秦野・女性酒店経営者強盗殺人事件、解決に至らず10年 無念の遺族「容疑者は罪を償ってほしい」

事件のあった酒店。未解決のまま10年が経過した=秦野市栄町

 神奈川県秦野市栄町の酒店で高齢の女性経営者が犠牲となった強盗殺人事件は6日、未解決のまま発生から10年となった。事件解決を報告できぬまま過ぎ去った歳月に、遺族は無念さをかみしめる。事件の風化を懸念し、容疑者逮捕につながる情報提供を求める。

■次男「いつもと変わらぬ一日」…外出
 事件は2010年12月6日に発生。午後3時20分ごろ、店内で首や胸などを刺されて倒れている岩田千賀子さん=当時(86)=を下校途中の中学生が発見、119番通報したことで発覚した。神奈川県警によると、レジからは現金約1万5千円が奪われていた。

 千賀子さんは頭蓋骨骨折などのけがを負い、医療機関で治療を受けていたが約2カ月後に亡くなった。

 ともに店番をしていた次男の浩さん(64)にとって、千賀子さんが凶刃に倒れたあの日は「いつもと変わらぬ一日」のはずだった。午後3時ごろ、自販機に商品を補充するため、浩さんは店を出た。「『行ってくるよ』って。母の好物のパンも買って戻ってこようと」。それが最後になるとは思いもしなかった。

■母が言い残した「知らない人だった」
 約1時間後に店に戻ると、慣れ親しんだはずの景色は一変していた。規制線が張り巡らされ、救急隊員や警察官が慌ただしく出入りしていた。

 その夜、病院で母と対面した。体中にいくつものチューブを付けた姿でベッドに横たわる変わり果てた母にがくぜんとした。意識はあったが、話すことはほとんどできなかった。それでも誰がこんな目に遭わせたのかと尋ねると、消え入りそうな声で「知らない人だった」とだけ答えた。回復しないまま翌年2月8日、千賀子さんは天国に旅立った。

 「なぜ母だったのか」。凶行に対する憤りや、母をあのとき1人にしなければとの悔いが消えることはない。

 まぶたに焼き付いているのは気配りを欠かさない、誰からも慕われる母の姿だ。働き盛りだった父を病気で亡くしてからも黙々と店を切り盛りした。「持って行きなよ」。来店客には果物などを気軽に手渡し、たまに行く友人との温泉旅行を楽しみにしていた。生涯唯一の海外旅行となった香港を満喫し「また行きたいね」と、喜んでいたことも忘れられない。

■「母の墓前に解決を報告したい」
 そんな母の命を理不尽に奪った人物を許すことはできない。「悲しみに打ちひしがれている人がいることを知ってほしい。罪を償ってほしい」と訴える。

 浩さん自身、5年ほど前から体調が思わしくなく、千賀子さんが大切にしていた店も閉めざるを得なかった。手足の自由が利かず、墓参りも難しくなっている。

 歳月の経過に伴い、事件解決が困難になっている実情を冷静に受け止めてもいる。それでも「10年を機にもう一度事件のことを思い起こしてもらい情報を寄せてほしい。一刻も早く、母の墓前に事件解決を報告したい」と切に願う。
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 県警はこれまで延べ約3500人を投入し、延べ4千人以上に話を聞くなどして捜査を続けているが、容疑者逮捕に結び付く有力な情報は得られていない。千賀子さんは生前、襲ったのは「40代ぐらいの男で作業着に帽子、マスクを身に着けていた」と話した。情報提供は秦野署電話0463(83)0110。

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