はんこ文化の転換期

 今年の新語・流行語大賞の候補に「テレワーク」というのがあった。職場には出ずに、通信機器を使って自宅などで働くことを言い、図らずも新型コロナで広まった▲春ごろ、いつもは在宅勤務というサラリーマンが、東京の駅でテレビの取材に応じていた。「週に1回、出社してます。印鑑を押しに…」。はんこで決裁しないとテレワークが進まない。お気の毒であり、ちぐはぐな話でもある▲その「はんこ文化」に手が付けられる。今の内閣は、行政手続きの押印をなくす方へとかじを切り、婚姻届も確定申告も、やがて印鑑なしにするという▲その流れに沿って、県は独自に見直せる手続きのうち、700種類ほどの押印廃止を明らかにした。やがてオンライン申請などに切り替える▲江戸の昔、はんこは庶民にも広く用いられ、〈契約や生活の場面で、はんこなくしては権利の行使ができないほど〉だったという。古代から現代まで、人と印鑑との関わりを研究する門田誠一さんが著書「はんこと日本人」(大巧社)にそう書いている▲大げさかもしれないが、何百年も続く「はんこ文化」はいま、曲がり角に立っている。課長の机に決裁文書の山…というのも、昭和や平成の懐かしい風景になるのかどうか。少なくとも「押印のための出社」は昔話になっていい。(徹)


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