[土持幸三の映像制作101]Vol.57 小さい画面で表現する映像制作

©株式会社プロニュース

txt:土持幸三 構成:編集部

GPSを使い貸し出した端末に音や映像を届けるサービス

コロナ禍で半年以上遅れてようやく日の目を見た、筆者が総合演出を担当したプロジェクトを紹介したい。みなさんは博物館や美術館で音声ガイドを利用したことがあるだろうか?館内を周って、借りた端末のボタンを押してイヤホンから説明がながれたり、センサーが反応することによって声が出たりと様々な仕様があるが、筆者が演出したのは屋外の、市や町、観光地など広範囲でGPSを使い利用者の場所を特定し、貸し出した端末に音や映像を届けるサービスだ。

今回、山形県米沢市を漫画「花の慶次~雲のかなたに~」のキャラクター前田慶次と米沢市おしょうしな観光大使の角田信朗さんがナビゲートし、前田慶次ゆかりの場所や直江兼続、上杉謙信、上杉景勝、伊達政宗など米沢に関係する武将が映像や声優による音声で登場する。利用者は貸し出された端末をもって市内の複数の場所を巡っていく。

米沢市内の前田慶次ゆかりの場所を巡る

筆者はリアルタイムで「花の慶次」を読んでいた世代なので、前田慶次の知識は多少あったが、やはり米沢に行くと細かい情報が多く、あらかじめ映画監督の香月秀之さんが脚本を仕上げていてくれた内容にそって実際に米沢の史跡を歩いてみた。

米沢市内ではプロモーションが各地でみられる

歩きながら演出で工夫が必要だと感じたのは、米沢城址のような史跡が多くある場所で、史跡と史跡の間をどうするか?ということ。利用者にとってこの間、音や映像が何も無いと自分がサービスを受けられているかどうかが不安になるからだ。この間隔の違う場所をどう飽きさせないか。これを考えるのが一番大変だったかもしれない。

実際は紹介する場所を何分割かのエリアにして、そのエリアごとに流す映像なり音楽なり環境音などを標準的な歩く速度に合わせて、どの程度の尺のものが必要かを割り出していく。またNECの空間音響MRという技術で音を特定の場所に埋め込むことができるので、それを有効に使う手段も考えた。

わかりやすく音を埋め込むと書いたが、例えば自分の右にある電信柱に音を埋め込んだとすると、自分が右を向こうが左を向こうが、音はその電信柱の方向から聞こる。単純に思えるが、本当にその電信柱が話しているようでリアル感がすごい。

3~4回ほど米沢に通い香月監督の脚本を各エリアの尺の調整や、漫画からのセリフを取り入れて決定稿とし、米沢の観光協会から上杉祭りなどの写真を借り入れ、出演者である角田さんの撮影と声優さんとの録音に備えた。

L型プレートを使ってカメラを縦に

角田さんの撮影は都内のグリーンバックスタジオで行った。このようなスタジオは当然であるが照明、カメラ等、グリーンバック用に設定されているので楽でよい。角田さんは大きく左右に動く演出はなかったのでL型プレートを持参して、カメラを縦にして撮影した。

スタジオによると、全身を撮るケースはほぼ無く、カメラを縦にすることはないとのことだが、横長の画面なのだから縦にして全身を撮ればクオリティはずいぶん上がるはずなのでL型プレートは用意しておいて欲しいと感じた。

声優さんの録音で感じたのは、俳優のアフレコ等と比べると、活舌はもとより、声のトーンもばっちりキャラクターイメージに合わせてくるし、ほとんどミスが無く予定よりずっと短時間で録音が終わり少し驚いた。まぁ今回の声優さんはパチンコ等で前田慶次、直江兼続の声を担当されている方々だったので当然ではあるのだが。

今回はスマホ端末を貸し出す形ではあるが、今後、5Gが普及していけば利用者自身のスマホを利用することも考えられるとのことで、それに向けた動画の制作もどんどん増えていくのではないかと感じた。これはインターネットで動画が見はじめられた時もそうであったが、小さい画面で表現する動画は映画館などの大画面で上映されるものと画作りは変わってくる。画面は小さくてもわかりやすい表現が求められ、今後さらなる表現の幅を広げなければならないな、と感じた仕事となった。