「海の再生と安全へ和解を」 農水省農地資源課 北林英一郎課長【インタビュー】 諫干開門確定判決10年

北林英一郎・農林水産省農地資源課長=熊本市内

 国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防排水門を巡り、「3年猶予後、5年間の常時開門」を命じた福岡高裁判決の確定から10年を迎えるのを前に、農林水産省農地資源課の北林英一郎課長に、司法の場で論争が続く現状と有明海再生に求められる視点を聞いた。

◎「海の再生と安全へ和解を」農水省農地資源課 北林英一郎課長

 -開門確定判決に対する国の考え方は。
 2010年、開門を命じる福岡高裁判決が確定し、国は開門義務履行に向けて、諫早湾周辺の農業者、漁業者、住民の理解と協力を得る努力を重ねてきた。
 周辺環境への影響が最も小さい制限的な開門方法(ケース3の2)を提案したが、事前の対策工事に対して、3回にわたる地元側の大規模な阻止行動が行われ、開門履行期限までに対策工事すら成し遂げられなかった。現実的に開門することは著しく困難な状況にある。
 さらに、最高裁が昨年6月、開門差し止めを命じた長崎地裁判決に対する開門派の上告を棄却し、ケース3の2開門も含め、国の開門禁止義務が確定した。

 -開門と開門禁止の二つの確定判決が存在する「ねじれ状態」が続き、複数の訴訟や地域の混乱が続いてきた。
 17年4月の農林水産大臣の談話に沿って、開門によらない基金による和解が、有明海再生と地域の安心、安全をもたらすと考える。開門を認めない方向の司法判断が積み重ねられ、開門した場合の防災、農業、漁業における問題も増大している。有明海の再生を早期に実現することがベストだと考える。

 -司法判断の「ねじれ」解消を目的とした請求異議訴訟の差し戻し審が係争中で、漁業者側は和解協議を求めている。
 昨年9月の最高裁判決は請求異議事由の有無について、さらに審理を尽くさせるために差し戻されたと理解している。差し戻し審で国の主張の整理、補充を行った。和解協議を求める開門派の上申書は承知しているが、係争中のため、具体的な対応についての答えは差し控える。

 -差し戻し審で国が「諫早湾近傍部の漁獲量の増加傾向」を主張したのに対し、漁業者側は「量ではなく、漁獲物の質が伴っていない」と反論している。
 開門確定判決で被害が認定されたのは諫早湾近傍部の主な魚種の漁獲量が減少したということだったため、その後、その漁獲量が増加傾向に転じていることが統計上、明らかになっていると主張した。裁判の場とは別に、漁獲物の質や漁業者の所得向上策などは、引き続き、沿岸4県や漁業団体の意見に耳を傾けていくことが重要と考えている。

 -別の訴訟を含めて、漁業者側との和解協議は決裂し、司法の場での解決は難しいのではないか。妥協点を見いだすために譲歩する点はないのか。
 譲歩というよりも、有明海再生を着実に進めたい。アサリなどは再生の兆しもあり、可能なところから、漁業者に成果を実感してもらえることが非常に重要だと考える。

 【略歴】きたばやし・えいいちろう 1989年、農林水産省に入省。九州農政局などを経て、昨年7月から同省農地資源課長。55歳。

国営諫早湾干拓事業を巡る経過

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