ノラ・ジョーンズ、RECORD STORE DAY限定7曲入りLPの遊び心を詰め込んだ内容とは?

春と秋の年2回開催されているレコード・ストア・デイ。独立小売店を守るために開催となったこの催しは、様々なアーティストが賛同して、限定レコード商品を多くリリースしています。そんな中で2020年11月に行われた「RECORD STORE DAY BLACK FRIDAY 2020」にて、ノラ・ジョーンズが『Playdate』と題された7曲入りのタイトルをリリース。この収録楽曲について、音楽ライターの内本順一さんの解説を掲載します。

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2020年11月27日に開催された「RECORD STORE DAY BLACK FRIDAY 2020」で、ノラ・ジョーンズがアナログレコード『Playdate』を限定リリースした。A面4曲、B面3曲の計7曲が収録されたものだ。

2019年、ノラ・ジョーンズはミニアルバム的な『Begin Again』を4月にリリースしたあと、自身がリスペクトするアーティストとコラボレーションしたシングルを次々にデジタルリリースしていった。タリオナ“タンク”ボール、メイヴィス・ステイプルズ、ホドリゴ・アマランチ。音楽の分野は異なれど、3人ともノラが深いところで共感している歌手だ。そのデジタルリリースのみだった5曲が初めて盤に収められたのが、『Playdate』である。

この5曲のデジタルリリースを経て、ノラはフルアルバム『Pick Me Up Off the Floor』を今年6月にリリースしたわけだが、そのCDには2曲のボーナス・トラックも収められていた。ボーナス・トラックというと「おまけ」的な印象をどうしても持ってしまうものだが、その2曲……「Street Stranger」と「Tryin’ To Keep It Together」はそうじゃなく、アルバム本編収録曲と同じくらい重要性の高いものだった。『Playdate』にはその2曲も収録され、コラボレーション曲5曲に混ざりながら、いい流れを作ってもいる。

ノラの深みのある低いヴォーカルと、主にピアノや弦を響かせるサウンド。それはデジタルで聴くよりもアナログレコードで聴いてこそ、とは以前から思っていたことだが、この7曲もこうしてレコードで聴くことができるのがとても嬉しい。ジャケットは少しばかり奇妙なものだが、かえってレア感も増すというものだ。

 

A-Side

1. Falling (with Rodrigo Amarante)

ホドリゴ・アマランチはブラジル・リオデジャネイロ出身のシンガー・ソングライター(ギタリスト/フルート奏者)で、かつてマルセス・カメロと共にロス・エルマノスという人気ロックバンドをやっていた人。ノラは2019年11月に彼をフィーチャーした2曲をリリース(もう1曲は「I Forgot」)。作詞・作曲・プロデュースも共同で行なっている。弦と鍵盤が重なり、ふたりの柔らかな歌声が合わさる暖炉のようなこの曲は、とても詩的でもある。

2. I’ll Be Gone (with Mavis Staples)

メイヴィス・ステイプルズは米イリノイ州シカゴ出身のレジェンド的なリズム&ブルーズ~ゴスペル歌手/女優/公民権活動家。メイヴィスの80歳の誕生日を始め、ふたりはこれまでにも度々共演してきた。メイヴィスの力まない歌唱に懐の深さを感じるノスタルジックなこの曲は、ピート・レムの詞曲とプロデュースで2019年10月にリリース。尚、2021年のグラミー賞で「最優秀アメリカン・ルーツ・パフォーマンス」にノミネートされている。

3. Street Stranger

『Pick Me Up Off the Floor』のボーナス・トラックとして収録されていた1曲。共作したのはノラの友人でもある詩人のエミリー・フィスキオで、ふたりは『Pick Me Up Off the Floor』収録の「Were You Watching?」も共作している。短いリリックだが、長めの間奏のあとの繰り返しによってノラの視線、即ち対象をストレンジャーと見る感覚が強調される。チェロとヴィオラの音が不穏なムードを醸し出し、ノラの歌声も尚更後を引く。  

4. Take It Away (feat. Tarriona Tank Ball)

タリオナ“タンク”ボールは、ニューオーリンズのバンドで、2020年グラミーの新人賞にもノミネートされたタンク・アンド・ザ・バンガスのシンガー。ノラは2016年にバンドのライブをニューオーリンズで観て大ファンになり、その後タンクと友人関係になった。この曲は2019年7月リリース。オープンなマインドを持ち、ラップも巧みなタンクだが、ダークな色彩のこの曲では低めに歌うノラに合わせて、彼女も落ち着いた歌唱表現を見せている。

 

B-Side

1. Playing Along (with Tarriona Tank Ball)

「Take It Away」に続き、これもタンク・アンド・ザ・バンガスのタンクをフィーチャーした曲で、2019年11月にリリース。作詞作曲はノラとタンクに加えて、『Begin Again』でもノラの新しい側面を引き出していたトーマス・バートレット(アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ、ダヴマン)が参加した。ノラとタンクのヴォーカルは息もピッタリ。また、ダークなトーンの曲でありながらも、タンクのラップがいいアクセントをつけている。  

2. I Forgot (with Rodrigo Amarante)

ブラジルのホドリゴ・アマランチとコラボレーションした曲で、「Falling」と両A面で2019年11月にリリースされた。ふたりの歌始まりで、そこにしばらくはピアノだけが乗って展開するあたり、ノラはホドリゴの歌声をよほど気に入っているのだろう。やがて弦が入り、ドラマチックにもなるが、それでも基本的には相当シンプル。「わびさび」「もののあわれ」といった日本語も歌い込まれ、忘れられたものと忘れたいものに、ふたりが思いを馳せる。  

3. Tryin’ To Keep It Together

「Street Stranger」同様、『Pick Me Up Off the Floor』のボーナス・トラックとして収録された曲だが、パンデミックの影響でアメリカが分断された状況を鑑みて、ノラはこの曲をアルバムの発売前に急遽シングルでリリースした。曰く「今の世界を代弁している曲」。「つなぎとめたい」と何度も繰り返されるその歌声は切々としていて、祈りのようにも響いてくる。詞曲はノラとトーマス・バートレット(トーマスはプロデュースも担当)。

Written by 内本 順一

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