トライアウトの悲壮感は「周りが思っているだけ」 出場選手にある“共通点”とは?

元中日・友永翔太氏【写真提供:株式会社みらいくーる】

中日で外野手として5年間プレーした友永翔太氏は昨年出場

来季NPB球団でのプレーを目指し、戦力外となった選手らが挑戦する「12球団合同トライアウト」が、7日に開催される。再起をかける“運命の1日”に選手たちはどう挑み、どう過ごすのか――。昨年のトライアウトに出場した元外野手は、出場者に共通している心情を語る。

いろんなユニホームの選手がグラウンドに入り乱れ、たった数球、数打席に人生を賭す。プロ野球人生の瀬戸際に立った選手たちが挑む舞台には、悲壮感すら雰囲気が漂っているようにも思える。だが、選手たちの心持ちは周囲の思いとは一線を画しているという。

「よく崖っぷちの悲壮感だとか言われますが、周りの人たちが思っているだけなのかなと。僕もそうでしたが、選手たちはみんな自信を持って胸張って臨んでいましたね。まだ野球が好きだって気持ちで、ギラギラしていました」

2019年限りで中日を戦力外になった友永翔太氏は、そう1年前を振り返る。2014年のドラフトで3位指名を受けて日本通運から入団し、外野手として5年間プレー。トライアウトでは4打数無安打に終わり、現役引退を決断した。

友永氏は当初参加するつもりはなかったが、「まだユニホームを来ている姿が見たい」という家族の思いもあって挑戦。トライアウト前夜は、まったく眠りにつけなかったことを思い出す。

プロ人生の分かれ道…トライアウト前夜は「全然寝られなかった」

「明日人生が変わるかもしれない。逆に野球人生が終わるかもしれない。そんな1日が待っていると思うと、全然寝られなかったです。やめるか続けるかの分かれ道にもなるわけですからね」

投手は打者3人と対戦し、打者には4打席ほど与えられる。「マイナス面なんて一切考えない。いかにやってきたことを信じて、自分らしさを出すか。それしか考えてなかったです」。中途半端なプレーだけはやるまいと心に決め、友永氏はあえて声を出して一緒にプレーする選手たちを鼓舞した。「もう技術うんぬんというより、気持ちが支配している場所」と言い切る。

友永氏はその後、民間企業が新たに創設した「ワールドトライアウト」にも参加。「最初のトライアウトで家族にも悔しい思いをさせてしまったなと。どうしても最後にいい姿を見せたかった」。その舞台で2打席連続打点を挙げるなど存在感を示し、気持ちに区切りをつけて現役生活に別れを告げた。

トライアウト経験者のひとりとして、あらためて思うことがある。

「戦力外にならないことが一番。だけど、もし野球をやめる決断をするのなら、出た方がいいのかなと思います。誰にでもできる経験じゃないし、次に繋がるものはあると思う」

友永氏は現役生活の分岐点を目の当たりにし、あらためてセカンドキャリアの重要性を実感。後輩たちの手本になれるよう起業家として第2の人生をスタートさせ、結婚相談所の運営やアパレル事業などに乗り出している。

今年もまた、あの舞台がやってくる。「出場する選手たちには、悔いだけは残してもらいたくないですね」。一縷の望みにかける選手たちが、自らの力を出し切ることだけを祈っている。(小西亮 / Ryo Konishi)

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