国の「脱炭素」に逆行 山陰両県自治体、EV充電器撤去

松江市役所本庁舎の駐車場に設置され、現在は黒いカバーで覆われた充電器。修理費が高く、近く撤去される=松江市末次町

 松江市役所本庁舎の駐車場に設置され、現在は黒いカバーで覆われた充電器。修理費が高く、近く撤去される=松江市末次町 政府が「脱炭素社会」の実現を目指す中、電気自動車(EV)用の充電器を庁舎駐車場などに設置してきた山陰両県の自治体が機器の撤去に動きだしている。EV普及のため先駆的に導入したが、年数がたち、故障の修理費が重荷となっているため。各市の担当者は、推進する国の動きに逆行することにジレンマを抱えつつ「一方的な費用負担はできない」と維持の難しさを指摘する。

 菅義偉首相は所信表明で「脱炭素社会の実現」を力説。経済産業省は国内で販売する新車について、2030年代半ばにガソリン車をなくし、全てをEVとハイブリッド車(HV)の電動車にする目標を設ける方向で調整に入った。

 国や地方自治体が低炭素社会に向けた取り組みを進める中、中海・宍道湖・大山圏域市長会は、国が14年に「次世代自動車充電インフラ整備促進事業」を予算化する前の11年に公用車のEV導入助成を独自に実施していた。

 松江市は同市長会の助成を活用し、同年に本庁舎に市民も利用できる急速充電器を設置した。その後、18年に不具合が発生し、修理に70万円余りかかることが判明。修理しないまま利用できない状態が続き、近く撤去することを決めた。市資産経営課の林忠典課長は「容易に予算を確保できない」と撤去決断の理由を説明する。

 鳥取県米子市は今年6月に急速充電器1台を撤去した。導入費は約370万円で市長会と鳥取県の補助を受け、実質負担なしだったが、故障に伴う修理費用の見積もりが150万円近くに上り、維持を断念した。別の鳥取県西部の自治体担当者は「どこも困っている。故障すればそのままか撤去という流れ」とし、政府との温度差を打ち明ける。

 鳥取県は独自の自動車充電設備補助金を設けるなど、環境整備に注力してきた。同県低炭素社会推進課の担当者は、電気自動車が不安なく走行できる環境づくりは観光や災害時の電源確保にも利点があると強調。行政が引き続き普及の旗振り役を務める必要があるとの認識を示した上で「充電器の使用料の適正化など維持コストを考慮した運用が欠かせない」と話した。

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