首里城跡、斎場御嶽… 沖縄にある世界遺産の今 登録から20年 来場者急増でトラブルも

 琉球独自の歴史や風土の中で発展してきた城跡や御嶽など9カ所が「琉球王国のグスク及び関連遺産群」として、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産に登録され、12月2日で20年となる。世界遺産がある7市村では、世界遺産登録を機に周辺設備を整備し、観光客の誘致を進め、地域活性化につなげている。イベント会場として城跡を活用したり、観光客の大幅増に対応するため、駐車場を整備したりするなど、さまざまな取り組みを展開してきた。20年を経て、保存と活用の間で、どのような課題があるのか、現状を追った。

 世界遺産に登録されたのは今帰仁城跡(今帰仁村)、座喜味城跡(読谷村)、勝連城跡(うるま市)、中城城跡(中城村・北中城村)、首里城跡(那覇市)、識名園(同)、玉陵(たまうどぅん)(同)、園比屋武御嶽(そのひゃんうたき)石門(同)、斎場御嶽(せーふぁーうたき)(南城市)の9カ所。

 首里城周辺は焼失する以前は、観光バスの渋滞が課題となっていた。南城市の斎場御嶽は、世界遺産登録以前は年間3万人程度だった来場者が、2019年は約47万人(2019年版観光要覧~県観光統計集)と過去最多を記録。オーバーツーリズム(観光公害)の対策も急務となっている。

 また斎場御嶽や園比屋武御嶽は信仰の対象で「聖地」でもあることから、祈りの場としての環境保護も求められている。一方で台風の影響で城壁が一部崩落した今帰仁城跡は、修復に向けて調査が進められている。

 観光客の過多や自然災害、新型コロナウイルスなどの感染症拡大など各市町村では危機管理の対応も求められている。

防災 首里城、消火設備設置へ/城壁崩落防止 対策進む 昨年10月に発生した首里城火災では正殿などの復元建造物が焼失し、公開されていた地下遺構の一部が被災した。2018年には台風の影響で今帰仁城跡の城壁の一部が崩落。自治体などは世界遺産の防災・防火対策の取り組みに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策も実施するなど、歴史や文化を伝えるため危機管理にも気を配る。

■首里城跡

 首里城に関して国は遺構を保護した後、今年6月から城郭内の一般公開を始めた。正殿の再建工事は2022年度から着手し、26年度の完成を目指す。今回の再建では、これまで設置されていなかったスプリンクラーをはじめ、操作性が向上した屋内消火栓などを整備する。正殿以外の建物の接続部には防火シャッターも設置する。首里城火災を受け、那覇市も識名園などの木造建築物にスプリンクラー設置が可能か検討するなど、防火対策を見直している。

■今帰仁城跡

 今帰仁城跡は台風の影響で城壁が一部崩落した。現在も修復について協議を重ね、壁内部構造の調査を進めている。崩落の危険性がある箇所は、あえて解体して組み直すなど耐久度を上げる防止策を講じてきた。村の玉城靖文化財係長は「世界遺産として、正しい歴史を伝えるために真実性を求めることを第一に進めたい」と述べた。

 南城市観光協会は、職員と斎場御嶽のガイドをする「ガイド・アマミキヨ浪漫の会」と合同で自動体外式除細動器(AED)などを使った人命救助の講習を開いているほか、新型コロナウイルスの感染防止対策として3密を避けるため、三角岩の奥「三庫理(さんぐーい)」の入場を禁止している。

■斎場御嶽

 南城市観光商工課では「大雨などの災害時は基本的に入場不可としている」という。同市観光協会の屋我英樹事務局長は「大雨以外でも地震など突発的なことに備え、観光における防災意識は市と連携しながら認識を深めたい」と語った。

オーバーツーリズム 来場者急増 トラブルも/渋滞解消、駐車場確保必要に 世界遺産登録をきっかけに増加した観光客のニーズに応えるため、各地で多彩な取り組みが試みられている。その一方で「聖地」としてあがめてきた県民の精神文化の継承と、文化財保護をどう両立させることができるのか、葛藤も見られる。

■斎場御嶽

 南城市の斎場御嶽では「聖地」としての在り方が課題になっている。13年の入場者は約43万4千人に上り、地域住民の生活圏で交通渋滞などが発生したことから、地域住民や祈りをささげる人たちから苦情が上がった。同市は交通渋滞解消のため、13年から駐車場を「がんじゅう駅・南城」周辺に移した。史跡、自然保護のため年2回の休息日(計6日間)も設定。市の観光商工課は「来場者数にこだわらず、文化財保護をしっかり守りながら観光として活用したい」と語る。

