大坂なおみ、人間力の大きさも魅力 「もっと進化できる」来季は東京五輪照準

 女子テニスの大坂なおみ(日清食品)のトレーニング担当として、2年ぶりの全米オープン優勝を支えた中村豊氏(48)がオンラインでの取材に応じた。「チームなおみ」は11月上旬から拠点のロサンゼルスで東京五輪が控える来季に向けてハードなトレーニングを開始している。中村氏は「4年に1度のイベントで彼女の五輪に対する思いは強い。もっともっと進化できる」と語り、来季はチーム一丸で夏の大舞台に照準を合わせていることを明かした。(共同通信=吉谷剛)

女子テニスの大坂なおみ(中央)を支えるトレーニング担当の中村豊氏(左)とコーチのウィム・フィセッテ氏=11月、ロサンゼルス(中村豊氏提供・共同)

 ―8~9月の全米で左太ももを痛めた後は、全仏オープンなどには出場せずに今季を終えた。

 「けがが理由というわけではなく、全米の後は全仏まで2週間しかなく動き方も変わるクレーコートで調整時間がないということで(残りシーズンの休養を)チームで話し合って決めた。彼女も新型コロナウイルス禍の中で全米を目標に頑張ってきて、大きな注目を集めた。(全仏に)出るからには結果を求められる立場でもあり、今回は調整の時間が足りず出場が難しかった」

 ―今の練習内容は。

 「ウィム・フィセッテ・コーチとともに11月からかなりきついメニューを組んで、心肺機能の強化や負荷を高めた中での動きに取り組んでいる。大坂選手も10月に23歳になりここからがピークだが、あと10年はプレーできるようにと考えている。フィジカル的にはコート上での細かい動きをもっと高められると思っている。股関節周辺を強化してスピードアップし、より速くより正確に一つ一つの動きの精度を高め、来季はより成長した姿を見せられればと思う」

 6月に新たに大坂のチームに加わった中村氏は、かつては四大大会全制覇を果たしたマリア・シャラポワ(ロシア)をサポートしたこともある。現在のテニスは男女ともに強固なフィジカルを作らないと、タフなシーズンを乗り切ることはできない。そのためにはオフの期間の取り組みでフィジカルの「貯金」を作ることが何よりも重要になっている。

 ―このオフの1日の流れは。

 「朝8時ごろから朝食を取って、9時から1時間ほどアップをしてその後に10時からコートでテニスの練習を1時間半ほど。昼から2時間ぐらいトレーニングという形で密度の濃い練習をしている。11月は3週間活動して1週間ほど休みを取った。(11月末に再合流して)12月も同じように取り組む予定だ。シーズンが始まればまとまったトレーニングの時間が取れないので、この期間を利用して底上げを図りたい。来年1年間をしっかり戦えるように、彼女のキャパシティーを大きくしていきたい」

 ―来季は東京五輪が控える。

 「大坂選手とのミーティングでも東京五輪の話題が多く出るようになった。五輪のシーズンは過密日程となる中で、体調面を整えるのが難しくなる。特に移動が増えると疲労が抜けにくくなる。今年6月から彼女と組み始めたばかりで遠征も(全米の)ニューヨークのみだった。世界中を転戦するツアーでは、体の微妙な変化や雰囲気を感じて一緒に調整していくことが大事。そのためには私も彼女のことをもっと知り、彼女とともに学んでいきたい。来季は過密日程の中でけがをしないために体の強化や体調面のケアがより大切になる」

テニスの全米オープン女子シングルス決勝でフォアを構える大坂なおみ=9月12日、ニューヨーク(USA TODAY・ロイター=共同)

 新型コロナウイルス禍から初めての四大大会となった全米オープン。黒人差別反対運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)=BLM」への賛同として、大坂は白人警官らによる犠牲者の名前入りマスクを着用して試合に臨んだ。静かに強い意志を持って戦い続ける姿勢に中村氏は感銘を受け、彼女の人間力の大きさを実感したという。

 ―全米優勝時には「大坂なおみの人としての器の大きさにも魅力がある」と言っていた。

 「普通の23歳という雰囲気と、23歳とは思えない大人の側面がある。テニスの大坂なおみと、コート以外の大坂なおみというさまざまな顔を持っている。全米ではBLMの運動に賛同して、犠牲者の名前入りマスクを着用したように、自分という『プラットホーム』を使ってその影響力をうまく活用している。彼女自身が小さいころにあこがれていた選手がいてそれを追いかけたように、今は自分が子どもたちのあこがれになりたいと思っている。(彼女の行動や姿勢に)賛否両論があるのも分かっていて、『できれば賛成してくれたらうれしい』という姿勢も共感を呼んでいる。ファッションでも自分のスタイルがあるし、SNSを活用しての情報発信力がある。アスリート以外の面でも深みがある」

テニスの全米オープンで、人種差別に抗議して黒人被害者名が入ったマスクを着用した大坂なおみ(左列上から下に1回戦~3回戦、中央上から下に4回戦~準決勝、右は決勝)=ニューヨーク(AP、USAトゥデー、ゲッティ=共同)

 ―来季の目標は。

 「彼女レベルの選手になれば、グランドスラム(四大大会)で優勝という成績を残せるかどうかが目標となる。そして東京五輪での活躍というのは彼女も口にしている。キャリアを考えると五輪のチャンスは東京と2024年のパリ、28年のロサンゼルスの3回。東京五輪に向けての争いはもう始まっているし、夏の東京で心技体万全に臨めるようにサポートしていきたい」

 2021年のテニス界は新型コロナの再流行で大会日程などは20年同様に流動的になりそうだ。ひとまず1月にメルボルンで開催予定の四大大会第1戦、全豪オープンを目標に「チームなおみ」は既にスタートを切っている。

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