鷹・周東佑京よりも速い選手がいた… 三塁打到達タイムのパ上位5選手は?

ソフトバンク・周東佑京【画像:パーソル パ・リーグTV】

5位に入った西武スパンジェンバーグは三塁打数リーグトップ

野球はひとつひとつのプレー時間が大変短いスポーツだ。投球を打った瞬間から、ゴロやフライで結果が確定するまでの時間は、多くが4~8秒程度しかない。

ところが、ひとつのプレーで10秒を超えてくるときもある。それが三塁打のシーンである。

走っている選手の勇姿をもっとも長く見ていられる希少な機会だが、そのことを拒むかのようにもっとも短いタイムで三塁へ到達し、ファンを驚かせた選手は誰だったのか?

6月19日の開幕から11月9日の最終戦までに記録された、今シーズンのパ・リーグ三塁打において、打ってから三塁ベースに到達するタイムのトップ5を紹介しよう。

シーズン前の段階では、「どの程度活躍できるか?」という以上に、その長い登録名が先行して目立っていたコーリー・スパンジェンバーグ内野手(西武)が10秒83という好タイムで5位に入った。

元々、俊足であることは入団発表のときから本人がアピールしており、オープン戦の好調もあってシーズン序盤は1番を打つことが多かったスパンジェンバーグだが、最終打率は.268。一時は.250を下回る期間もあり、手放しで喜べるほど活躍したとはいえなかった。

だが、フルスイングと全力疾走を身上とするプレースタイルは優良助っ人そのもの。加えて、シーズン終盤に西武が2位争いに加わった際には、勝負どころで結果を出して存在感を示した。5位に入った動画では、そんなスパンジェンバーグ選手のスピードを垣間見ることができる。ZOZOマリンスタジアムの右中間を深々と破ると、二塁ベース手前で打球を判断して一気に三塁へたどり着いた。

ちなみに、今シーズン、スパンジェンバーグが記録した三塁打は8本。これは周東佑京内野手(ソフトバンク)と京田陽太内野手(中日)の7本を上回る12球団トップである。前年までこのランキングの常連だった僚友・源田壮亮内野手を差し置いてタイムでも5位に入ったとなれば「ミスター三塁打」の称号を与えてもいいのではなかろうか。

4位から2位までは鷹のスピードスター周東が独占

このランキングの原稿を書く際、一番泣かされるのは、ひとりの選手がランキングを複数独占するときだ。当然、書くネタがなくなる。

そんな状況を、昨年に続いて今年も作ってしまった選手がいる。周東だ。

昨年の三塁打トップ5では、レギュラーではなかったにもかかわらず1位と3位に入って驚かせた周東。今シーズンは後半に入り、レギュラーに定着して盗塁王のタイトルまで獲得してしまった。たった1年でここまで進化するとは、もはや脱帽するしかない。

やむを得ないので、開き直って2位~4位をまとめて解説しようと思う。

以前から述べている周東のランニングの特徴は、力感がなく、軽々と走っている点に集約される。足が長いので歩幅が広いうえに、よく脱力されていることによる軽々とした足取りで歩数も多い「いいとこどり」の走りを実現させていると思われる。

今回、特に注目したのは、周東が三塁に到達したときの体勢だ。実際に記録した三塁打のタイムに合わせて併記すると、以下のとおりである。

4位 10秒75 オーバーラン
3位 10秒73 フットスライディング
2位 10秒70 スタンディング

動画と併せてチェックしてほしい。2位となる10秒70を記録した際は、なんと、スライディングをせずに、手前で速度を落として悠々三塁に到着したときだった。そんな、バカな…と言いたくなるほどである。

一般的にスライディングをしているときのほうがタイムは良いはず。ということは、まだまだ、タイムが良くなる伸びしろが十分あるということになる。実際、昨年、周東が記録したタイムを確認してみると、1位になったタイムは10秒55という破格の数字であった。要するに今シーズンは、そこまで全力で走るべきシーンがたまたま無かったということだろう。

本当に末恐ろしい選手である。こと走塁については、周東選手の時代がしばらく続くのだろうか。

三塁到達タイムが遅かったのは楽天の岩見と西武のメヒア

いや、待ってほしい。今回のランキングは、1位に別の選手が入ってきている。この周東選手をさらに凌駕した選手がいるのである。果たして、それは誰なのか? ひとつ番外編を挟んだあとで、正体を明かすことにしよう。

野球において、プレー時間がもっとも長いのが三塁打と、冒頭で述べた。選手が走る姿を長く見られることを意味するとも述べたが、それゆえに速い選手と遅い選手の格差も明確に判別できてしまう。つまり、三塁打とほとんど縁のない選手にチャンスが訪れると、大層ドタバタする姿を観客はみることになるわけだ。

今シーズン、そんな走りをみせたのが、岩見雅紀内野手(楽天)とエルネスト・メヒア内野手(西武)のふたりだった。

両選手とも打球方向の左右の違いこそあれども、外野手が打球処理にもたついたことで生まれた千載一遇のチャンスである。必死に走った末に、公称体重108キロの岩見選手は地響きしそうな迫力のヘッドスライディングによる到達で12秒46、118キロのメヒア選手は足からのスライディングで12秒57。なんとかボールより先に三塁ベースにたどり着いた。

しかし、これはこれでご愛嬌というもの。滅多に走らない距離を必死の形相でたどり着こうとする姿には趣を誘うものがある。ファンやベンチも盛り上がるため、足の遅いことを自覚している選手もぜひトライしてほしい。もちろん、セーフになるのが大前提ではあるのだが……。

周東を抑えて1位に輝いたのはオリックスのスピードスター佐野

いよいよ、おまちかねの1位は、オリックスの若きスピードスターこと佐野皓大外野手が奪取した。そのタイムは10秒68。繰り返すが、盗塁王を獲得した「今が旬」の周東を抑え込んでの1位である。

だが、個人的に私自身はそれほど驚いていない。なぜなら、昨年の開幕直後に計測した二塁打の到達タイムのランキングにおいて、佐野は2位以下を大きく引き離す7秒36というタイムで堂々の1位に輝いていたからだ。

当時はオリックスの若いスピードスター候補として開幕から1軍に抜擢されていた佐野。今シーズンは、両打ちから右打ちに専念して、おもに代走でチームに貢献していたが、快足を生かすため途中から再び両打ちに戻る決意をしてファームで再調整をした期間もある。

そのせいか、打撃の成績としては昨年から若干上積みされた程度にとどまったものの、盗塁数は昨年の13から20へと大きく伸ばしている。目立った活躍をみせる周東の独壇場とみられがちなパ・リーグだが、佐野の走力は、ことタイムだけならまったく引けをとっていない。

さらに少し気が早い話だが、この秋のドラフトでは、中学時代に陸上の全国大会で100メートル、200メートルとも優勝した経験のある五十幡亮太選手(中央大)が日本ハムから2位指名を受けた。五十幡選手は、東都大学リーグで、すでにこのふたりとほぼ同等のタイムを出しており、大きな期待がかかる。

2021年のパ・リーグ走塁界は周東だけでなく、若い韋駄天たちがどんどん台頭してくる気配が漂っている。ますますスリリングになることが予想されるスピードキング争いが、今から楽しみだ。(「パ・リーグ インサイト」キビタキビオ)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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