怒涛のクライム・サスペンス『サイレント・トーキョー』監督・波多野貴文のこだわりとは?「“観る”こと以外は考えさせたくない」

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

物語、音響、キャスト……波多野監督が“こだわり”を語る

クリスマス・イブの東京で、もし爆破テロが起こったら――。「アンフェア」の原作者・秦建日子による小説を「SP」シリーズ(2007年~)の波多野貴文監督が映画化した『サイレント・トーキョー』(2020年12月4日公開)は、そんな衝撃的な物語だ。

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『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

TV局にかかってきた「恵比寿に爆弾を仕掛けた」との電話。それを機に、「次の標的は渋谷・ハチ公前。要求は首相との生対談」という犯行声明が出される。カメラは容疑者とされる・朝比奈仁(佐藤浩市)や、事件に巻き込まれた主婦・山口アイコ(石田ゆり子)、事件を追う刑事・世田志乃夫(西島秀俊)らを見つめながら、一連のテロ事件に隠された真相を暴いていく――。

<99分ノンストップの衝撃>の謳い文句が示す通り、幕開けからエンドロールまで緊迫感が途切れることなく、一気に駆け抜ける本作。劇中の見せ場のひとつである渋谷の爆破シーンは、約3億円の巨費を投じ、巨大なオープンセットを建造したという(※他作品との共同出資)。

スリルとスケールを堪能でき、社会派の要素もはらんだ怒涛のサスペンスエンターテインメントを作り上げた波多野監督に、じっくりと話を聞いた。

『サイレント・トーキョー』波多野貴文監督

没入感へのこだわり――“観る”こと以外は考えさせたくない

―序盤から息つく間もないスピーディな展開が畳みかけますが、この構成は最初から狙っていたものなのでしょうか?

そうですね。原作を読ませていただいた段階で「このスピード感を殺したくないな」と思っていたので、100分以内と決めていました。

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

―波多野監督は、初演出を務められたドラマ「逃亡者 木島丈一郎」(2005年)しかり「SP」シリーズ(2007~2011年)しかり、緊迫感のある作品を多く手掛けられています。

観客の皆さんを逃がさないものを作りたいなと思っています。せっかく観に来ていただいているので、その貴重な2時間は他のことを考えさせないようにしたい。映画ってやっぱりリフレッシュするものだと思うので、集中を切らさずに、興味をずっと持ってもらえる時間にしたいんです。「腰が痛いな」とか(笑)、感じさせないくらいに没入できるものを目指していますね。

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

―その意識というのは、チャンネルを替えられる可能性があるテレビドラマのご経験で培ってきたものなのでしょうか。

いや、テレビってCMがあるから息抜きができたり、逆に時間をすっ飛ばしてくれるじゃないですか。あと、CM前とCM明け用のカットもあるから、撮り方やカットの考え方はずいぶん違うかと思いますね。

映画だと、“2時間”という時間の中で流れ続けるものだから、変に飛ばすこともできないし、観客の皆さんに観続けてもらわないといけない。創り手は楽をせず「観る側に映像は本物だと思わせる事」が重要だと思います。

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

―この作劇の方法論、ちょっとハリウッド映画らしさを感じるところもありましたが、波多野監督ご自身はどんな映画がお好きですか?

衝撃を受けたのは『激突!』(1971年)でしょうか。あとは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ(1985~1990年)も好きですし、疲れたときにはよく『紅の豚』(1992年)を観ます。『スタンド・バイ・ミー』(1986年)も好きですね。最近だと『TENET テネット』(2020年)は素晴らしかった。どれも没入感があって、そこで“生きられる”んですよね。2時間の間、観ることしか考えないくらい、引き込んでくれる。

劇場で「爆発」を体感できる、音像の設計

―没入感のお話にもつながるかと思いますが、『サイレント・トーキョー』の制作にあたり、様々な専門家の方に取材されたと伺いました。どういったことを学ばれたのでしょうか。

本作の一番の引きは“渋谷で爆破テロが起こる”かと思いますが、犯人だったら渋谷のどういうところに爆弾を仕掛けるのかとか、爆弾を仕掛けられたら警察はどう動くのか、どういう警備をするのか……通行止めの範囲や各省庁との連携、近隣のデパートやお店に対する要請の仕方、バスの運行ルート等々、細かなことを徹底的に詰めていきました。

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

ただ、例えば警察にしろ、様々な部署の方にお話を伺ったときに、「一度もそんな経験したことがないから、分からない」ということもあるんですよね。「こういう手順になっているけど、この通りに動くのかは分からない」みたいなところもありましたし、爆弾テロが実際に起こったら混乱して、混雑したり指揮系統が混乱したりもあるかと思うので、ディテールを組み立てていくのがすごく難しかったです。

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

観客の皆さんが「爆弾を警察が探せないって、なくない?」みたいなことになっちゃうとアウトだと思ったので、どこにどういう感じで爆弾を仕掛ければ見つけられないのかを詰めていくのに、非常に時間がかかりました。よく「神は細部に宿る」といいますが、一瞬たりとも気は抜けないですよね。

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

―劇中の“音”に関しても、こだわり抜いたと伺いました。

緩急を意識したのと、映画音楽を環境音的に使いました。音楽が鳴っているというよりは、ずうっと“這わせる”ような感じで、雰囲気作りを行っています。そうなると「音を抜く」演出が効果的になるんです。たとえば、渋谷で爆破が起こった際、西島秀俊さん演じる主人公の世田が立ち上がって周囲の惨状を見てしまう息苦しさや、急に周りの音が聞こえてくるときのやっと呼吸が出来るような感じ……爆破の瞬間に音を消して、その後、目に見えない大気の流れを感じられるように設計しました。

