浦上駅前火災で全焼 「まるなか本舗総本店」再起へ 臨時店舗開店 

市民から寄せられたメッセージ付きかまぼこ板を手に笑顔を見せる中村社長(右)と平山さん=長崎市岩川町

 10月に長崎市のJR浦上駅前で発生した火災で全焼し、閉店したかまぼこ店「まるなか本舗総本店」が12月1日、旧店舗付近に臨時店舗を開いて再出発する。老舗の復旧を願う市民からはメッセージを書いたかまぼこ板約300枚が寄せられている。4代目の中村吉治社長(44)が取材に応じ、火災からの日々と再起への思いを語った。
 火災は10月17日午後0時半ごろ発生。店舗2棟が全焼、住宅1棟が半焼し、約14時間後に鎮火した。
 「何が何だか訳が分からなかった」。息子のテニスの試合を見ていた中村社長は、連絡を受け現場に急行。店員は隣接店の呼び掛けもあり早急に逃げ、無事だった。だが、火の回りは早く、あっという間に炎が店を包んだ。ただ立ち尽くすしかなかった。
 戦後間もなく、原子野の浦上に中村社長の曽祖父(そうそふ)が店を構えた。以来、浦上は特別な「創業の地」。中村社長も幼い頃は毎日出入りし、思い入れも強かった。火災から数日後、店内に入ってみると2、3階は完全に焼け、出荷用の箱も燃え尽きていた。閉店を決意し、ホームページにメッセージを掲載した。「このような幕引きとなり非常に残念でなりません」
 だが、一筋の光明もあった。のれんが焼けずに残っていたのだ。「奇跡に近い。先祖やこれまでのお客さまが残してくれたと思った」。たくさんの応援の声も寄せられた。「ただでさえ新型コロナ禍で売り上げが減り、火災後は何度も心が折れそうになった。でも、たくさんの支えがあったから前を向くことができた」。中村社長は臨時店舗の準備に取り掛かった。
 応援の輪は広がった。中村社長が関わっている、小学生が数日掛けて長距離を歩き抜くイベント「ながさき100キロ徒歩の旅」の大学生スタッフが動きだした。店への応援メッセージをかまぼこ板に書く取り組みを発案し、呼び掛けた。
 臨時店舗の内装作業をした今月28日、大学生スタッフの長崎大4年、平山莉奈子さん(22)は集まったかまぼこ板を店付近の壁に貼り付けた。「応援しています」「転禍為福」。思い思いのメッセージで壁は彩られていった。
 中村社長は「今まで通り、地域の人とともに歩みを進めたい」と意気込んだ。旧店舗周辺の取り壊しは進む。寂しくて、そばにある歩道橋から一人眺めることもあるという。それでも、焼け残った老舗ののれんを掲げ、一歩を踏み出していく。
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 臨時店舗(同市岩川町8の1)は、1日午前9時からオープンする。


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