ICT教育の目的を考える 情報化時代に求められる「21世紀型スキル」とは? NO YOUTH NO JAPAN

 

こんにちは、NO YOUTH NO JAPANです!
私たちは若い世代から参加型デモクラシーを根付かせるために、政治や社会について分かりやすく発信しています。
若者の意見を政治に反映させるためには、まず若者自身が意見をもつところから始まると考えています。そこで2020年からは毎月テーマを決めて、フォロワーの皆さんのモヤモヤや普段感じていることを「政治」で解決できると伝えられるようなコンテンツを発信しています。

インスタグラムはこちら>>

ICT教育の遅れがコロナ禍で浮き彫りに

突然ですが皆さん、学校の授業でデジタルデバイスを使ったことはありますか?

2018年のOECDの調査によると、「普段の1週間のうち、教室の授業でデジタル機器をどのくらい利用しますか。」という設問で、日本は8科目中5科目(国語、数学、理科、音楽、美術)でOECD加盟国中最下位という結果に。残りの3科目についても、保健体育、外国語、社会科、それぞれ下から5番目、4番目、2番目とかなり低い結果でした。国語を例にとって見ると、利用すると答えた人の割合が、1位のデンマークで87.7%、OECD平均が44.5%なのに対し、日本は14%とかなり低いことが分かります。

この教育現場におけるICT整備の遅れは、新型コロナウイルス禍で浮き彫りになりました。臨時休校中、同時双方向型のオンライン指導が行われたのは、公立中学校のうち10%、公立小学校ではわずか8%でした。

なぜこんなにも日本ではICT教育が進んでいないのでしょうか。そして、そもそもなぜICT教育を進める必要があるのでしょうか。

ICT教育の目的 情報活用能力が求められる時代

なぜICT教育を推し進める必要があるのか。その理由は、私たちがこれから生きていく時代と大きく関係があります。

従来の日本の教育といえば、皆さん何を思い浮かべるでしょうか。思い出されるのは、正解のある問題を解いたり、歴史や公式を大量に暗記していた光景ではないでしょか。そういったいわゆる「詰め込み型」の教育や、早く計算を処理する能力というのは、90年代半ばまでの「ものづくり」が主流だった工業時代においては、仕事で必要とされる能力ととてもマッチしており、時代に合った教育でした。

しかし、情報化時代と言われている今、私たちには「21世紀型スキル」とも言われるような「こと(知識)創り」に対応する能力が求められています。つまり私たちには、膨大な情報の中から必要な情報を主体的に選び取る「ICT活用能力」、新しく「こと」を創出する「情報想像力」「問題解決能力」「批判的思考力」、それを行動に移す「コミュニケーション能力」「プロジェクト力」などが求められています。こういった新時代に必要な能力を醸成する教育を進めていくための手段として、相性の良いICTの活用が期待されているのです。

実際に、文部科学省は2020年度から全面的に実施される新学習指導要領において、これらの能力を「情報活用能力」と定め、言語能力、問題発見能力等と同様に、「学習の基盤となる資質・能力」と位置付けました。

その他にも、ICTにより生徒一人ひとりの情報をリアルタイムで管理できることから、生徒の理解度を常に把握しそれぞれに最適な指導ができることや、どこにいても同じレベルの学びを受享できること、ICTを使って教師の業務負担を減らせることなどICT教育の有用性が挙げられています。

このように様々な使い方ができるICT教育ですが、上記の通り日本では普及が進んでいないのが現状です。
文部科学省発表の「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(平成30年度)」によると、全国で平均して、教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数は5.4人/台、普通教室の無線LAN整備率が40.7%の普及状況となっています。更に都道府県別の数字に目を向けると、教育用コンピュータ1台あたり児童生徒数が1位の佐賀県では1.8人/台なのに対して、最下位の愛知県では7.5人/台と、地域差が顕著に現れていることが分かります。
ICT機器の地域格差により、教育の質にも差が生じてしまう可能性があるのです。

(文部科学省・平成30年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)【確定値】より)

年々パソコンの普及率は少しずつ上昇しているものの、まだまだ十分とは言えません。その大きな理由の1つに、予算の確保が難しいことが上げられます。
そのため、文部科学省では「教育ICT化に向けた環境整備5カ年計画(2018~2022年度)」を策定し、具体的な数値目標を定めるとともに、ICT教育に必要な経費については、この5年間単年度1805億円の地方財政措置を講ずることとしました。

世界一進んでいるICT教育って?

教育現場でのICTの普及を目指し、様々な方針を立てる日本。では、世界で最もICT教育が進んでいるデンマークでは、どのような取り組みが行われているのでしょうか。

デンマークのICT教育の推進は1970年から始まりました。現在は科学技術・イノベーション省を中心に教育分野を含めたICT政策が進められており、更に教育省とその配下にあるUNI-Cという組織も大きく携わっています。
ICTスキルを学習に活用したり、デジタル空間を通じた様々な分野における学習意欲の向上を目指して、およそ50年前から教育分野でのICT導入が始まっているデンマークには、いくつかの特徴的な概念やシステムがあります。

1つめは「ブレンディド・ラーニング」という考え方です。これは、教室での集団授業、個人e-ラーニング、ライブe-ラーニングを3つを組み合わせながら学習するという概念で、デンマークでは2000年代から広く普及しています。コロナウイルスの状況下においても、効果的で安全な学習環境を確保できるので、この未曾有の事態の中でも教育を維持することに大きく役に立ちました。

2つめは、そのブレンディドラーニングにも重要な役割を持つ「LMS(Learning Management System)」と呼ばれる学習管理システムです。LMSは2008年の時点で、公立小中学校の97%、高等学校では100%導入されています。LMSの導入には政府補助が出ることも、これだけ普及できた要因の1つでしょう。一概にLMSと言っても、学習用、公務用、保護者連絡用など、用途やベンダーごとに商品は異なり、機能も様々ですが、個人のスケジュールや進捗の確認や課題の提出、親と教師間の連絡などを行うことが出来ます。
日本でも、大学においては同じようなシステムが利用されていることが多いですが、小中高ではまだまだ使用されていないのが現状です。

3つ目は「EMU」と呼ばれる教育ポータルです。これはUNI-Cが管理する、デジタル学習教材のデータベースで、様々な教材を見ることが出来るだけでなく、過去25年間分の新聞記事や、百科事典なども一元的に閲覧することができます。教育機関には無償で提供されています。

このようにデンマークでは、生徒、教師、そして保護者に必要とされるサービスやそれに伴うインフラを提供しています。そして、あくまでもそれらICTを「手段」として、教育の質の向上に努めていることが分かります。

まとめ

ここまで日本における教育ICTの目的と実状、そしてデンマークにおける取り組みを見てきました。
医療や政府、職場など様々な場面でICT化が進む中、他国に大きく遅れをとっている教育現場でのICTの普及は、子供たちが学校で身に着けられるスキルや能力にも関わってくる重要な問題です。ICT化それ自体が目的となってしまわないように、「ICTを使ってどんな世界を実現したいのか」本来の目的を見失わないようにしながら、迅速かつ全体へのICT教育の普及が必要です。

© 選挙ドットコム株式会社