北欧のクリスマスに見る「子どもの主体的な行動を褒めて育てる」コミュニケーション

「ラーゴム(ちょうどいい)」な生活を送るための北欧のライフスタイルを紹介する本連載。今回はスウェーデンで生活する中で感じた個性の育て方と、それを支える学校教育について触れます。好きなことを続けたり、新しいことを始めることに寛容な環境をつくるヒントについて考えてみます。

与えられる教育ではなく、個性に合わせて選ぶもの

スウェーデンを代表する個性的なデザイナー「Bengt&Lotta;」のクリスマス用ディスプレイ

個性を大切にするスウェーデン。自由で自立した国民性をイメージする人も多いと思います。家族同士のコミュニケーションでも、大人も子どもを一個人とみなし、お互いに尊重しています。

ではスウェーデン社会において、個性はどのように育まれるのでしょうか。家庭環境だけでなく、教育のしくみにもヒントがありそうです。

スウェーデンの義務教育課程は、7歳から15歳の9年間。日本の小中学生を合わせた期間と同じで、3年ごとに低学年、中学年、高学年の3区分に分かれており、ひとまとめで「グルンドスコーラン」と呼ばれます。

公立だけでなく私立もありますが、いずれも学費は無料。居住地ごとの学区も定められていないため、自治体内のどの学校にも申し込みが可能です。そのため、学校探しは自己責任。親は学校の特徴を見極めながら、子どもの個性に合った学校を探す必要があります。

学校検索サイト「Skolkollen」
教育の質を比較できる政府の統計データも掲載されている

学校検索サイト「Skolkollen」によると、首都ストックホルム市内には277校のグルンドスコーランがあります。すべての学校は政府が定める学習指導要領に従い品質が保たれていますが、一部の学校では音楽やIT教育、スポーツなど特定の学科に力を入れています。

クリスマスシーズンのコンサートなど、生活の一部として歌を大切にしているスウェーデンでは幼稚園の頃から合唱団に入る子どもも多く、音楽に特化したグルンドスコーランは人気があります。

たとえば、アドルフ・フレドリク音楽学校には1000人以上の生徒が学んでおり、聖歌隊のための合唱の授業が充実しています。音楽室は合唱の練習に最適化されており、机はコの字型で階段状に配置されています。

4年生のクラスを見学した際には、生徒たちは各パートに分かれて並び、基礎的な発声練習を音楽大学出身の教師のもと、ていねいに行なっていました。ちょうど1ヶ月後にコンサートを控えていることもあり、真剣そのものです。

ストックホルム市内にあるアドルフ・フレドリク音楽学校

このように、公立といえども学校ごとに特徴が異なります。中高学年のみを対象とした学校もあるため、グルンドスコーランの途中から別の学校に入学し直すケースもあります。

どの学校を選ぶかには、もちろん兄弟姉妹の有無や通いやすさなど、各家庭の事情はあると思います。ただ、子どもの個性に合わせた自由な選択を後押しする制度が用意されており、その中でそれぞれが考え、意思決定を行なっています。

9年間の義務教育を終えると、次は日本の高校にあたる、3年間のジムナシエスコーランです。ここでは大学進学を見据えた学科中心のものと、職業的な知識を身につけるものといった、2つのパッケージが用意されています。私の妹が高校時代にスウェーデンに留学した際にも、カリキュラムが自由であることに驚いていました。

すべてが自己責任となるので、スウェーデンの成人年齢は18歳からですが、多くの家庭ではジムナシエスコーランに進学したタイミングから子どもは独り立ちするものと考えます。そのため、グルンドスコーランの高学年を迎える13歳あたりから、自分自身がアイデンティティや個性と向き合う機会が増えます。

相手の考えを受け入れ、全力でサポートする

ホストファミリーの子どもたちは公立の音楽学校に通っています。合唱団にも所属しているため、放課後に練習やコンサートに参加するなど音楽中心の生活です。クリスマスシーズンにはいるとほとんど休みなくコンサートが続きます。

教会で開かれる合唱団のコンサート
コンベンションホールで開かれる聖ルチア祭のコンサート

あるとき、グルンドスコーラン高学年となった子どもの一人が、歌は好きだけど成長するにつれて聴きたい音楽のジャンルも変わり、合唱団を続けるモチベーションが低下していると話してくれました。「今後も合唱団をしていくかどうか、まだわからない。」歌とどんな関わりを持ち続けられるか。大人にとっても難しい問題です。

この個性が育っていく多感な時期に、ホストファミリーは子どもたちの将来の選択肢を広げるサポートを行なっていました。好きなミュージシャンにインタビューしてPodcastで配信するという、音楽との新しい関わり方の機会の提供です。

そして、出来栄えや視聴数などの成果ではなく、そのことにチャレンジできたプロセスをとことん褒めます。自分の興味あることの周辺で経験を積み重ねることで、子どもたちの個性は尊重され、自信につながっていくのではないかと感じました。

主体的なアクションが個性の成長につながる

個性の尊重と成長へのサポートが必要なのは大人も同じです。スウェーデンにはリカレント教育と呼ばれる制度があり、社会に出た後でも、いつでも大学で学び直すことができます。自分が何をしたいかを常に考え、主体的に選びながら個性と向き合える環境が整えられています。

このような制度もありますが、自分が何をしたいのかを明確にすることで、日常生活においても家族や同僚といった身近な仲間が経験積み重ねのプロセスに関わることができます。

スウェーデン滞在中に印象に残っていることのひとつが、何かする度に「jättebra!(すごい、すばらしいの意。ヤッテブローと発音する)」とたくさん褒められたことです。それは私が外国人だからというわけではなく、家族間のコミュニケーションでもよく感じていました。

中でも一番嬉しかったのが、日頃の感謝の気持ちをホストシスターに伝えたときに返ってきた返事です。

「あなたがいろいろな人と知り合い、知識や経験をたくさん共有しようとする姿を子どもたちに見せてくれることは彼らの将来にいい影響を与えるのよ。あなた好奇心旺盛ですぐに行動できるところは、あなたの素晴らしい個性であり長所なの」

自らの行動のプロセスを褒められたということ、また個性として認識してもらえたことは自信につながりました。

渡航前のホストシスターとのやりとり。目的を言語化
実際に子どもたちと電子工作ワークショップを実施

実はこのとき、ホストシスターとは、私の滞在中に何を経験したいかという目的を共有していました。きっかけは、何をしたいか教えて欲しいというホストシスターからのリクエストでした。サバティカル休暇でもあったため私自身も成長したいという思いが強く、滞在期間に得たい情報、学びたいことのテーマをあらかじめ3つ設定しました。

これらをインプットするためのアクションプランも大まかに作成し、合わせて伝えました。それにより、ホストとしての生活面のサポートだけでなく、私の経験に必要な人物と引き合わせてくれたりメンターとして私の目的達成の一番の応援団になってくれました。

ラーゴム(ちょうどいい)を知るということは自分の興味や感情に素直ということ。そして大事なのは、自分で考えアクションを起こすことです。お互いの個性を尊重したコミュニケーションが、好きなことを続けたり、新しいことを始めて学びを得るための、ポジティブで寛容な社会を育てるのだと感じました。

これまでの【北欧のライフスタイルから学ぶちょうどいい生活】は

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