最後の配達

 〈…三菱の工場あてのものは特急電報で、配達員は15分で配達しなければならなかった。この厳しい仕事が稜曄(すみてる)には面白かった〉〈稜曄は配達に回る先々の地域ですぐ人気者になった〉〈彼はこの赤い自転車が好きだった〉…▲生き生きと描かれる少年の姿が悲しみとともに迫るのは、長崎に落とされた一発の原子爆弾が一変させた彼の人生と、その後の苦難をほんの少しだけ私たちが知っているからだ。英国人ジャーナリスト、故ピーター・タウンゼント氏が被爆者の谷口稜曄さんらに取材・出版した「ナガサキの郵便配達」から▲2005年の復刊時、同書の巻末に谷口さんはこんな言葉を寄せている。「私は核兵器がこの世から無くなるのを見届けなければ安心して死んで行けません」。その日を待つことなく、谷口さんは3年前に去った▲同書を映画化する動きが始まったのはその1年後。ピーターさんの娘が父の取材の足跡をたどりながら、被爆の実相に触れるドキュメンタリー映画という▲長崎での撮影も行われ、現在は編集作業の終盤。制作費の寄付を募る呼び掛けも並行して続いているそうだ▲スピード自慢の郵便配達員だった谷口さんから届く最後のメッセージ…かもしれない。その手伝いができそうだ。具体的な方法は20日付の文化面に詳しい。(智)


© 株式会社長崎新聞社