成人式、不安解消へ工夫さまざま コロナ対応、自治体模索

 一生に一度のお祝いと感染防止策をいかに両立させるか―。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、成人の日の式典を主催する各地の自治体が異例の対応に追われている。実際には集まらないオンライン形式に変更、時間や会場を分散、夏に延期…。「感染しないか不安」「せっかく買った振り袖だから着たい」。主役の新成人も困惑を隠しきれない。異例の事態に「気持ちよく成人を迎えてほしい」とレンタル振り袖のキャンセル料をただにするなどのサービスも登場。コロナ禍の晴れの日を巡る様々な動きを追った。(共同通信=伊藤怜奈、広内恒河)

1月、横浜市の横浜アリーナで開かれた成人式(同市提供)

 ▽延期、再延期

 「久々の再会なのに『距離を取って』とお願いするのはなかなか難しい」。感染拡大を受け、式典の延期を決めた秋田県能代市の担当者が苦しい胸の内を明かす。

 能代市は例年、お盆の時期に「真夏の成人式」を開催しているが、春から夏にかけて感染者が増加したことに伴い、来年1月に延期すると決定した。

 ところが、秋を迎えても収束せず、10月に新成人を交えて開いた実行委員会では「インフルエンザとの同時流行の可能性もあり、心配だ」との意見が上がった。「なるべく例年通りの形でやってあげたい」という担当者の思いもあり、来年8月への再延期が決まった。2学年分の式典を2日連日で開くという。

 ▽オンライン、分散開催

 3密(密閉、密集、密接)を避けられないと判断し、オンライン開催に切り替えた自治体も多い。

 盛岡市は新成人10人を集めた「ミニ式典」を開き、その様子を動画にまとめて配信する。専用のホームページでは、新成人がリレー形式で将来の夢を語ったり、卒業した中学校の教諭らがメッセージを寄せたりする予定だ。

2018年1月、盛岡市の盛岡タカヤアリーナで開かれた成人式(同市提供)

 例年400人以上が岩手県外から帰省。式典後には記念撮影や同窓会もあり、感染のリスクは式だけにとどまらない。「集めてあげたいのはやまやまだが、密接、密集を避けられないと判断した。一生に一度の式典で感染を広げるわけにはいかない」。担当者の言葉に苦悩がにじむ。

 市側と何度も話し合ったという実行委員長の高橋利基さん(20)は「新型コロナの影響でお盆に帰省できなかった仲間も多く、成人式こそは集まりたいと考えている人もたくさんいるとは思うが、機会は他にも作れる」と前を向く。「正直、感染者が増えるにつれ不安になっていた」とも話し、市の対応に理解を示した。

 徳島市は、新成人が一堂に会する式典は行わず、地区ごとに公民館など23カ所を3日に分けて開放する。社会教育課によると、記念撮影や懇談のスペースを設け、記念品も渡す予定だという。同課の担当者は「できる限りのお祝いをしたい」と強調する。

 兵庫県川西市も式典は中止にし、代わりに市内の商業施設で市長らが参加するイベントを行う。「再会と晴れ着を着る機会は守りたかった。例年とは違った形式だが、楽しんでほしい」と、子ども支援課の担当者は話す。

1月、兵庫県川西市のキセラ川西プラザで開かれた成人式

 ▽悩ましい晴れ着キャンセル料

 新成人にとって、式典が開催されるかどうかという問題と同じくらい悩ましいのが、晴れ着の扱いだ。

 東京都千代田区の式典に参加予定の明治大2年増井薫乃さん(20)は、2年ほど前に約25万円の振り袖を購入。「成人式が開かれる1月には新型コロナも収まっているはず」と、3月には当日の着付けも予約した。

 周囲の同級生は通常開催を前提に準備を進めているが、感染者数が連日過去最多を更新する中「式が中止になれば一度も袖を通さずに着付けのキャンセル料だけを払うことになる。正直きつい」と不安を漏らす。

 こうした懸念を解消しようと、振り袖レンタルを手掛ける「やまと」(東京)はキャンセル料の負担を例年より軽減する。レンタルした晴れ着を着て事前に撮影していなければ無料にする。

 式典中止を決めた新潟県新発田市は「新成人の痛みを少しでも和らげたい」(担当者)と、衣装レンタルのキャンセル料の半額を2万円まで助成する。

 ▽写真撮影で思い出作り

 「式に出るのは怖いけど、思い出は残したい」。そんな声に応えようと、富山県射水市は富山県立大と協力して、式典参加を自粛する県外の新成人向けに写真アプリを急ピッチで開発している。拡張現実(AR)を活用し、会場の参加者と合成写真を撮れるというもの。「一体感を楽しんでほしい」という市職員のアイデアで実現した。

 3密を回避して思い出を残せるとの理由で人気なのが、プロカメラマンが出張して屋外で撮影するサービスだ。東京の「ラブグラフ」には11月初旬までに100件超の予約が寄せられた。3~4月にも卒業式が中止になった学生から例年の約9倍の依頼が舞い込んだ。

「ラブグラフ」の出張撮影サービスを利用した新成人の高木鈴佳さん(ラブグラフ提供)

 京都府にある医療系の専門学校に通う高木鈴佳さん(19)は、式典会場での記念撮影はリスクが大きいと考え、事前に下鴨神社(京都市左京区)で撮影を済ませた。式典後に友人らと近づいて記念撮影をすれば感染する恐れがあり、病院実習に影響すると考えたという。

 「新成人だけでなく、見守ってくれる全ての人が和やかな気分で成人式を終えられることが一番。しっかり感染対策を取って思い出を作りたい」と前向きに語った。

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