大塚家具 大塚久美子社長が辞任、「ブランドイメージ」という呪縛

 

 12月1日午前0時、(株)大塚家具(TSR企業コード:291542085、江東区)の大塚久美子社長が辞任した。一時は、無借金経営で現預金110億円を持つ優良企業として名を馳せ、創業家一族の権威を社内外に誇示した。だが、業績は坂道を転がり続け、ついに社長の座を追われた。 実父である勝久氏と経営を巡って対立し、2014年7月に社長を解任された。だが、2015年1月社長へ返り咲き、委任状争奪戦に勝利。それから約6年。一連の騒動で傷ついたブランドイメージを回復できないまま、社長在任中の4期で約230億円の純損失を計上した。

経営戦略は間違っていたのか

 2015年1月、大塚久美子前社長は経営権を奪取すると、基盤だった会員制を廃止し、低価格路線に転換した。企業イメージが傷つき、顧客離れが進む中、売上の落ち込むたびに「大感謝フェア」などセールを実施し、売上確保に躍起になった。しかし、2020年4月期(決算期変更)まで4期連続で赤字を計上すると、潤沢な自己資金は瞬く間に消失した。
 百貨店や高級アパレルの現状をみると、大塚家具の高級化路線から低価格路線への転換はあながち間違いではなかった。ただ、低価格路線は先行するニトリなど強力なライバルへの挑戦でもあった。緻密な低価格戦略を徹底するライバルに、高級家具のイメージのままの低価格転換は足かせになった。

ブランドイメージの怖さ

 久美子前社長は、記者会見で「低価格路線という誤認によりブランドイメージが揺らいだ」と語っていた。ブランドイメージは回復しなかったが、これは久美子前社長の挑戦でもあった。
 これまで異空間だった会員制サービスから、誰でも入店できる店づくり。大型店舗から専門店や小型店へのシフト。「在庫一掃セール」などで、「高級」イメージの払拭には成功した。だが、営業戦略の転換は、業績が悪化をたどる中で、「低価格路線」との矛盾を最後まで説明できなかった。
 高級家具は、住宅新築などの慶事で買い揃えることが多い。そこにお家騒動や業績悪化で揺らいだダメージが顧客離れを促した。また、「低価格路線」を否定しても、目先の売上確保のセールを続けたことで、大塚家具の立ち位置はぼやけた。
 父の築いた強烈なブランド力に挑戦した久美子前社長だったが、戦略転換は弓のように大きくしなり、反動が大きかった。
久美子前社長は時代を先取りし、消費者ニーズに合った商品や接客システムの転換を目指した。家具はまとめ買いから、単品買いに移行すると見て対応を進めた。それでも「父子戦争」のダメージは拭えず、「大塚家具」より「大塚久美子」という個性が勝った。
 「ブランドイメージ」の怖さでもあった。

大塚久美子前社長(TSR撮影)

2021年4月期も赤字見通し

大塚家具は業績低迷から抜け出せていない。10月28日、久美子前社長の辞任と同時に発表した2021年4月期通期の業績予想は、売上高304億2,000万円(前年同期253億2,300万円)、純利益28億9,000万円の赤字(同60億900万円の赤字)と赤字見通しが続く。
 家電と家具・インテリアを合わせた「暮らしまるごと」提案の店舗拡大で、売上高は家電販売の大幅な伸長や、(株)ヤマダデンキ(TSR企業コード:134237650)の店舗での家具販売強化が寄与し、業績は改善している。
 大塚家具によると、「現在スピード感を以って取り組んでいる抜本的構造改革を期中に終える予定であり、来期黒字化に向けて道筋がつきつつある」という。

大塚家具業績推移

 大塚家具は2019年12月、(株)ヤマダホールディングス(旧:(株)ヤマダ電機、TSR企業コード:270114270)の傘下に入り、経営再建を進めていた。
大塚家具の新社長には会長で、ヤマダホールディングス社長の三嶋恒夫氏が兼務する。創業家が去った大塚家具は、今後“ヤマダデンキ”の手に再建を委ねる。

 

 

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