パリで子どもがモデルをしたら、11年後にやっと報酬が支払われたワケ

長女が7歳の時にパリで服の子供モデルをする機会がありました。エッフェル塔をバックにトロカデロで撮影を行い、その写真が子供雑誌を飾りました。その時の報酬が、じつは撮影から11年を経て、娘の成人と共に娘の手元に渡りました。

日本でも、子役や子供モデルが活躍していますが、フランスでもその需要は年々高まっています。しかし、子供の労働条件を制約する規定の細かさ、特にお金の扱いには、日仏間で大きな違いがありました。


高まる子役ニーズ

近年、広告などで子供を目にする機会が増えています。例えばミネラルウオーター「エビアン」が、赤ちゃんを起用した広告を大ヒットさせたように、子供モデルの起用は今や子供服やおもちゃといった子供向け商品に限られません。

「需要は年々高まっている」と、パリのモデル事務所「marilou(マリルー)」のディレクター、マリアンヌ ・トゥルオン氏は語ります。同事務所は1年前に創業し、現時点では成人モデルのみを扱っていますが、来年早々には子供セクションの新設準備を予定。「市場のニーズに応えるためにも、子供セクションは必須」と、同氏は続けます。

親が子供の財産を管理できる日本

日本では、労働基準法で「義務教育が終わるまでの児童(15歳以下)を労働者として使用してはならない」ことが定められています。ただし、労働基準監督署長の許可を得た場合、「映画の制作や演劇の事業」に従事するものとして、満13歳に満たない子供でも労働者として契約がすることができます。

この場合、子供の労働時間は、就学時間(学校の授業時間)を通算して1日当たり7時間、1週間当たり40時間を超えてはならない(法60条)などの規定があります。そして、親権者または保証人が未成年者の労働契約を代わって締結してはならないこと、未成年者が独立して賃金を請求できること、親権者または保証人が未成年者の賃金を代わって受け取ってはならないことも決められています。

要するに、子供の就学の機会が守られ、子供が得た報酬が子供本人に届くよう規定が存在します。しかしながら、親には子供の財産を管理する代表権があります。

子供の報酬は成人するまでブロックされるフランス

一方、フランスでは16歳未満の子供の労働は禁止。ただしスペクタクル(舞台やテレビ・映画出演など)の場合と、モデルの場合の2つのケースに分けて、非常に厳しい労働協約が存在します。

2017年にエビアンが出し話題となった広告

例えば子供モデルの労働時間は、生後3カ月から6カ月未満は1日最長1時間、週最長1時間。非常に短時間です。就学児童となる6歳から12歳未満は1日最長3時間(長期休暇中は6時間)、週最長4時間30分(長期休暇中は12時間)などとなり、しかも学校がある期間は日曜日の労働は禁止されています。

日曜日は子供自身の休息のために必要で、また子供が優先すべき学業のためにも日曜日の休息は確保されなければならないという考えが現れています。

報酬については、フランスの場合、子供が成人する18歳まで、全額または90%が貯金供託金庫に預けられます。つまり、子供が18歳になるまで口座がブロックされており、18歳になった時に初めて小切手や銀行振り込みで、子供本人の口座に支払われるという仕組みです。報酬を得た子供が成人するまでは、親はもちろん、子供本人にもお金を自由に使うことはできません。

子供本人に報酬が支払われても、その管理を親が行える日本とは、この点で大きく違っています。

厳格な労働協約は子供の成長を守る「安心」

こういったフランスの労働協約を、前出のトゥルオン氏は「子供本人にとってはもちろん、親にとっても、またモデル事務所を経営する私たちにとっても安心だ」と言います。

パリ市内のバス停に掲示されたラルフローレンのポスター

この「安心」という言葉は、単に子供本人への報酬の保証を意味するにとどまりません。子供の就学機会と就学の権利を守り、心身ともに健全な成長を続けられる環境を確保するシステムが、社会に存在することも含まれます。

子供服ブランド「Lours Paris(ルウスパリ)」経営者のオードレイ・ムーラン氏も、「子供モデルの報酬は、当然本人に支払われるべきだし、成人した時、つまり自分で責任が持てる年齢に成長した時点で支払われるというシステムも理にかなっている」と述べます。一人の人間として子供本人の権利を守るシステムが存在していることは、確かに安心です。

報酬の一部を成人まで保護することを義務付けた「クーガン法」

子役と報酬を語る時、よく引き合いに出されるのが1939年にアメリカのカリフォルニア州で制定された「クーガン法」です。かのチャップリンと共演した子役のジャッキー・クーガンは、当時未成年であったために自身では報酬を管理することができず、親に一銭も残さず使い込まれてしまいました。これを受けて制定されたのが「クーガン法」でした。

日本でも、子役としてトーク番組「あっぱれさんま大先生」などに出演し、人気を博したタレントの内山信二さんが、多大な報酬に金銭感覚や家族関係が狂ってしまったことを後に明かしています。

親は子供の保護者ではありますが、親も人間であり、何が起こるかは誰にもわかりません。金銭を前にし、いわゆる「魔がさす」危険から親を守るためにも、子供の労働協約を厳格に定めることは有効と言えそうです。

〈文:Keiko Sumino-Leblanc / 加藤亨延〉

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