あなたの投資が世界を変える?SDGsとコロナ禍で注目の「水」関連、クリーンテック銘柄

ウィズコロナの新しい生活様式において、すっかり習慣になった石けんを使った手洗いですが、世界には安全な水にアクセスできないために十分な手洗いができず、新型コロナウイルス感染症の脅威にさらされている人々がいます。

世界で最も貧しい地域であるサハラ以南のアフリカの人口の約4分の3は、自宅で水と石けんを用いて手を洗うことができません。ユニセフ(国連児童基金)とWHO(世界保健機関)によると、世界人口の40%にあたる約30億人がこうした基本的な手洗い施設のない生活を送っています。

さらに、約22億人が安全に管理された飲み水の供給を受けられず、約42億人が安全に管理されたトイレを使うことができません。このような世界で、私たちはどこに投資すべきなのでしょうか。


世界の5人に2人は十分に手を洗えない

SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)とは、持続可能な世界を実現するための2030年までの国際目標です。17のゴール、169のターゲットで構成され、「誰一人取り残さない(No one will be left behind)」ことがコンセプトとされています。

17のうちの目標6「安全な水とトイレを世界中に」には、「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」ことが掲げられています。具体的には、「6.1 すべての人々の、安全で安価な飲料水へのアクセス」や「6.2 すべての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセス」などが挙げられています。

そして、ユニセフとWHOによる共同監査プログラム(JMP)が、こうした飲み水や衛生施設(トイレ)に関連するSDGsの達成に向けた世界各国の進捗をモニタリングしています。17の目標のうちの1つに明確に示されるほど、安全な水や衛生施設へのアクセスは、人々にとって欠かせないものでありながら、今なお、世界が克服できていない問題となっています。

後発開発途上国でもビジネスは可能

多くの途上国が深刻な水や衛生分野における課題を抱えていますが、問題は地域によって様々です。

主な論点としては、(1)ある程度の経済成長が進んだ新興国か、後発開発途上国(最貧国)か、(2)都市部か、村落か、(3)水資源は豊富か、不足しているか、などが挙げられ、参入する支援団体や企業の関わり方も変わってきます。

後発開発途上国や一部の新興国で、支援ではなくソーシャルビジネス(社会的な課題の解決を持続可能なビジネスとして展開)として取り組んでいるのが、日本のLIXILグループです。簡易式トイレシステム『SATO(サト)』は、1台当たり数ドル、1回の洗浄に必要な水の量は約0.2~1リットル、設置やメンテナンスが簡単などの特徴により、貧困や水不足が厳しい地域でも使用可能です。

さらに、可能な限り現地で製造、販売まで手掛けることで、新たな雇用創出にもつながるなど、持続可能なビジネスモデルを構築している点は特筆すべきでしょう。コロナ禍では、プラスチック製の本体にペットボトルを差し込むことでどこでも手洗い環境を作ることができる『SATO Tap』を開発しました。感染拡大が収まらないインドなどですでに量産化されています。

ユニリーバのBOPビジネス

BOPビジネス(途上国の低所得者層向けビジネス)に先駆けて取り組み、成功しているのが、日用品の世界大手オランダのユニリーバです。例えば、インドの「プロジェクト・シャクティ」では、低所得者層の女性を職業訓練し、マイクロファイナンス等で資金を貸し付けます。彼女たちはその資金で同社衛生製品を仕入れ、村で販売するという仕組みです。現地にとって、女性の経済的自立や衛生の啓発につながる一方、同社は安価に販売網を構築可能です。

BOPビジネスの最大のメリットは、将来の中間層の取り込みといえるでしょう。国の経済成長に伴って、BOP、つまり、ピラミッドの底辺にいた低所得者は、巨大な中間層となります。その時、慣れ親しんだブランドへのロイヤリティから、彼らは同社のより付加価値の高い製品を購入するようになるのです。結果、ユニリーバは売上の半分程度を新興国が占めるまでになっています。

水ビジネスはメジャーが席巻、日本企業の存在感は?

