【高校野球】「優等生チーム」はなぜ勝てない? 春夏13回の“北の名将”が語る指導のジレンマ

クラーク記念国際・佐々木啓司監督【写真:石川加奈子】

クラーク記念国際の佐々木啓司監督が語る指導論、第3回は「競争意識」

高校野球の世界でも当然、勝ち負けはつきもの。負ければ悔しく、成長の原動力になる。ただ、そんな精神面にも時代を経て変化があるのだという――。駒大岩見沢を率いて春8回、夏4回の甲子園出場に導き、現在率いるクラーク記念国際でも夏1回の経験を持つ佐々木啓司監督が指導論を語る連載企画。全4回の第3回は「競争意識」について語る。

佐々木監督は、最近の選手の優等生ぶりに物足りなさを感じている。「優しくて優等生でフレンドリー。敵を叩きつぶすという意気込みはなくなった。それは俺のチームだけじゃないと思う。そこが勝てるチームと勝てないチームの差」と語る。

駒大岩見沢時代には春の選抜に8回出場したように、秋の大会を得意としていた。だが、クラーク記念国際では秋季全道大会出場は2回で、いずれも初戦敗退。夏はこの5年間で北北海道大会優勝2回、準優勝2回と圧倒的な強さを誇り、そのレギュラー数人が新チームに残っていただけに、一層もどかしい。なぜ勝てないのか――。着目したのは、精神面だった。

「先輩が強かったから、自動的に自分たちも強くなると思ってしまう。本来は“自分たちでやってやるぞ!”と思うものだけど、そういう気持ちが薄いのかな。新チームのスタートは勢いがあって良くても、ちょっと負けると守りに入って、振れない、守れない。気持ち的に攻められないことが原因じゃないか」

そう分析するとともに、まだ歴史が浅いチームには代々受け継がれた伝統がないことも関係していると見ている。以前の選手は、執念やしつこさを持っていたという。

現代球児と比べ「アリとキリギリスの話を、昔の選手はよく分かっていた」

「甲子園に行ったチームには精神的に柱になる選手がいた。中学時代に勝った経験があって、高校でも絶対に勝つんだという明確な目標を持っている選手。一方で、そういう選手に対して“お前を抜かしてやる”という選手もいた。アリとキリギリスの話を、昔の選手はよく分かっていたよ。意地があったね」

競争意識を持って切磋琢磨していた当時の選手を思い起こすと、選手同士がいつでも仲良く楽しそうそうにおしゃべりする姿が不思議な光景に見えるという。「仲が良いということを履き違えているのかもしれないね。意地やプライドがなく、慰め合っている。力が上の選手に対して“それはお前にしかできないんじゃないか”と思ってしまう。成長すれば、抜けるのに“こんなんでいいや”と防衛機制に走る」と能力を引き出しきれないジレンマに駆られる。

そんな場面が続けば、社会科教師としての血が騒ぐ。駒大岩見沢時代に教えていた現代社会の教科書を使って、青年期の自己形成について論理的に説く。よく使うのは「欲求と適応」という項目。満たされない欲求はどこに行くのか、欲求の対立、欲求不満などフロイトやマズローの説を現在の生活に置き換え、逃げないことの大切さや持続して取り組むことの大切さを訴えている。

○佐々木啓司(ささき・けいじ)
1956年2月7日生まれ。42年の指導歴を誇る大ベテラン。駒大を卒業後、1978年に母校の駒大岩見沢監督に就任して35年間で公式戦通算503勝を挙げた。2003年には全日本アマチュア野球連盟選手強化部AAA強化部会委員を務めた。2014年にクラーク記念国際監督に就任し、創部3年目の2016年夏に北北海道大会を制して、甲子園初出場。その後2018年、19年と2年連続北北海道大会準優勝し、今夏の代替大会でも優勝と常勝軍団に成長させた。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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