマイルクラブ50」オフィシャルフォト

今回は旅行会社が主催する鉄道ツアーを取り上げましょう。一般紙やテレビ、旅行・交通系メディアは、「空前の鉄道ブームに乗って鉄道ツアーが人気」なんて当たり前のように書くわけですが、そもそも鉄道ツアーとは何か、個人やグループで行くのとどう違うのか、入り口からたどります。

最新の話題は、近鉄グループホールディングス傘下の旅行会社・クラブツーリズム(クラツー)が、よしもとセールスプロモーションと共同で立ち上げた「よしもとスマイルクラブ50」。50歳以上のシニアを主なターゲットに、吉本の芸人がガイドを務める「鉄道旅」などを催行します。本稿では鉄道芸人としておなじみの中川家礼二さんも登壇した2020年11月17日の発表会の様子を紹介し、最終章では第三セクター鉄道が企画した人気ツアーにも触れます。

「よしもとスマイルクラブ50」のサイトイメージ 画像:クラブツーリズム

キーワードは「アクティブシニア」と「テーマ旅行」

発表会には漫才の西川のりお師匠が乱入。印象に残った旅は北海道レンタカー紀行だそうです。 写真:「よしもとスマイルクラブ50」オフィシャルフォト

「クラブツーリズムの顧客はアクティブシニア層が基盤となっており、シニア層の持つ〝学び〟や〝コミュニティ形成〟への意欲を商品づくりに活かした『テーマ旅行』を20年以上展開してきました。今回の共同企画では、多彩な趣味を持つよしもと芸人と、クラブツーリズムの『テーマ旅行』を融合させた『笑いのある旅』を展開いたします」。

クラツーの発表資料の引き写しですが、よしもとスマイルクラブ50の狙いを、この4行が言い尽くしています。「アクティブシニア」「テーマ旅行」という2つのキーワードを掘り下げてみましょう。

アクティブシニアとは読んで字のごとく元気なシニアのこと。発表会で、よしもとセールスプロモーションの稲垣豊社長も話していましたが、2023年には日本の人口の半分が50歳以上。従来は消費の主役だった10~20歳代は、旅行に積極的ではありません。そういえば鉄道イベントに行っても、最近は子どもたちをあんまり見掛けない気も。稲垣社長は、「バブル経済を経験したシニアは消費意欲が旺盛」とも話していました。

JR東日本の「大人の休日倶楽部」とか、東急グループの「東急線・東急バス サブスクパス」とか、東京メトロの「シニア東京メトロ24時間券」とか、鉄道業界にもシニア向けの商品やサービスがあふれています。

テーマ旅行は、写真を撮るとか、俳句を詠むとか、スケッチするとか目的を持って出掛ける旅行のこと。スマイルクラブの旅行目的に「親孝行」「歴史」「仏教(講師はM―1チャンピオン・笑い飯の哲夫さんです)」とあれこれある中で、重要なテーマの一つが鉄道旅です。

「かぎろひ」と「楽」で宇治山田へ

フォトセッションには漫才若手のミキも(後列右から2、3人目)。前列右端はクラツーの中村朋広取締役・テーマ旅行本部副本部長。お笑い芸人ではありません。 写真:「よしもとスマイルクラブ50」オフィシャルフォト

鉄道ツアー第一弾は、まだ相当先ですが2021年4月24日日帰りの「中川家&近鉄広報福原さんの爆笑鉄道トーク!クラブツーリズム専用列車『かぎろひ』、(近鉄の団体専用列車)『楽』W乗車 伊勢の旅」。大阪発と名古屋発で、長~いタイトルを見ればどんなツアーか想像できるでしょう。発表会での話では、スイッチバック区間や短絡線を走行し、宇治山田駅到着後は駅近隣のホールでお笑いライブを鑑賞します。礼二さんは「撮り鉄が沿線に出そうなツアーだ」と予測していました。さすが!

タイトルの福原さんとは、近鉄広報の福原稔浩さん。テレビやラジオ出演も多く、鉄道の魅力を広めます。福原さんのような方に活躍の場を与える近鉄に、私は懐の深さを感じます。

はてさて、クラブツーリズムのツアーに参加すると何かいいことがあるのか。「かぎろひ」と「楽」に乗れる、珍しい路線(区間)を通れる。なるほど。しかし、鉄道ファンは歓喜でも普通の人にはどうでもいい話。でもね、中川家の漫才が聞けるっていうと、鉄道に興味のない奥さんやお嬢さんも「行ってみようか」と思うかも。もっとも仮に同行しても、電車に夢中のお父さんを見直すか、それともあきれられるか、どちらに転ぶかの保証はありませんが……。

10月末に沖縄県で開かれた観光・旅行イベント「ツーリズムEXPO2020」では、近畿日本ツーリストが「近鉄特急の旅」をPRしました。 写真:上里夏生

ツアーだから叶う夢

旅行会社の鉄道ツアーについて、もう少し考えましょう。現在は鉄道ツアー花盛りですが、ちょっと前までは違いました。乗り鉄は列車に乗る、撮り鉄は写真を撮ればいいわけで、きっぷを買って行けば(乗れば)ツアーに参加しなくても目的は果たせる。乗る列車を決めるのが大変そうですが、鉄道ファンは時刻表が愛読書で(ホンマかいな)、行程を組むのが楽しみ。「自分で行った方が自由が利く」と考えるのは、当然かもしれません。

風向きを変えたのは相次ぐ豪華観光列車の登場。この世にたった1編成の列車は、乗る楽しみだけでなく、撮る楽しみや見る楽しみを創出しました。豪華観光列車は鉄道ファンの裾野を広げ、「これは商売になりそう」と踏んだ旅行会社が、鉄道ツアーを相次いで送り出しているのが現状だと思います。

もう一つのツアー目的は、旅の仲間作り。「よしもと芸人もツアーに参加し、同じ趣味(テーマ)のお客様と『歴史の旅』『写真の旅』『親孝行の旅』などを楽しみます」(発表資料から)。「1人で撮影紀行すれば隣りでカメラを構える人はライバルでも、ツアーで行けば仲間」っていうのは楽観的かもしれませんけれど、鉄道ファンの皆さん、「クラブツーリズム よしもと」を時々検索してみて下さい。

ないない尽くしの三セクがヒットを当てる

夜のトンネルを歩く北越急行のツアー参加者 写真:北越急行

最終章はクラツーを離れ、観光専用列車がない、沿線に絶景スポットがないという〝ないない尽くし〟の第三セクター鉄道がユニークツアーをヒットさせた話。新潟県の北越急行は2018年と2019年、そして2020年も「超低速スノータートル『ナイトタートル~夜のトンネル探検』」をSNSの口コミだけで集客しました。超低速スノータートルは、時速10km程度というマラソン選手並みの特別列車。ツアー客は、終電走行後の赤倉トンネルと鍋立山トンネルを徒歩で探索しました。

鍋立山の名に反応した人は、鉄道に相当詳しい方です。1972年に着工したものの、膨張性地山(じやま)と可燃性ガスに行く手を阻まれ、わずか654mの中央工区の掘削に19年も掛かった鉄道建設史上、未曾有の難工事として今に語り継がれます。

北越急行のツアーは、企画性や独自性に優れたツアーを顕彰する「鉄旅オブザイヤー2019」で最優秀賞のグランプリを受賞。豪華観光列車や観光資源のない鉄道でも、ファンはちゃんと見ていてくれるんですね。

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1枚目の写真クイズの正解は「パンタグラフ」です。最近のパンタはほとんどシングルアーム。礼二さんはツルの首みたいな手振りで表現していました。

文:上里夏生

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