国内108銀行「リスク管理債権状況」調査 (2020年9月中間期単独決算)

 新型コロナ感染拡大で企業業績が悪化するなかで、国内108銀行の2020年9月中間期の「リスク管理債権」が7兆1,616億円(前年同期比9.4%増)と急増。2019年同期に引き続き、2年連続で前年同期を上回った。増加したのは、大手行6行、地方銀行49行、第二地銀29行の計84行で、前年同期の51行から1.6倍と大幅に増えた。
 また、倒産や債務整理などで債権を回収できない場合に備えて計上する「貸倒引当金」は、合計3兆1,819億円に達した。前年同期(2兆6,406億円)より20.4%(5,412億円増)増え、2年連続で前年同期を上回った。貸倒引当金を積み増したのは、大手行7行、地方銀行47行、第二地銀25行の合計79行(前年同期63行)で、銀行全体の73.1%を占め、調査を開始した2008年3月期以降で、2009年3月期の67行を超え最多を記録した。
 新型コロナウイルス感染拡大で、5月以降は民間金融機関も中小企業の資金繰り支援のために実質無利子・無担保の貸出を行い、「貸出金」残高は計570兆3,878億円(前年同期比5.6%増)と、調査を開始した以降で最高となった。
 11月に入り、新型コロナ感染は第3波が危惧され、収束の見通しが立たない状況になっている。企業業績の回復が遅れ、国・自治体や金融機関の政策で抑制されている企業倒産も、政策効果が薄れる時期を迎え、増加が懸念されている。銀行は企業支援を進める一方、与信費用の積み増しが避けられない難しい局面に入っている。

  • ※本調査は、国内108銀行の2020年9月中間期決算(単独)で、「リスク管理債権」(破綻先債権、延滞債権、3カ月以上延滞債権、貸出条件緩和債権)、および「貸倒引当金」を集計し、分析した。
    銀行業態は、1.埼玉りそなを含む大手行7行、2.地方銀行は全国地銀協加盟行、3.第二地銀は第二地銀協加盟行。

リスク管理債権 前年同期比9.4%増と急増

 2020年9月中間期の「リスク管理債権」は合計7兆1,616億円だった。前年同期の6兆5,404億円から9.4%増(6,212億円増加)と急増し、2年連続で前年同期を上回った。
 貸出金に占める「リスク管理債権」比率は1.25%で、前年同期より0.04ポイント上昇した。
 「リスク管理債権」の内訳は、「破綻先債権」が3,275億円(前年同期比40.0%増)、「延滞債権」が5兆508億円(同4.2%増)、「3カ月以上延滞債権」が859億円(同32.9%増)、「貸出条件緩和債権」が1兆6,971億円(同21.3%増)と、軒並み大幅に増加した。
 2019年は人手不足で企業の人件費が上昇し、収益に大きな足かせとなった。そうしたなかで、2020年2月の新型コロナ感染拡大で企業活動が一気に縮小、先行きの見通しも立たず、業績悪化の企業が増えてリスク管理債権が大幅に膨らんだ。
 さらに、中小企業の資金繰り支援で保証協会付き貸出のほか、プロパー貸出も伸びたことで、「貸倒引当金」も前年同期比20.4%増と、大幅に積み増した。

リスク管理債権

業態別 銀行の8割弱の84行でリスク管理債権が増加

 「リスク管理債権」の合計額は、全業態で前年同期を上回った。大手行は2兆2,329億円(前年同期比17.7%増)と、2年連続で前年同期を上回った。9月中間期で2兆円台に乗せたのは2017年同期以来、3年ぶり。
 地方銀行は3兆9,500億円(同5.6%増)で、3年連続で増加した。
 第二地銀は9,787億円(同8.0%増)で、9月中間期で前年同期を上回ったのは2012年同期以来、8年ぶり。
 「リスク管理債権」が増えたのは、大手行が7行のうち6行(前年同期6行)、地方銀行が63行のうち49行(同30行)、第二地銀38行のうち29行(同15行)の計84行。前年同期の51行から1.6倍に増えた。大手企業などを主要取引先の大手行でも、リスク管理債権額の伸び率が大きかった。
 また、地域金融機関として地元企業を中心に取引する地方銀行や第二地銀は、コロナ禍での積極的な貸出と取引企業の業績悪化を背景に増加が際立った。

