【国会議員に聞く学術会議問題】「権力行使は禁欲的になるべき」嘉田由紀子氏

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日本学術会議の任命拒否問題について語る嘉田氏(参院議員会館)

 -日本学術会議の任命拒否問題は政治権力の行使の在り方にも関わってくる。滋賀県知事を2期8年務めた経験からどう感じるか。

 「権力行使は隅々まで理解できている領域以外はそれぞれの分野の専門家の意見をよく聞いて禁欲的になるべき」

 「私は初当選した2006年の知事選で支持を得たとして、工事に向けて動いていた東海道新幹線の栗東新駅を一晩でひっくり返した。ダムもそれまで建設に動いていた県内の六つを任期の8年間で基本的には凍結か中止にさせてもらった。私はどちらも徹底的に勉強していた。駅やダムを中止して節約したお金を子育てや教育、環境、文化に注いだ。自分が自信を持って善政と思うところは権力行使してもいいけど、それ以外は禁欲的にならないといけない」

 -菅首相も「前例踏襲はしない」「国民のためになる」といった「信念」を語るが。

 「じゃあ、前例踏襲じゃない理由を言ってくれなきゃ。総合的、俯瞰的では理由にならない。後から取って付けたように女性や若い人が少ない、旧帝大系が多くて、民間企業の研究者が少ないとか言っているが、多様性の幅はもうすでに広がっている。私が学者だった20年ほど前、日本学術会議で講演したが、女性はほとんどおらず、権威的だった。その後、随分民主化して女性も増えている。信念と言うなら根拠が必要であり、私が『新幹線駅はいらない』『ダムはいらない』と言った時は根拠を示しました」

 -今回の問題で政治が学問の自由を脅かしているとの指摘がある。学者を経験した立場からどう思うか。

 「自民党や菅さんがどれだけ科学技術のことを分かっているのか。人類はいま未知の世界に入っている。例えば地球温暖化をどう防ぐか。政治だけでは無理。エネルギー革命にしても、新型コロナも未知の世界。未知の世界は科学技術と研究がないと見えない。コロナ対策ではスーパーコンピューターの「富岳」が感染拡大防止に役立っている。新しい技術や、知識が今こそ必要な時代に科学技術、研究をおろそかにしたら、国に未来がない。今こそ、科学者や技術者の発言を尊重しないといけない」

 「自分が知らない分野は研究者を尊重しなきゃ。そうしないと新しい発見なんてできない。まして日本は資源がない。人的資源しかないというのに科学技術を軽視して、この研究分野は気に入らんからと言ってチェックするなんて、『せこい』。共謀罪反対だから任命しないなんて、せこい。権力者はもっと鷹揚になってほしい」

 -ノーベル賞を取った日本の科学者は毎回基礎研究の大切さを政府に訴える。

 「ここ30年ほど、自民党も民主党政権も科学技術を軽視しすぎてきた。国立大の運営費交付金は毎年1パーセントずつ、100億円ずつ削られている。10年たつと1割減。その余波は人件費削減になる。若い研究者が安定した職につけなくて任期つきの5年契約などになる。ノーベル賞を受賞した京都大の本庶佑さんや山中伸弥さんは、もう少し基礎研究にお金があった時代に研究ができた人。このままではノーベル賞はこの後出てこない。研究を軽視して日本の未来はどうするんですか」

 -嘉田さんは滋賀県の研究機関に勤めていた経験がある。研究者として県当局とどんな関係を築いたか。

 「1981年、琵琶湖研究所に入った時は水質とか生態系とか自然科学の人が主流で、私のような社会学や人類学の研究者はいなかった。これらの学問はどうしても発表が社会的な問題になる。琵琶湖総合開発の批判もするだろう。そういうことも含めて研究の発表の自由を確保してくれと交渉した。琵琶湖研究所や琵琶湖博物館で研究の自由度を担保するため許可決裁ではなく『届け』になった。時として県政の批判もしたが、当時から県当局は研究の自由を担保してくれた」

 -今回の問題は民主主義にも関わってくる。

 「反対意見を排除するのなら独裁。民主主義というのは、反対と賛成の意見があって対話や熟議を重ねて最終的に意思形成する。時には多数決にしないといけないかもしれないが、議論もなく、聞く耳を持たず頭からメンバーを外すのはどうか。学術会議は研究者が戦争に協力したことの反省からできている。1949年の発会式で、当時の吉田茂首相は、時々の政治的便宜のための制約を受けることのないよう高度の自主性が与えられている、と述べている。1980年代には当時の中曽根康弘首相も「政府の任命は形式的」と独立性を強調している。なぜ今、政権与党が独立性を尊重してきた任命を拒否しなきゃいけないのか。

 -任命拒否された研究者はある種のレッテルを張られることになる。

 「そうですよ。学術会議のメンバーになるというのは名誉。拒否されるということは、学者として評価されていない、つまり学者としての人格否定だ。学問の世界は、政治が切り込むべき対象ではない」

 -政府・与党が学術会議の在り方を議論している。任命拒否に端を発する問題はどう落ち着くと思うか。

 「首相が野党の追及を突っぱね、平行線をたどるだろうが、日本の国の学問にとっても、政治にとっても不幸ですね。温暖化にしてもコロナにしても。人類として未知の世界を学問、研究で深めなきゃいけない時にこんなことをしていたら国際的に遅れます。研究の世界が政治の世界から白い目で見られ、尊重されていないわけでしょう。若い人がそこに魅力を感じるでしょうか。いま霞ケ関で20代の官僚がたくさん辞めているのは、官僚が大事にされていないから。官僚も研究者も大事にされていない。日本の若者はどこに仕事を求めたらいいんでしょうか」

 かだ・ゆきこ  京都大院修了。農学博士。滋賀県立琵琶湖博物館総括学芸員、京都精華大教授を経て2006年から滋賀県知事を2期8年務めた。元びわこ成蹊スポーツ大学長。19年参院選で滋賀選挙区から初当選。70歳。

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 菅義偉政権が日本学術会議の新会員候補6人の任命を拒否した問題は、国会の議論が深まらないまま推移している。菅首相が説明を事実上、拒否している現状を京滋関係の国会議員はどうみているのか。インタビューした。