球場に届いた批判の手紙、3日間泣いた札幌の夜… 甲斐拓也が激白する中傷と苦悩の1年

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】

3試合連続でスタメンから外れた札幌遠征「3日間部屋でずっと泣いていた」

25日まで行われていた「SMBC日本シリーズ2020」で巨人に4連勝し、4年連続の日本一に輝いたソフトバンク。2年連続のスイープでセ・リーグ覇者を倒した日本シリーズで巨人打線を徹底的に封じたのが屈強な投手陣と4試合すべてでマスクを被った甲斐拓也捕手のバッテリーだった。

チームの日本一に大きく貢献した甲斐が心境を激白したFull-Countの単独インタビューの第4回。ここまで日本シリーズでいかにして巨人打線を封じたのかを語ってきたが、今季の苦悩についての胸中も明かした。

4年連続の日本一を成し遂げた後、歓喜の輪で甲斐は1人、PayPayドームの天井を見上げていた。「やっと終わった……」。3年ぶりのリーグ優勝、クライマックスシリーズ突破、そして4年連続の日本一……。喜び以上に、1年の苦悩が報われた安堵感が胸に押し寄せた。

2020年のシーズンを振り返り、甲斐は1年間をこう形容する。「本当に苦しかったです」。結果的には優勝し、日本一にはなったが、これまでにないほどに悩み、落ち込み、苦しんだ1年だった。

開幕した直後は2度の3連敗を喫するなど、しばらくは借金生活が続いた。甲斐自身も7月3日からの日本ハムとの6連戦で3試合連続でスタメンから外された。必死にやってもうまくいかない日々。「札幌では本当に今までにない気持ちになりました。全てを投げ出して辞めてしまいたいくらいに思いました。3日間、ずっと夜、部屋で泣いていました」。試合を終えてホテルに戻ると、毎晩涙を流した。

本拠地に届いた批判の手紙は1通ではなく何通もあった…

「これだけやろうとしているのになんで、とキャッチャーって本当に辛いポジションだな、と思った時間でした。あの時は寝れなかったし、泣いても泣いても涙が出る感じでした」。誰にも会いたくないから、とホテルの食事会場にも行かず。1人でコンビニで食料を買い込み、自室で1人食べ、そして、また考えて涙した。

その後もしばらくは苦悩の日々を過ごしていた。「なかなか立ち直れなかったですね。どれだけやっても負ける時は負けるし、うまくいかないこともある。ただ負けると『甲斐だから』となったり、そういう声も聞くじゃないですか。そういうふうに見られているんだな、って思っちゃうし、怖くなる時もあった。自信はなくなりかけましたし、そういう状態はしばらくずっと続いていましたね」と振り返る。

最後まで優勝を争ったロッテにはシーズン途中まで4勝11敗1分と大きく負け越していた。シーズン中盤からチームは首位に立っていたが、ロッテ戦の苦戦もあってイマイチ波に乗り切れないチーム状況に、批判の矛先は正捕手の甲斐に向いていた。厳しい声は日増しに高まり、それは否が応でも耳に入ってきた。

「いろんなところでいろんな声が聞こえて、聞きたくない情報とか目に入れたくないことも自然と入ってきましたね」

SNS上などでは匿名でファンが批判の声をあげ、それはリード面だけではなく、甲斐の人格批判とも取れるようなエスカレートしたモノも散見された。本拠地PayPayドームには批判の手紙まで届いた。それも1通だけではなく何通もあったという。そこには「お前を見ているとムカつくんだよ」「ツーストライクになったら外ばっかりになるのやめろ」などといった批判の文面が綴られていた。

批判の手紙を敢えてロッカーへ「今に見とけよ」

この手紙を、甲斐はあえてベンチ裏のロッカーにしばらく置いていた。「今に見とけよ」。言いたい放題言う人間たちを黙らせたい。そのためには勝つしかない。絶対に負けたくないという反骨心から来る行動だった。チームは10月10日のロッテ戦から怒涛の12連勝を飾り、リーグ優勝へと突っ走った。チームが勝ち出すにつれて、批判の声も下火になった。「もういいやろ」。ようやく甲斐もその“批判の手紙”を捨てることができた。

「捕手はそういう見られ方をするポジション。結局は勝つことが全てなんです。叩こうと思ったら、いくらでも叩ける。でも、そういう人たちはチームの中のことは知らないし、その日の投手の状態、使える球種、使えない球種も分かっていない。結果論でしかモノを言わない。でも、そういう無責任な言葉でも僕らは引きずったり、傷付いたりするんです。ただ、今となっては無責任な言葉に自分を左右されないようにしようと思うようになりました。勝っている時は言ってこないですよね。見返したい、見とけよと思っていました」

甲斐はこう投手陣を称える。「投げた投手がすごいし、やってくれた投手が本当に頑張ってくれた結果だと思っている。結局そういうことだと思います」。辿り着いた4年連続日本一の座。歓喜の瞬間は、幾多の苦労と苦悩が報われた瞬間でもあった。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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