「結果だけを追い求めず、どう準備するか」 ロッテ安田を救った鳥谷のアドバイス

ロッテ・安田尚憲【写真:荒川祐史】

プロ3年目で任された4番「期待に応えられなかったことが、すごく悔しかったです」

プロ3年目の2020年、ロッテ安田尚憲は87試合で4番を任された。開幕4番のレアードは腰の故障で7月下旬に戦列を離れ、8月に帰国。井上晴哉、中村奨吾、マーティンという選択肢がある中で、井口資仁監督が選んだのは安田だった。

文字通りの“抜擢”だ。ルーキーイヤーの2018年は1軍で17試合に出場したが、8安打、1本塁打、7打点、打率.151の成績。プロの厳しさだけを思い知らされた。2年目の昨季はイースタン・リーグで最多本塁打(19本)、最多打点(82打点)の2冠を飾るが、1軍には一度も呼ばれず。それでも井口監督が安田を4番に指名したのは、21歳の若きスラッガーに対する「期待」しかない。

113試合に出場して打率.221、6本塁打、54打点の成績。安田は「期待に応えられなかったことが、すごく悔しかったです。なかなか結果が出ない時も多かったので、とても満足がいくシーズンではなかったですね」と、真っ直ぐな目で振り返る。

だが、果たして指揮官が期待したのは、4番に相応しい数字を残すことだけだったのだろうか。成績はもちろんだが、これからチームを引っ張っていく自覚、4番が背負う責任を感じ取ることも期待していたように思う。では、安田はその期待には応えられたのか。答えは「イエス」だろう。

「課題がたくさん見えた」という今季。シーズンを通じて1軍でプレーした安田が痛感したのは、「ずっとスタメンで出るというしんどさ」だったという。

「右も左も分からない状態で4番をやらせてもらって、最初は少し打てていたんですけど、途中から自分の実力不足で打たせてもらえなくなってしまった。なかなかチームが勝てない時はプレッシャーも感じましたけど、その辺は先輩方がすごくサポートしてくださったんです。4番を任された自分がああいう成績でもチームが2位になれたのは、本当に先輩方のおかげだなって思います」

今季は三塁の守備が安定したと評判だったが、「自分の持ち味はバッティング」と自認する。ファームで2冠に輝いても、1軍のピッチャーは「球の強さだったり、変化球のキレであったり、全てにおいて違う」と感じた。

「どうやって1軍で活躍してるピッチャーの150キロを超えるストレートを打ち返せるか。どうやったら逆方向であったり、センター方向にホームランを打つことができるのか。やっぱり真っ直ぐをしっかり打ち返すという基本が大事になってくる。打ち負けない技術であったり、気持ちだったり、一回りも二回りも成長していかないといけないと思いました」

安田の気持ちを楽にした、ベテラン鳥谷から掛けられた言葉

安田には、今季忘れられない打席がある。10月1日、敵地・札幌ドームで行われた日本ハム戦で、9回2死満塁で迎えた第5打席だ。

前日の同カードに勝利し、首位ソフトバンクにゲーム差なしで並んで迎えた一戦。ロッテが勝てば単独首位に立つチャンスがあった。2-3と1点を追うロッテは9回、2死から2連打と四球で満塁という逆転の絶好機を作った。打席に立ったのは、4番の安田。宮西尚生と対峙するとフルカウントから2球ファウルで粘ったが、8球目の外角低めストレートに手が出ず、見逃し三振に倒れた。

「一番悔しかったのが、札幌ドームで9回2アウト満塁で2-3で見逃し三振した時。手が出ませんでした。ああいうところで1本出していきたいと思いましたし、そういう勝負どころで回ってきて(走者を)返すのが4番の仕事。今年はまだまだだったので、来年以降はそういう場面でも打ち返せるように技術や気持ちをもっともっと上げていきたいです」

強豪・履正社高時代からチームはもちろん、U-18代表でも主砲を任された。自らのバットでチームを牽引する役割には慣れている。だが、やはりプロの世界で4番を務めるとなれば話は別だ。4打数4安打でも、4打数4三振でも、寝て起きればまた、新しい試合がやってくる。結果の出ない試合が続き、頭を悩ませていた安田を救ったのは、先輩たちの存在だった。中でも、今季からロッテに加入したベテラン、鳥谷敬の言葉が心に残っているという。

「鳥谷さんとロッカーが近いのでいろいろ話を聞かせてもらう中で、『プロはいい時も悪い時もあるけど、試合は毎日ある。そこで一喜一憂するんじゃなくて、どう準備するかが大事。結果だけを追い求めると、どんどん自分がしんどくなってしまうから、どうやって自分が成長できるか、どうチームに貢献できるのかを考えて毎日を過ごした方がいいよ』って言っていただきました。そこで気持ちが少し楽になりました」

その日の結果を引きずらず、次の日には新しい気持ちで試合に臨む。この切り替えができたからこそ、鳥谷はプロ17年という長いキャリアを送る中で2000本安打、1939試合連続出場という大記録打ち立てることができたのだろう。大先輩の言葉に「切り替えをどうやったら上手くできるか。そこも勉強になりました。できていないからこそ、鳥谷さんがそういうことを仰有ってくれたんだと思います」と、安田は感謝の気持ちしかない。

初出場のCSで来季につながる手応え「この経験を来季以降もしっかり生かしていかないと…」

初出場したクライマックスシリーズでは、第1戦にソフトバンクの千賀滉大から先制2ランを放ち、第2戦では先制打を含む猛打賞の活躍を見せた。チームは残念ながら敗退したが、安田は来季につながる手応えを掴んでシーズンを終えた。

「この経験を来季以降もしっかり生かしていかないと、今年1年使ってもらった意味が本当に何もなくなってしまうので、この悔しさを忘れずに、来年もう1回新たな気持ちでレギュラーを獲りにいくつもりで頑張りたいです」と語る言葉は頼もしい。

常に3年後くらいの自分をイメージしているといい、「チームの信頼を勝ち取って『安田に回れば大丈夫』と思ってもらえるバッターになりたいです」と力強い。野球に関する言動は落ち着きに溢れているが、その素顔はスポーツ観戦好きの21歳だ。このオフは車の免許を取る予定で、ドライブに出掛けることも楽しみの1つにしている。

「12月、1月の過ごし方が大事になってくる。来シーズンはしっかり成績が残せるようい、冬からいい準備をしていきたいと思います」

2021年。安田がどんな成長を遂げるのか、楽しみだ。

【動画】ロッテ安田が「一番悔しかった」と語った10月1日の日本ハム戦での見逃し三振

ロッテ安田が「一番悔しかった」と語った10月1日の日本ハム戦での見逃し三振【動画:パリーグTV】 signature

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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