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

―劇場の音響でこそ、真価を発揮できる演出ですね。

そうですね。無音は劇場でしか体験出来ませんし、爆破音は、民生機(家庭用のもの)だと表現しきれないと思います。劇場の音響だと、音圧というか衝撃も地鳴りがするようなレベルにしてありますので。2Dではあれど、“体感”できるものになっています。

観た後に色々と考えられる“ヒント”が隠されている

―波多野監督は「SP」でも“国会議事堂がテロリストに占拠される”というセンセーションなシーンを描かれていて、今回は“クリスマスの渋谷で爆破テロ”と、これまた攻めた物語が展開します。また、本作では「戦争」というワードが象徴的に出てきますよね。娯楽性と社会性について、どうお考えでしょうか?

それが引っかかる人に興味を持ってもらえればいいかなと思っています。社会性が強すぎると間口が狭くなってしまうし、基本的には大人が観ても子どもが観ても楽しめるものにはしたい。広く観ていただいて、劇場を出た後とか、ご飯を食べているときなどに話題に上ったら嬉しいですね。

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

もちろん『サイレント・トーキョー』は、「あの事件の“意味”はなんだったんだろう」と考えなくても観られますが、観た後に皆さんがどうお感じになったのか、聞きたいなとは思います。サスペンスでありアクションであり、おっしゃっていただいたように社会派の側面もありますが、愛の話でもあるんです。色々な側面を持っている作品だとは感じています。

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

―いまのお話にある通り、どの登場人物に視点を合わせるかで、見え方が変わりますよね。

出てくる人物それぞれに、物語があるんですよね。倫也くん演じる須永が主人公のような気もするし、石田さん扮するアイコが軸でもある。井之脇海くんが演じた来栖を中心に観ることもできる。広瀬アリスさんが演じた真奈美が、傷ついたところからどう立ち上がるかという再起の物語でもありますよね。群像劇として様々な人を描いたことで、この作品が成立しているような気がします。

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

―ただ一方で本作は、意図的に登場人物の説明や背景の描写を削いでいます。そのことが冒頭にお話しいただいたスピード感を生み出していますが、逆に撮影現場で役者陣と密に話し合い、すり合わせる必要があったのでは、と感じました。

そうですね。僕はあんまりこと細かには演出を行わないのですが、今回は特に「その人物がどういう歴史をたどってきたのか?」を話すことが多くて、それを佐藤浩市さんや西島秀俊さん、石田ゆり子さん、中村倫也さんほか皆さんに解釈いただいてお芝居してもらいました。

観客の皆さんも、「何をしたかったんだろう?」とか「これはどういうことだろう?」と引っかかってもらえたら嬉しいですね。西島さん演じる世田の首には傷がありますが、劇中では説明はされない。でも、首に傷があるということは生死をさまよう経験をしているということなんです。だからこそ、爆発に巻き込まれた人々のこれから先の恐怖を誰よりも知っているでしょうし……。そういったヒントや、想像していただけるポイント、“余白”がいっぱいある作品になっていると思うので、楽しんでいただきたいですね。

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

―映画の中にあるのは“今”の連続だからこそ、その先やその前を色々考えられますよね。

そうなると嬉しいなと思います。別の時期に観ていただいたり、年齢を重ねてから観ていただいたりすると、また違った発見があるのではないでしょうか。

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

―キャスト陣についてもお伺いしたいのですが、西島秀俊さんと中村倫也さんとは『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』(2018年)でも組まれていますよね。全くテイストの違う作品を一緒に作られてきましたが、お2人の魅力とは?

西島さんは、佇まいからしてもう画になるんですよね。眼差しがすごくまっすぐだし、観ているだけでグッと来てしまう(笑)。芝居にウソがないから、非常に魅力的です。そのうえで、先ほどの首の傷の話など、すごく考え抜いて世田を作ってきてくれるので、そのことが『サイレント・トーキョー』のリアリティを上げていますし、「この人はこの世界の中で生きているんだな」ということが、立っているだけで伝わってくるんです。

倫也くんとは、結構長いんですよ。テレビを中心にやっていた時から何度も出てもらっているから、すごく信頼の厚い役者ですね。僕にとっては、今回の須永というキャラクターはどうしてもやってほしかったから、参加してくれてうれしかったですね。倫也くんにはゲイの役や引きこもりの役など、これまでに様々な役をお願いしてきたのですが、どの役も生き生きしているからすごいなと思わされます。倫也くんであって倫也くんじゃないというか……どの役にも彼らしさがあるのに、違っている。出演しているドラマ(「この恋あたためますか」)も、ついつい観ちゃうんです(笑)。

―人物像をしっかり作っているからこそ、ですね。

今回、出演していただいた皆さんに共通して言えるのは、観ていて引き込まれるということ。だから僕も、撮りたくなりますね。作品に“出ている”というよりは、この世界観を“生きている”からこそできる表情なのだろうなと思います。

『サイレント・トーキョー』Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

あとはやっぱり、“この人が演じる”という説得力も大きいと思います。役者さんによって、同じセリフであっても強弱も違いますしね。浩市さんが言うから納得できる、ということも往々にしてありますし、これまで生きてこられた人生の積み重ね――今まで生きてきた時間と人柄はお芝居に出ると改めて思わされましたね。

取材・文:SYO

『サイレント・トーキョー』は2020年12月4日(金)より全国公開

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