日本Sの最中に2軍選手に突然電話「この感じでいい」 鷹・長谷川勇也が注ぐ“親心”

ソフトバンク・長谷川勇也【写真:荒川祐史】

日本シリーズMVPの栗原もベテランのアドバイスで上向き

海外FA権を行使しての移籍が取り沙汰されながら、ソフトバンク残留を決めた長谷川勇也外野手。3、4日に行われた契約更改では、その残留決断を喜ぶかのように若手選手から「長谷川さんが…」というコメントが相次いで聞かれた。

今季ブレークを果たした栗原陵矢は、ソロ本塁打を含む2安打3打点を挙げた10月4日の日本ハム戦後にこう話していた。

「長谷川さんが(1軍に)上がってきて『お前の場合は目付けだけだ。自分が打てるところを待っとけ』と言われたので、自分が打てるところに来た球は初球からしっかり振りにいくようにしています。『自分が打てると思ったところをしっかりスイングしていけばいい。それが空振りになってもいいんだ』とも言ってもらいました。それはすごく大きかったですね」

鷹の打撃職人のアドバイスを胸に刻んだ栗原は、日本シリーズでMVPを獲得。さらに“長谷川の教え”は栗原だけにとどまらない。

3日に契約更改したリチャードは「どこかの記事で長谷川さんが栗さん(栗原)に『選球眼じゃなくて選球体になれ』って言っているのを見たんです。すごいこと言っているなと思って、会った時にその話を聞こうと思っていたんです。長谷川さんに教わったのは、目で見るんじゃなくて身体に任せる打ち方ですね」と語る。

その話を聞いた数日後に長谷川が新型コロナウイルスの検査で陽性判定を受け、リチャードも濃厚接触者とされたが「自粛明けに実践したら、すぐにホームランが出ました」と“教えの効果”を実感したという。

日本シリーズ最中にもかかわらず若手に連絡「この感じでいいから…」

4日には、2019年ドラフト1位の佐藤直樹が同じように長谷川の名前を出した。打撃に苦しんでいた佐藤は、9月終わりに筑後で長谷川にアドバイスを求めた。

「ナイター終わりで夜も遅かったんですが、いろんなことを教えていただいて打撃の感覚がガラリと変わりました。それまで来た球を何となく打ちにいっていたんですが、長谷川さんから『自分が決めたところをしっかり打ちにいくように』と言われました。『それでミスショットしたら、そこから修正していけばいいんだよ』とも言っていただきました」

その後、佐藤は打撃が向上し、10月には月間打率.310を記録するまでになった。

同じく4日に契約更改した増田は、長谷川からの連絡に救われたという。昨年、高校時代からの古傷である右手首を手術。ようやく8月に実戦復帰したが、復帰直後は「いい状態じゃなかった」という。それでも「みやざきフェニックス・リーグ」で本来の感覚を取り戻しつつあった。その時に長谷川から突然連絡が入った。

「日本シリーズの最中にもかかわらず、フェニックスでの僕の打撃を見ていただいて『この感じでいいからボールとの距離や間合い、タイミングを固めていければいい』と言っていただいたんです。その言葉が自分の中でも大きな自信になりました」

筑後では長谷川とロッカーが向かい合わせで「いろんな話を聞かせていただきましたし、付きっ切りで練習にも付き合っていただきました」と感謝する。

2年前の契約更改で長谷川が語った若手選手への物足りなさ

ちょうど2年前の12月。契約更改会見の場で、長谷川は当時の2軍の若手選手に対して“カツ”を入れるような発言をしている。

「意識の高い選手がいない。何のためにプロに入ってきたのか、何のためにユニホームを着ているのか、伝わるものがなかった。年齢を重ねて後輩の見方が変わってきたところもあるが、だから負けちゃいけないし、負けるわけがないとも思っている。ベテランはみんな、若い選手に負けるなんてまったく思っていない」

当時、佐藤はまだ入団していなかったが、増田は1年目、リチャードはまだ育成の1年目を終えた頃。栗原は4年目でキャンプ終盤に肩を脱臼しながらも1軍で11試合に出場してプロ初安打を記録した年だ。長谷川の発言に呼応するかのように、それぞれに長谷川に自ら助言を求め、それを結果につなげるまでに成長した。

2021年シーズンも、ソフトバンクのポジション争いは熾烈を極める。長谷川自身でさえ、外野のレギュラーが約束されているわけでない。それでも長谷川は、このチームの中で自分自身を磨き続ける決断を下した。そんな長谷川の背中を見ながら、若手たちはさらなる高みを目指していくことだろう。決して数字だけでは表せない長谷川の存在感を、改めて思い知らされた契約更改だった。(藤浦一都 / Kazuto Fujiura)

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