村上隆が苦渋を乗り越え《お花の親子》に込めた思い:「気持ちを閉じたり開いたりさせるのが芸術家の仕事」

ルイーズ・ブルジョワによる巨大なクモの作品《ママン》が目印の、六本木ヒルズ66プラザ。ここで、2020年11月26日、村上隆の新作彫刻作品《お花の親子》が披露された。

高さ約10mの巨大な彫刻は外注したものではなく、村上の工房内でゼロから3Dソフトを使用して完成させた初の作品。外面は輝く金箔で覆われている。

IMG

そもそも本作は、「スーパーフラットコンセプトの一部として、アートの世界に幼稚でオモチャ感覚のロジックを組み込んだ始祖は自分であるという自負」と、そのロジックの延長線で「なんでもアートと言ってしまえばアートになり得る時代に突入した現在」の、波紋の中心であるような作品として制作されたもの。

しかし、本作制作の過程で世間はコロナ禍に突入。村上は7月、Instagramで、自身が社長を務める会社・カイカイキキの倒産危機を明言し、世界のアートメディアが報じる大ニュースにもなった。幸いに会社の倒産は免れたが、大きな困難の最中で本作品は完成したのだ。「僕の作品はハッピーなキャラクター達がニコニコしているので、僕の人格や制作現場も朗らかなハッピーなモノと勘違いしている人が大半だが、夢の創造には本当に吐き気を催すほどの苦渋がいつも隣に居る」と公式コメントを寄せている。

本作は、コロナ禍にあっても、アートの力で“元気”や“希望”を世界に届けようという思いから、設置に至ったというもの。しかし上記のようなことから、村上は会見で「つるんとした金箔のなかには葛藤がある」と、コロナ禍での自身の大変な時期を振り返った。

IMG

最近では映画『鬼滅の刃』を見て、倒産危機下での死にたい気持ちを思い出し、共感で涙したという村上。そうした仕事に触れ、「人々の高揚させたり、落ち込ませたり、気持ちを閉じたり開いたりオペレーションするのが芸術家の仕事だと思った」と話す。

また、アートは一般的に大人向けのものが多いが、「本作は大人でも批評家でもなく子どもがメインターゲット。いろいろなお子さんに楽しんでほしい」と語った。

IMG

なお、正式披露前からSNSで写真がアップされ人気を博していた本作は、村上曰く「現場に来なくてもSNSを通して携帯電話の中に飛び込んで楽しめるような作品」。いっぽう、村上が死角が少ないと話すように360度見渡せる醍醐味があるため、SNSに溢れる正面のアングル以外からも楽しんでほしい。展示は2021年5月末までを予定しているため、近くを訪れる際には近くから眺めてみてはいかがだろう。

さらに六本木ヒルズでは、「ROPPONGI HILLS TAKASHI MURAKAMI PROJECT」として、本作展示に加え、期間限定の「お花カフェ」もオープンしている。こちらは1月3日まで。

IMG
IMG

© 特定非営利活動法人GADAGO