 観光協会の屋我英樹事務局長も「自然環境や遺跡を守ることによって聖地としての斎場御嶽の価値は高まる」と強調した。

■首里城跡、識名園、玉陵

 首里城の国営公園区域に18年度は約280万6千人が訪れ、交通渋滞が問題となった。首里城再建に向けて、観光客と地域住民が共存できるまちづくりが目指されている。

 首里城火災後、識名園と玉陵の来場者は一時急増。昨年10月の識名園の来場者は約5千人だったが、火災後の翌11月は約2万人に上り、石畳がダメージを受けた。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で今年の来場者は減少したが、那覇市の鈴木悠学芸員は「静謐(せいひつ)さを保ちながら何人まで受け入れられるのか、キャパ(受け入れ可能な人数)を把握する必要がある」と課題を語った。

■今帰仁城跡

 今帰仁城跡では案内板の英翻訳修正が進められている。同村の玉城靖文化財係長は「沖縄独特の精神文化をより分かりやすく解説している」と自信を見せる。現在は半分以上の修正が完了した。

■中城城跡

 中城城跡がある中城村では、外国人観光客に対応した案内人育成など、多言語化の課題がある。常設展示施設がないため村は「グスクの本来の価値を知らせられない」と頭を悩ませている。大規模イベントに伴う駐車場の確保なども課題だ。

観光客誘致 歴史や文化 魅力発信/多彩なイベントや施設整備
 
 各市町村担当者は世界遺産に登録された文化財の魅力をさらに発信するため、城壁に映像を投影するプロジェクションマッピングのイベント企画や城跡周辺の施設整備など観光客誘致に力を注いでいる。

■勝連城跡

 勝連城跡は現在、大掛かりな周辺施設整備事業が進められている。城跡の道向かいに2024年にオープン予定の飲食や特産品販売などができる施設や、うるま市の歴史や文化に触れられる施設が建設される予定だ。

 来年夏ごろ開設予定の歴史文化施設は、巨大スクリーンを設置したライブシアターのほか、うるま市の歴史や文化を伝える常設・企画展示室を設ける。市の戦跡、闘牛などを広く知ってもらう機会をつくる。うるま市勝連城跡周辺整備室の岸本力室長は「文化財や写真、映像などを展示し、勝連城や琉球王国の歴史も伝えられたらいい」と語る。

■中城城跡

 中城城跡は、県内では先駆的な取り組みとして、プロジェクションマッピング(映像投影)やコンサートなどのイベントを開催してきた。最大約9千人を収容できる広場があり、2013年度ごろから沖縄振興一括交付金を活用して始めたプロジェクションマッピングを好材料に、認知度を徐々に向上させてきた。

 コロナ禍でイベントが開催できない課題も出てきたが、中城村産業振興課の担当者は「屋外なので、コロナ対策をしながら中城城跡を楽しめる場所だとPRできれば客は見込まれるだろう」と期待を込めた。

■首里城跡

 首里城でも今年10月末、再建の機運を高めようと、県などが城壁に映像を投影するプロジェクションマッピングを行った。しかし園比屋武御嶽石門に登り映像を撮影する来場者もいたという。世界遺産登録では琉球独特の信仰との関わりも高く評価された。那覇市の鈴木悠学芸員は「(グスクと関連遺産群の)精神性の部分はこれまで十分にクローズアップされてこなかった。遺跡そのものを守るだけでなく、信仰の対象としてふさわしい環境を維持しないといけない」と指摘した。

■座喜味城跡

 座喜味城跡では18年、城跡のふもとにあるユンタンザミュージアムがリニューアルオープンし、城跡だけでなく読谷の歴史や風習、文化も同時に学べるようになった。県内外から訪れる観光客からも好評を得ている。

<用語>世界遺産
 ユネスコ(国連教育科学文化機関)が世界的に優れた文化財と貴重な自然を保護するため選定、登録する貴重な文化遺産、自然遺産。世界遺産委員会の審査により遺産一覧表に記載されると同遺産基金からさまざまな保護・援助が受けられる。海外ではエジプトのピラミッドや中国の万里の長城などがある。国内では23件(2019年7月現在)が記載されており、奈良県の法隆寺地域の仏教建造物や広島県の原爆ドームなどがある。

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