あふれ返るごみ… 垣間見えた当たり前の人生 『孤独死』の清掃現場から 

散乱したごみを片付ける水上社長=長崎県内

 誰にもみとられずに自宅で亡くなる「孤独死」の現場で、遺族に代わり、遺品などを片付ける業者がいる。核家族化や独り暮らしの高齢者の増加で、今後も需要が高まることが予想される。遺族側の許可を得て業者に同行し長崎県内の孤独死の清掃現場を取材すると、現代社会が抱える課題が浮かび上がってきた。

 県内の閑静な住宅街。古びた木造2階建ての家のドアを開けると、異様な光景が目に飛び込んできた。
 日本酒やワインの紙パック、半額シールが貼られた総菜のプラスチックトレー、汚れた食器…。至るところにごみがあふれ返り、足の踏み場もなかった。風呂場の浴槽にまで空き瓶が放り込まれていた。

浴槽には空になった酒の瓶が残されていた

 24日、遺品整理や不用品回収などを請け負う「アクアティック ドリームス」(長崎市)の清掃作業に同行した。「ここまでごみの量が多いのは珍しい」。水上亨一社長(51)はそう言って、社員2人と一緒にごみを分類しながら、手際良く袋に詰めていった。
 関係者によると、今年8月、家主だった60代男性が遺体で発見された。死後約5カ月が経過していたとみられる。男性は独り暮らしで、誰にもみとられぬまま最期の時を迎えた。典型的な「孤独死」だった。県外の遺族から依頼があった。

たんすの引き出しから出てきた男性の日記や名刺入れ

 遺体が運び出されてから4カ月近く、屋内は手付かずのまま。社員らがたんすの引き出しなどを開け、中身を確認していくと、日記や名刺、写真が出てきた。細かく、丁寧な文字。きちょうめんな人だったのだろうか。名刺には大手電機メーカー社員や建設関係会社の常務取締役の肩書が記されていた。
 過去2年分のレシートを見ると、ほぼ毎晩、近くの店で酒や、半額になった総菜を購入していた様子がうかがえた。女性社員がぽつりと言った。「働いていたし買い物にも行っていたから、社会とつながることを避けていたわけではないはず。こんな形で命が終わるとは思ってなかったのかもしれない」
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 なぜ、男性は長期間発見されなかったのか。隣家の80代女性によると、男性は十数年前に母親と2人で引っ越してきたという。母親が亡くなり、約2年前からは男性の姿をぱったりと見掛けなくなった。自治会長でさえ「空き家だと思っていた」ほどだ。
 男性宅の郵便受けに大量の郵便物がたまり、隣家の女性が自治会長に相談。警察が中を調べたところ、男性が居間で息絶えているのが見つかった。郵便受けには、新型コロナウイルス対策として国民1人当たり10万円が配られる「特別定額給付金」の申請書が入った封筒も残っていた。
 女性は「もっと声を掛ければ良かったのかもしれない」と気落ちした様子で話し、自治会長も「住みやすい地域を目指していた。男性が自治会に入っていなかったとはいえ、自治会として恥ずべきこと」と唇をかんだ。男性の「死」は、地域の人たちにも「何かできたのではないか」という問いを投げ掛けた。

山積みになった大量の酒の紙パック。階段にも生ごみがあふれていた

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 同行取材を許可してくれた「アクアティック ドリームス」は2017年に遺品整理事業を始めた。依頼件数は当初、年間30~40件だったが、今年はすでに約120件と大幅に増えている。施設や病院で亡くなった人の自宅がほとんどで、孤独死関係は月2件程度。県外の親族からの依頼が多い。近年、長崎市内の斜面地で孤独死するケースが目立ってきているという。
 「孤独死」に関する明確な統計はないが、県警によると、県内の屋内で死亡した独居者の検視件数は▽17年546体(うち65歳以上は391体)▽18年570体(同435体)▽19年584体(同442体)。高齢者の割合が高い。
 清掃の現場は時に過酷だ。臭いが衣服に染みついたり、遺体が見つかった後の浴槽を片付けることもある。ただ、社員らはどこの現場でも故人を敬って作業することを忘れない。社員の山中健吾さん(45)は「誰かが務めないといけない仕事。今後も続けたい」と語る。
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 孤独死の現場に今年「異変」が生じている。世界的に大流行している新型コロナウイルスの影響だ。
 一般社団法人遺品整理士認定協会(北海道千歳市)によると、死後2日以上で発見された「孤独死」の依頼件数は25日現在で約7千件。昨年同期に比べ倍近くに増えた。担当者は「不要不急の外出自粛で人と会わないことが普通になり、発見されたのが最長で1年半というケースも報告されている」と説明する。
 佐世保市の廃棄物処理業者もコロナの影響で孤独死が増えていくことを懸念。「行政や民間、地域で情報を共有し、一日でも早く発見できる仕組みを整えることが必要だし、このような悲しい現場がなくなることを切に願う」と話した。


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