「はやぶさ2」地球帰還を目前にした歴代プロマネの思い

soraeでは、これまでに12月5日14時30分に実施された『「はやぶさ2」カプセル分離成功! 着陸までの流れ』、同日15時30分から開始した「精密軌道制御運用」の成功に関する『「はやぶさ2」本体、新目標への軌道変更完了』を報じてきました。

まもなく「はやぶさ2」のカプセルが地上に帰還します。そこで時系列のおさらいやカプセル回収に関して、「はやぶさ2」の次のミッション、そして「歴代プロジェクトマネージャ」の地球帰還を目前にした心境をお届けします。

時系列のおさらい

リエントリ運用開始からの運用を時系列順に整理しておきます。(以下、全て日本標準時)

10:30 リエントリ運用開始
11:15 カプセル電源内部へ切り換え
12:59 カプセル分離準備姿勢へ
14:13 カプセル分離姿勢へ
14:30 カプセル分離→TCM5姿勢へ
15:30 TCM5a
16:00 TCM5b
16:30 TCM5c

カプセル分離前後の「はやぶさ2」本体の動き(Credit: JAXA)

TCMというのは精密軌道制御運用のことで、TCM5はその5回目。カプセル分離後の3度に分けての運用で、探査機本体は大気圏再突入コースから外れ、地球をかすめるように飛び去ります。これが初代「はやぶさ」との最大の違いです。

12月4日の会見では、カプセル大気圏再突入から地上帰還までの詳細な時刻も明らかにされています。

2:28:27″ 120km通過、大気圏突入開始
2:28:49″-2:29:25″ 火球フェーズ(流れ星のように見える)
2:31-2:33 ヒートシールド分離、パラシュート展開
2:47-2:57 着陸、パラシュート切り離し

カプセルの動き(Credit: JAXA)

なお、優先順位はカプセル帰還が第一、次いで拡張ミッションなので、万が一カプセル切り離しがうまくいかない場合は、拡張ミッションを諦めて機体ごと再突入する可能性があります。

カプセルの着陸地点はおよそ150km×150kmの楕円形。探査機自体は直径数百メートルのチューブの中を正確に飛ぶ程度の高精度な運用ができていますが、地上の風などの影響で誤差が大きくなり、最終着陸点は大きく広がります。

カプセル着陸点のイメージ(Credit: JAXA)

「さよなら地球」運用、そして新たな目標へ

「はやぶさ2」が飛び去っていく際には地球を撮影する「さよなら地球」運用が行われます。これはよく知られた天体を使って観測機器の較正を行うことと、広報用画像を撮影するのが目的です。再突入していくカプセルを探査機のカメラで撮影したり、南極上空の夜光雲観測を試みる予定もあるとのこと。
また、地球スイングバイ時も実施したレーザー高度計(LIDER)を用いた地上との光リンク通信実験が行われます。
正確な軌道・時刻がわかっている高速の宇宙物体との実験ができる機会は非常に稀であり、機会を最大活用しようという意気込みが分かります。
「はやぶさ2」はこれ以降これほど地球に近づくことなく、新たな目標の小惑星「1998KY26」に向かって飛行を続けることになります。

歴代プロジェクトマネージャそろい踏み

この会見には吉川ミッションマネージャ・國中宇宙研所長・津田プロジェクトマネージャと、歴代の「はやぶさ2」プロジェクトマネージャが勢揃いしていたので、それぞれの担当時期における感慨と、地球帰還を目前にしての心境を尋ねました。

吉川:プロジェクト立ち上げ期のリーダーを、途中からプロマネを務めた。今からおよそ15年前、はやぶさの頃から2に向けた検討が始まりました。なかなか予算がつかず大変でしたが、15年を経てこの時を迎えることができたのは本当に感慨深いです。

國中:2011年~2015年にかけ、製造時のプロマネを務めました。予算が認可されたのが2011年、打上げが2014年12月。3年半ほどしか工期がなく、かなり厳しいなあという印象で、これを引き受けるのはきつなというのが当時の印象であります。製造中にもトラブルに見舞われまして、それぞれの困難を製造チームと企業がタッグを組んで一つ一つ解決していった過酷な3年半だったという記憶です。ある意味初代「はやぶさ」でやった小惑星サンプルリターンという事業がもたらす効果を各メンバーが共感し共有していたと言うことが団結力と結集力を生み出したのだと思っています。「はやぶさ」の経験があったから「はやぶさ2」はタイムラインを確実にこなし、打ち上げまでたどり着けたんだと思っています。「はやぶさ」は宇宙空間で奇跡を起こしたけれど、はやぶさ2は地上で奇跡を起こしたね」と皮肉を言われたことを強く記憶に留めています。

津田:2015年4月から現在まで運用時のプロマネを務めた。それまで開発を現場でやって来たので、探査機のことはよく把握していると言うことが任された要因かなと思います。私自身は初代「はやぶさ」の打ち上げ直前に宇宙研に入り、運用にずっと携わってきました。そこで、即断即決、太初をどんどんしていくにもかかわらず悪いことはどんどん起きるというのを現場で経験して、次はどうしなきゃいけないかというのを吸収させてもらいました。それを活かす場を与えて頂いたのは幸運だったと思います。打ち上げ後も「はやぶさ」で経験したトラブルを繰り返さないよう、運用でしっかりやっていくというのをプロジェクトマネージャーとして心がけてきた。リュウグウでは想定以上の成果を上げられたと思っている。地球帰還を迎えられたのは本当にチームワークのたまもの。地球帰還は、「はやぶさ」は満身創痍だったのに見事に成功させた。我々は「はやぶさ」を超えるべくやって来たので、「はやぶさ」でできたことは「はやぶさ2」でもしっかりやって、探査機を生き延びさせて、今度は「はやぶさ」ではできなかた拡張ミッションへ、未来へバトンを繋げればと思っています。

右から吉川氏、國中氏、津田氏。この順にプロジェクトマネージャーを務めた。(Credit: 金木利憲)

オーストラリア側の準備

回収したサンプルをヘリコプターからQLFに運ぶ様子(Credit: JAXA)

オーストラリアでは回収準備も進んでいます。12月1・2日に想定される時刻に合わせてリハーサルを行い、細かい修正点を洗い出して修正を加えるなど万全を期しています。

コロナ禍ですが、オーストラリア宇宙庁・オーストラリア政府の大きな理解と支援を受けて、準備が行われています。

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Image Credit: JAXA、金木利憲
文/金木利憲

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