全てを出し切る東京五輪に なでしこジャパンの熊谷主将 アスリートは語る(3)

 サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」は、東京五輪での金メダルを目標に据える。大黒柱は2011年女子ワールドカップ(W杯)優勝や12年ロンドン五輪銀メダルに貢献し、欧州最強のクラブ「リヨン」で戦い続ける主将のDF熊谷紗希。10月22日、オンライン取材で五輪への思いなどを語った。(共同通信=大沢祥平)

サッカー女子の欧州CLで優勝し、トロフィーを掲げるリヨンの熊谷=サンセバスチャン(ロイター=共同)

 ▽最高の気分

 ―2019~20年の欧州女子チャンピオンズリーグは中断後、8月に再開。リヨンは決勝でウォルフスブルク(ドイツ)に3―1で勝ち、5連覇を果たしました。

 バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)との準々決勝(2―1)、パリ・サンジェルマン(フランス)との準決勝(1―0)と、とても難しい試合が続きましたが、チームとして試合を重ねるごとにつかめてきたものがありました。決勝は「行ける」という感覚があり、自信を持ってやるべきことをやって、かなりいい試合ができました。

 ―日本代表ではセンターバックですが、リヨンでは守備的ミッドフィールダーのボランチですね。前半終了間際、左足で鮮やかなミドルシュートを決めました。

 気分はもう最高でした。もちろん、チームの勝利に貢献するにはいろいろな形がありますが、あの舞台で得点できたのは最高でした。

サッカー女子の欧州CL決勝で得点を決めるリヨンの熊谷(右)=サンセバスチャン(ロイター=共同)

 ―新型コロナウイルス対策の一環で、スペインでの集中開催もありました。

 試合前後には必ず検査がありました。こんなに、というくらい検査を受けて、かなり安心感がありました。基本的にホテルからの外出も禁止だったので、あの状況で感染するという不安はありませんでした。

 ―リヨンでプレーしていることが、ほかの選手やサッカー選手を目指す少女の「道しるべになれば」という話を以前からされています。

 気持ちは全く変わっていません。東京五輪が延期になり、他の選手のプランがずれた可能性もありますが、日本の選手にはもっと海外へ出てほしいとずっと思っています。海外で培ってきた経験は、私だから伝えられるし、表現していかなければいけないものです。それが結果的に子どもたちの夢になってくれたらうれしいというのもあります。

 ▽プレーできる喜び

 ―現在拠点を置くフランスでは、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な状況だと聞きます。

 日本とは比べものにならないと思います。リヨンでも知り合いの知り合いや、男子選手も何人かかかってしまいました。育成組織の若手選手もです。

 ―どんな風に暮らしているのですか。差し支えない範囲で教えてください。

 こちらでは、そもそも自分のコミュニティーがそこまで広くはありません。関わる人がある程度限られてくるので、自分で自分を守れているのかなと思います。基本的には、チームで毎週必ずPCR検査をしています。

 ―欧州チャンピオンズリーグ再開以前の活動休止期間は、どんな心境でしたか。

 3月の米国での日本代表としての活動から戻って、すぐにチームの活動がストップしました。まず2週間の都市封鎖がありました。五輪があるのに、何もできないのはきついという焦りもありました。チームには日本へ帰りたいという話もしましたが、五輪延期が決まったので、焦りはなくなりました。

 そこからは、チームのトレーニングメニューに助けられました。家でやるべきことをやるという感じで。でも、6週間を過ぎたあたりから、もう何のために頑張っているか分からなくなってきた時期もありましたね。

10月22日、オンライン取材に答える熊谷

 ―活動再開が決まって持ち直したのですか。

 本当にそうですね。欧州チャンピオンズリーグやフランス・カップの日程が出て再開となった頃には、少しイレギュラーな新シーズンみたいな気持ちでやれました。「やっとサッカーができる!」という喜びがありました。

 ▽全部を出す

 ―五輪へ向けて、なでしこジャパンも活動を再開しています。

 チームとしてやるべきことを詰めていくことが一番大事です。

 ―フランスで東京五輪は話題に上りますか。

 東京五輪は日本の女子サッカーからするとビッグイベント。ただ、欧州のサッカー選手にとっての重要度で言えば、ワールドカップ(W杯)が上です。イングランド代表のチームメートには「やれそうなの?」と状況を聞かれますが、フランス代表が出場しないこともあってか、あまり話題には上りません。そこまで先を見ていない感じがあります。

 でも、私は日本代表として戦っています。日本の方の関心の高さはロンドン五輪で感じました。W杯で優勝した後というのもあったかもしれないですが。日本の女子サッカーを知ってもらう、見てもらう機会として五輪は大きな意味を持つと思います。

 ―昨年のW杯フランス大会は16強で敗退しました。東京五輪に懸ける思いを改めて、聞かせてください。

 全部を出し切れる大会にしたいです。金メダルを東京で、というのがもちろん目標ですが、何より悔いなく全部を出しきる。難しいですが、これを一番やりたいです。日本でやることの意味はすごく大きいんです。リアルタイムでいろいろな方に見てもらえるので、そういうところを、結果とともに見せられればと思います。

 

サッカー女子W杯フランス大会のイングランド戦で攻め込む熊谷=2019年6月、ニース

  熊谷 紗希(くまがい・さき) 女子日本代表DFとして11年女子W杯優勝、12年ロンドン五輪銀メダル、15年W杯準優勝。現主将で代表通算112試合、1得点。宮城・常盤木学園高からなでしこリーグの浦和を経て、11年夏にドイツのフランクフルトへ。13年夏からはフランスのリヨンで主力として、欧州女子CL5連覇などに貢献。30歳。札幌市出身。

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