コロナ禍でも「約7割の企業は採用継続」「異業種・異職種への転職増加」、最新調査から見えた中途採用市場トレンド

「コロナ禍の影響により、中途採用は『買い手市場』に転じた」――。そのような報道を見て「転職を考えていたが、今はやめておいたほうがいいのか」と嘆く声が聞こえています。

しかし実態は、「買い手市場に転じた」という表現は適切とは言えません。1つの企業でも、ある部門・職種は採用を止めた一方、別の部門・職種では採用活動を継続、あるいは強化しているケースが多々見られます。

正しくは、「買い手市場と売り手市場が混在している」、別の言い方をすれば「企業はアクセルとブレーキを同時に踏んでいる」という状況です。


2020年度の採用計画は約7割が昨年と同等かそれ以上

「ソーシャルディスタンス」が叫ばれる中でも、採用に意欲的な企業は「Web面接」の導入により、採用活動を継続しています。緊急事態宣言下に Web 面接を実施していた企業のうち、緊急事態宣言解除後も Web 面接を継続していると答えた企業は 88.8%に上りました。

実際にWeb面接を実施してみると、応募者にとってのメリットも大きいことがわかってきました。

例えば、面接日程が組みやすいこと。在宅勤務であれば、平日の昼間の面接も休憩時間を使えば可能になります。これにより、応募から内定までの期間が短縮できるようになりました。

また、自宅にいながら面接を受けられるため、相手企業の会議室よりもリラックスして話すことができる、といった声も聞かれます。さらに、遠隔地にある企業の面接も受けやすくなり、企業を選ぶ際の選択肢も広がっています。

「Web面接では社風がわからないのでは」という不安に対しては、社内の様子を動画で見せる、現場で一緒に働くメンバーたちとオンラインでカジュアルに話す機会を設けるなど、各社、工夫を凝らしています。

積極採用を行っているのは、「トランスフォーメーション」に取り組む企業

では、意欲的に採用活動を行っているのはどんな企業なのでしょうか。注目すべきは「事業戦略」にあります。「モノ・サービスを売る」だけの事業活動から、「顧客体験を最大化する」「購入後の満足度を高める」戦略へのシフトです。この転換を積極的に行おうとする会社に採用ニーズがあります。

そのような戦略の中心に置かれているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。デジタルを活用したビジネスモデルやサービスの開発、あるいは業務オペレーションの変革により、製品・サービスの「あり方」を変えようとする動きが活発化しています。

例えば、ホームセンターがECモールを展開したり、インテリア企業がアプリで家具の配置イメージを描ける3Dシミュレーターを導入して、顧客の購買体験を増やすといったものです。

「顧客体験」をアップロードしていくことは、どんな業種・企業にとっても避けて通れない課題です。こうしたDX推進を背景に、ITエンジニア、デジタルマーケティングなどの人材は非常にニーズが高まっています。

異業種・異職種への「越境」転職が増加

DXというと、IT・インターネット業界の経験者だけに転職チャンスがあるように思われるかもしれませんが、そうではありません。

現在、「カスタマーサクセス」という部門・職種の求人が増えています。従来の「カスタマーサポート」とは異なり、顧客の自社製品・サービスへの価値評価(満足感)を最大化し、利用の継続につなげることをミッションとする組織・職種です。

求められているのは「製品・サービスの特性」「マーケット」「顧客」を「知っている」ことです。それらの知見・スキルを活かせば、先進的な取り組みをしている企業に転職するチャンスがあると言えるでしょう。

そして、皆さんにぜひ知っておいていただきたいのは、「異業種・異職種」への転職可能性が広がっているということです。企業が、「トランスフォーム」の取り組みに際し、自社にはない知見・スキルを持つ人材を外部から採用しているためです。

近年、リクルートエージェントを介した転職決定者のデータを見ると、同業種・同職種へ転職した人は2割強にとどまり、約8割の人が業種・職種を「越境」しています。そのうち業種・職種ともに異なる領域へ越境した人も3割以上に達しています。

リクルートキャリア【転職決定者データから見る】2020 中途採用市場 より抜粋

実際、異業種・異職種への「越境転職」を実現した方の事例をご紹介しましょう。

事例:生命保険会社の支社長から食品メーカーの品質管理部門長へ

生命保険会社で、支社長として主に営業メンバーを統括してきたAさん(50代)が、食品メーカーB社に品質管理部門のトップとして迎えられました。

B社にはもともと技術的側面での「品質保証」の専門家はいましたが、「製造スタッフのチームワーク、モチベーションも品質に影響する」と考え、チームビルディングやモチベーションマネジメントのプロ人材を募集したのです。

B社の製造スタッフは女性が中心。Aさんは生命保険会社で女性営業メンバーをマネジメントしていたため、その経験が買われ、採用に至りました。

このように、業界・職種を越えて持ち運べる「ポータブルスキル」を活かすことで、思いがけない業種・企業に活躍の場を見つけられるケースもあります。

トランスフォームしようとしている企業が増えているこの時代においては、個人もまた、同様に変化を受け入れる姿勢が必要です。新しい領域で新しいスキルを身に付けることで、今後のキャリアの選択肢が広がるでしょう。

転職による「年収ダウン」、後に上げていくための3つの条件

異業種・異職種への転職、あるいはスタートアップ企業などへの転職では、一時的に年収ダウンとなるケースも多々あります。それを受け入れがたいと考える方もいるでしょう。

しかし、「給与額を決めるのは企業ではなく、製品・サービスを使う顧客」と捉えてみてください。製品・サービスの価値を上げることで、支払われる対価も上がり、給与額に反映されます。

また、生涯にわたってキャリアを築いていくことを考え、目先の年収よりも将来に役立つスキルを獲得し最終的に年収を上げていく、という考え方もできます。

●自身の強み(経験・スキル)を活かすことで、製品・サービスの顧客価値の向上を実現できるのか
●自分の強みを発揮しやすい風土・環境であるか
●成果を正当に評価し、報酬に反映する人事制度が企業にあるか

この条件が揃えば、転職時には一時的に年収ダウンとなっても、いずれはもとの水準に戻すか、越えていくことも可能になるでしょう。

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