学生×FFG イノベーション 「人がつながる場」学生主導、ラウンジ開設

鶴田さん(手前左)や山羽さん(同右)ら学生が主導し開設したラウンジ=長崎大(撮影のためマスクを外しています)

 経営人材の育成やベンチャー創出に向け、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)が長崎大に昨秋設立した「長崎大学FFGアントレプレナーシップセンター」(NFEC)は、新型コロナウイルス禍の制約を受けながらも4月から教育プログラムを展開している。学生は交流を通じイノベーション(革新)を起こす場としてラウンジを開設。社会人受講生は同大の技術シーズ(種)を題材にイノベーションの手法を学んだ。

 1日夜、長崎市文教町の長崎大工学部棟1階で、オレンジ色の壁がひときわ目を引く部屋が披露された。「長崎」「オープンイノベーション」「ベンチャー」「エンパワーメント(力を与える)」の頭文字を取った愛称は「NOVE(ノヴァ)」。NFECは教育プログラムを受けたり、口コミで集まったりした学生有志28人に企画や施工、運営をほぼ任せた。山下淳司センター長(十八親和銀行出向)らがサポートし、学生は企業に普及しつつあるチャットツール「Slack(スラック)」で情報交換しながら準備を進めた。
 社会人との交流や、学生サークル・団体間の交流のほか、何らかのプロジェクトを計画遂行する場として使ってもらう。事務員のほか、学生が交代でマネジャーを務め交流を促すことも検討中。
 約66平方メートル、土足禁止。床の半分は上がりかまちのように一段高く、くつろげるようクッションを置いた。リーダーの山羽香穂さん(19)=水産学部2年=は「靴を脱ぐのは固定観念にとらわれず、新しいアイデアを生み出せるように。思考が煮詰まったら(高床エリアで)リフレッシュしてもらえれば」と語る。
 もう1人のリーダー、鶴田諒さん(21)=工学部3年=は9月、FFG主催の長崎学生ビジネスプランコンテストで入賞。コロナ禍で対面授業やアルバイトの時間が減る中、起業に興味を深めている。「いろんな方と出会い、刺激を受けた。このラウンジに人が集まり、つながってほしい」と話した。
 同大と県、県産業振興財団が地域課題解決のため7月に締結した産学官連携協定に基づく「長崎オープンイノベーション拠点」としても、会議やイベントに活用される。
 アントレプレナーシップは「起業家精神」の意味。社会人向け教育プログラムは、5科目以上の修了要件を満たせば、同大から履修証明書が交付される。27人と大学院生が受講しているが、6月の開講当初からオンライン授業が続いた。
 上條由紀子教授が担当するイノベーション論では、受講生がグループ別に同大研究者の技術シーズを調べ、開発の進み具合や魅力、競合状況などを評価。初の対面授業となった11月6日に発表会を開いた。
 取り上げたのはIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)で養殖の生産性を上げる「スマート生け簀(す)」など計6シーズ。副業マッチングアプリを調べたグループは、市民43人にインタビューし「コロナ禍でニーズは高い」と分析。要望の多い機能を追加し、十八親和銀からの取引先紹介で副業登録数を増やすよう提案した。審査員は「消費者やユーザーから生の声を拾い、研究者にフィードバックする意義は大きい」と述べた。
 受講した第一印刷(大村市)の川原健司常務(39)は「いろんなシーズがあると知った。ここで得た知識や人脈を生かし新規事業を模索したい」と話した。
 この授業は「FFGインキュベーションプログラム」も兼ねる。インキュベーターは「卵をふ化させる機器」から転じ、起業支援を指す。FFGが有望な技術シーズに対し、市場調査や資金調達などを通じ事業化を手伝う。NFECは教育プログラムとこれを事業の2本柱にしている。

スマート生け簀の調査結果を発表する社会人受講生=長崎大

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