企業の資金繰り、次の波に備える コロナ禍踏まえ、藤原みずほ銀行頭取インタビュー

 新型コロナウイルスの感染拡大は日本経済をまひさせた。企業の資金繰りはどうなっているのか。メガバンクの一角をなす、みずほ銀行の藤原弘治頭取は11月上旬、インタビューに応じ、肌感覚として「大企業は対策を終えているところがほとんど」との認識を示した。一方、まだまだ経営環境が厳しい中小企業については次の資金要請の波が来る可能性があると指摘し、支援していく考えを表明した。(共同通信=内堀康一)

 ▽企業再編、大きな節目が目の前に

 ―新型コロナの感染拡大に歯止めがかかりません。取引企業の資金繰りの現状はいかがですか。

 4~6月期の実質国内総生産(GDP)は戦後最大の落ち込みとなり、官民総動員で企業の資金繰りに対応してきた。その中で銀行は金融仲介機能の重要性を認識してもらった。

全国の銀行の貸し付け残高

 全国の銀行貸し出しのボリュームは9月までに相当増えたが、前月比の伸び率に着目すると一服感がある。多くの経営者と話し、現場にも足を運んだ肌感覚と、この数字はマッチしているなと感じる。

 大企業に関しては、2021年度の通期、または上期までの資金繰り対策を終えているところがほとんどだ。一方、中小企業は年末から年度末ぐらいにかけて融資要請の「第2弾」が来る可能性がある。みずほとしても、対応する構えだ。 いま大事だと感じているのは、資金繰りへの対応だけでなく、事業継続や事業承継、構造改革などにしっかりとアドバイスができるかどうか。銀行は、課題解決業に進化しなければならない。

 ―コロナ禍の中、通常の融資だけではなく、一部が資本とみなされる「劣後ローン」といった資本性の資金供給も進んでいます。

 資本性資金については、戦略的・選別的に目的を持って供給している。これまでの引き合いは、おおむね40件・1兆円の規模だ。大企業は、(社債発行といった)直接金融による資金調達を行うため、格付けを維持する必要がある。格付けを保つ観点では資本性のローンが非常に有効だ。メインバンクとして銀行団を束ねていく場面では、他行がついてくる礎にもなる。

 コロナ禍の中では政府系金融機関と協議し、官民で共同して資本性資金を提供するケースも多くなった。政府系金融機関のトップと直接話をする機会が非常に増えた。いずれにしても、企業の事業構造転換や業界再編の大きな節目が目の前に来ている。

みずほ銀行の持ち株会社の本社外観=9月28日、東京・大手町

 ―資本性資金の供給は、多くの銀行の中でも特にみずほが積極的に取り組んでいるように見えます。

 みずほとしては、政策保有株式の削減で得た資本余力を、劣後ローンや優先株といった資本性資金に振り向ける戦略だ。取引先とともに事業を育てたり、産業の構造を変えていったりする中で、余力を有効に使いたい。

 実は2018年度に専門部隊を作り、資本性資金について相当ノウハウを蓄積してきた。こうしたプロローグがあった中でコロナ禍に向き合っているからこそ、しっかりと対応できているという実感がある。

 取引先の政策保有株式を持つという旧来的な関係ではなく、新しいパートナーの在り方を作り、リスクを共有する。いま目の前にある現状というのは、まさにわれわれの腕の見せどころであり、力の発揮しどころと捉えている。

 ▽法人向けにデータ提供サービス開始

顧客との対話スペースを増やしたみずほ銀行の次世代店舗=11月9日、川崎市

 ―企業のデジタル化の取り組みも重要になっています。銀行ではいかがですか。

 菅政権がデジタル庁の設置を決めるなど、官民を挙げてデジタル化加速の大きな節目に来ている。銀行としては、営業店のデジタル化に取り組む。タブレット端末と勘定系システムを直結させ、ペーパレス化を実現。お客さまが手続きにかかる時間は半分になり、店舗そのものも事務処理の場からコンサルティングの場に変貌する。

 また、新事業として法人向けのデータ提供サービスを始めた。みずほが持つ統計的なデータと外部のデータを統合し、要望に応じて提供する。例えば飲食チェーンが店を出したいとき、周辺に住んでいる人の支出・消費の状況、ライフスタイルなどを把握することで、どの場所に店を出すのが効率的かを統計的にアドバイスできるようになる。

 個人情報は統計加工され、特定できないように徹底する。

 ―収益につながりそうですか。

 大事なのは、世の中の役に立つということだ。取引先のビジネスやその地域を活性化するためにデータを使っていくことを念頭に置いている。このサービスは、2020年5月の銀行法改正で可能となった。

 ▽銀証規制は見直しを

インタビューに答えるみずほ銀行の藤原弘治頭取

 ―規制を緩和してほしい分野はまだありますか。例えば、銀行と証券会社との間の顧客情報の共有を制限する「銀証ファイアウオール規制」などもあります

 みずほが課題解決のベストパートナーとして一歩前に出ていく際も、あるいは日本が魅力的な国際金融都市を持つためにも、見直しが必要だ。 私は米国でも仕事をしたが、こうしたファイアウオールを導入している国はほとんどない。米国にいた7年間で日米の差を大きく感じた部分は、企業の合併・買収(M&A)の件数が日本に比べて圧倒的に多い点だ。その理由はファイアウオールの有無だけではないが、そういった形で産業再編が進むことは産業の新陳代謝を促す観点でも重要だ。

 ―2024年度までに国内拠点の約130カ所を減らす計画は、コロナ禍の前に作られたものです。削減の幅をさらに広げる考えはありませんか。

 決まっている事実はない。ただ、コロナ禍になってから『やってみたらできました』ということは多くある。発表した削減をやりきることがまずは大事だ。

(おわり)

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