世界には、中東やシンガポールのように、資金はあっても水や水に関するノウハウがない地域があります。こうした地域で期待されるのが水ビジネスです。世界の水ビジネスの市場規模は、2020年に約100兆円とも試算され、上下水道が約8割、産業用水・排水が約2割を占めます。なお、日本企業が技術を持つ海水淡水化はそのうちの1%にもなりません。

世界の水ビジネスにおいて圧倒的な存在感を持つのが、フランスのヴェオリア・エンバイロメント、スエズといった水メジャーです。両社は、水処理事業の計画に始まり、設計、調達、建設、そして、事業経営、保守に至るまで一貫して手掛けることで、世界各国で幅広く事業を展開しています。近年は、シンガポールや韓国等の新興国企業も台頭し、事業領域を拡大しています。

シンガポールは、現在、需要の65%を雨水収集・汚水の再利用(40%)と海水淡水化(25%)で賄っており、マレーシアとの水の輸入契約が切れる前年の2060年までに85%(再生水55%、海水淡水化30%)に引き上げる計画です。なお、海水淡水化技術で注目されたシンガポールのハイフラックスは、2018年に経営破綻し、現在も再建は迷走しています。

水の自給を悲願とする政府の政策の後押しもあり成長しましたが、発電事業の失敗や海外事業の不振により、資金繰りに行き詰まりました。水ビジネスは、非常に公共性が高い事業だけに、健全な財務基盤や高い倫理観に基づいた経営が求められます。

ハイフラックスの海水淡水化施設は、政府が接収して運営しているほか、シンガポールの複合企業ケッペル・コーポレーションなども水事業を手掛けています。同国は引き続き、中東と並び、水ビジネスの中心といえるでしょう。

日本勢は、総合商社が、カタール(三井物産、三菱商事)、アラブ首長国連邦(丸紅)、オマーン(住友商事、伊藤忠商事)など中東地域において、発電・造水(海水淡水化)事業に参画しているほか、新興国での上下水道のコンセッション事業(公共施設等運営権制度)等を手掛けています。もっとも、政府が水ビジネスを含む海外へのインフラ輸出を掲げてきましたが、目立った成果はあげられていません。

日本企業が強いクリーンテック

一方、日本企業が強みを持つのが、水処理などにおける個別の技術であり、クリーンテック(cleanとtechnology)として注目されています。

特に、日本のお家芸が海水淡水化や汚水の再利用に用いられる水処理膜です。RO膜(逆浸透膜)は1968年に東レが研究に着手し、2001年に実用化されました。直径約0.1ナノメートルの穴の開いた膜で、ポンプで圧力をかけて水を押し出し、塩分や泥などの不純物を取り除きます。

日本の東レ、日東電工、東洋紡の3社が世界で高シェアを握っています。他にも、市場規模が大きい上下水道や産業用水・排水の分野でノウハウを持つ企業や、日立製作所のように、水インフラにIoT(Internet of Things)やAI(人工知能)を活用しようと取り組む企業もあります。

投資先の水の使い方も確認しよう

最後に、投資の際には、投資先企業の水の使い方にも注目しましょう。ESG投資(環境、社会、ガバナンスの観点から企業を分析し、投資する)の広まりにより、特に、水を使う鉄鋼や化学、紙・パルプ等の業種や、水源の保全が欠かせない食品や飲料等において、生産拠点の水リスク評価や節水、リサイクル率などの開示が行われるようになりました。詳細は、統合報告書(アニュアルレポート)の非財務情報やサステナビリティレポートに掲載されています。

世界では、今後、人口増加や気候変動を受け、水不足が深刻化することが懸念されています。ユネスコ(国連教育科学文化機関)によると、2050年には予想される世界人口100億人のうち半数の50億人が水不足に陥る可能性があるそうです。SDGsの2030年までに「安全な水とトイレを世界中に」の目標達成のためには、水に知見のある国や企業の率先した取り組みが欠かせません。

<文:投資情報部 ストラテジスト 金森睦美>

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