ポストコロナを見据え、労働市場改革など提言 日本生産性本部65周年記念大会

ポストコロナを見据えて日本の経済社会を改革し、持続的な成長に不可欠な生産性向上を実現するためにはどうしたらよいのか。のべ70名以上の各界有識者が登壇した「生産性運動65周年記念大会」が2020年10月26・27日の2日間にわたって開催された。 

生産性運動65周年大会パネルディスカッションの様子

主催する日本生産性本部は今年創立65周年を迎え、9月には日本の生産性向上にむけた課題を分析した「生産性白書」を刊行。大会1日目は、日本生産性本部の副会長や、白書をとりまとめた経済界、労働界、学識者のメンバーが、政府や企業が今後とるべき道筋について討論した。 

第1セッション「経済社会のパラダイムシフトとこれからの改革課題」では、元東京大学総長の佐々木毅氏や連合会長の神津里季生氏ら日本生産性本部の副会長5名が登壇し、ポストコロナを見据えて、日本が目指すべき経済社会のあり方とその実現に向けた改革の方向性や取り組むべき課題について議論を行った。

登壇者からは、まず日本の現状について、世界で不安定な状況が続くなか政治・経済システムや国と地方のあり方について改めて考える必要性や、持続可能性が疑わしい社会のセーフティネットや財政、サービス業の生産性の低さ、デジタル化の遅れや非正規雇用労働者の問題点が指摘された。

そのうえで登壇者それぞれから今後の改革に向けた提言がなされた。東京大学大学院客員教授の増田寛也氏は、ポストコロナにおいては国土改革の方針をこれまでの「多極分散」から「多極集中」に転換するべきだとした。これは、東京に過度に集中している機能の一部を札幌・福岡など地方の中心都市に移転することでグローバル経済における競争ができる都市に成長させるというもので、国土全体の利用価値を高めるという広い観点に立つことが必要だとした。また、神津氏と政策研究大学院大学特別教授の大田弘子氏はともに労働市場の改革を訴えた。コロナ禍のような未曽有の危機では産業の枠を超えて雇用を確保することが重要であり、そのためには流動性の高い労働市場の構築が欠かせないとしたうえで、転職を前提としたセーフティネットの見直しと個々の能力を最大限引き出すための人材育成をセットで行うことがカギだと指摘した。

 第2セッション「生産性改革の今日的課題~『生産性白書』をめぐって~」では、「生産性白書」をとりまとめた経済界・労働界・学識者のメンバーが、イノベーションや人材育成、働き方など生産性向上のために必要な課題をテーマに討論した。

まず、地球産業文化研究所特別顧問の福川伸次氏と学習院大学経済学部教授の宮川努氏から『生産性白書』の概要と白書に盛り込まれた8つの提言について説明があった。

続いて行われた議論では、生産性向上の鍵であるデジタル化と人材育成について、帝人相談役の大八木成男氏が長期的な視点で企業や社会のあり方を見据えながらデジタル化を推進していくことの重要性を、東京大学社会科学研究所教授の水町勇一郎氏が多様な人材が活躍できる社会基盤の整備の必要性を指摘した。

また、生産性三原則の意義について、全国労働組合生産性会議前議長の野中孝泰氏と日本私立学校振興・共済事業団理事長の清家篤氏はともに三原則の一つである「成果の公正な分配」が今後ますます重要になるとした。野中氏は今年のダボス会議で株主重視からステークホルダー重視の資本主義への転換が論議されたことを踏まえて成果の公正な分配のあり方は世界的な課題となっているとの認識を示した。また、清家氏は、生産性向上の目的は働く人たちの生活が豊かになることだとしたうえで、生産性向上で得られた成果を賃金上昇や労働時間短縮だけではなく能力開発の形で分配することも必要だと述べた。

最後に、福川氏は「収益の価値、顧客の価値、従業員・労働の価値、社会価値、この四つの価値の総和を最大化することが企業経営の根幹ではないか」と結んだ。

大会の様子はアーカイブ映像で順次公開されている。

© 公益財団法人日本生産性本部