貸出金 調査を開始した以降、残高が最高

 2020年9月中間期の「貸出金」残高合計は、570兆3,878億円(前年同期比5.6%増)。9月中間期では、2011年同期から10年連続で増加し、調査開始の2008年以降で最高の残高を記録した。
 業態別では、大手行が290兆4,455億円(前年同期比5.7%増、前年同期差15兆7,878億円増)、地方銀行が228兆3,602億円(同5.3%増、同11兆6,037億円増)、第二地銀が51兆5,820億円(同6.8%増、同3兆3,163億円増)と、全業態で伸ばした。
 貸出金残高を伸ばしたのは、大手行が6行(前年同期6行)、地方銀行が61行(同56行)、第二地銀が37行(同30行)の合計104行(同92行)。コロナ禍で上場企業でも手元資金を厚くするなど、企業の資金調達ニーズが高まり貸出を伸ばした。
 「貸出金利息」の合計は2兆9,916億円(前年同期比17.1%減)で、9月中間期では4年ぶりに前年同期を下回った。業態別では、大手行が1兆5,952億円(同26.6%減)、地方銀行が1兆1,098億円(同3.3%減)、第二地銀が2,865億円(同0.3%減)で、いずれも前年同期を下回った。
 貸出金は、全業態で前年同期を上回ったが、貸出金利息は全業態で前年同期を下回った。日本銀行がマイナス金利を導入して以降、低金利での貸出競争が続き、貸出による収益確保の厳しさを示している。

貸倒引当金 『増加』銀行が最多の79行に

 2020年9月中間期の「貸倒引当金」合計は、3兆1,819億円(前年同期比20.4%増)と急増した。9月中間期では2年連続で増加し、増加率は前年同期の2.3%増から18.1ポイント上昇した。
 2019年は、人手不足に伴う収益悪化に加え、消費増税などで9月から企業倒産が増勢をたどり、12月から2020年4月まで増加率は10%超と急増した。2020年は、年初から新型コロナ感染拡大で市場が一気に収縮した。国や自治体、金融機関の助成金や給付金、貸出支援で企業の資金繰りは一時的に緩和し、企業倒産は7月以降、4カ月連続で前年同月を下回るなど抑制されている。
 金融庁は2019年12月、「金融検査マニュアル」を廃止した。これにより金融機関は財務データや担保などだけでなく、将来の情報を引当金に反映し、体力に応じて保守的に貸倒引当金を積み増すことが可能になった。こうした状況を背景に、コロナ禍での企業の実情を踏まえて貸倒引当金を積み増す銀行が大幅に増えた。
 業態別では、大手行が1兆3,192億円(同44.7%増)、第二地銀が3,236億円(同10.1%増)、地方銀行も1兆5,390億円(同7.2%増)と、全業態で前年同期を上回った。
 108行のうち、貸倒引当金を積み増したのは、大手行7行(前年同期4行)、地方銀行47行(同43行)、第二地銀25行(同16行)の計79行(構成比73.1%)。前年同期(63行)から16行増え、2008年3月期に調査を開始以降、リーマン・ショック時の2009年3月期の67行を超え、最多を記録した。なお、『増加』した銀行数が、『減少』した銀行数を上回ったのは、2年連続。

リスク管理債権

 2020年2月以降、新型コロナが猛威を振るい、企業業績は急激に悪化した。5月以降、民間の金融機関でも実質無利息、無担保の貸出が開始されるなど、国や自治体、金融機関より積極的に中小企業の資金繰り支援が行われた。
 2020年4月まで8カ月連続で増加していた企業倒産も、5月にはコロナ禍での一部業務の縮小もあり大幅に減少。さらに、資金繰り支援も奏功し、7月以降は、4カ月連続で前年同月を下回るなど、企業倒産は抑制された。
 しかし、新型コロナ感染拡大の収束が見えないなかで、企業業績の改善の見通しは立たない状況にある。2019年12月に金融庁が「金融検査マニュアル」を廃止したことで、フォワードルッキンによる予防的な引当金計上も一部で導入され始めている。2020年9月中間期では、108行のうち、調査開始以降で最多行数となる79行が貸倒引当金を積み増していて、企業の先行きの厳しさが懸念されている。また、低金利での貸出が続くなかで、貸倒引当金の積み増しによる与信費用の増加などもあり、四半期純利益が66行で前年同期を下回り、5行(前年同期5行)が赤字になった。
 未だに低金利での貸出が続き、金融機関の収益状況は好転していない。そこに、新型コロナの感染拡大が、貸出先の企業に大きな影響を及ぼしている。貸倒引当金の積み増しは、銀行の経営体力差に大きく連動する。「取引先の支援」と「不良債権の回避」のどちらを銀行が優先するのか、そして、銀行自身が生き残りのためにどうのように動いていくかが、一段と注目される。

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