「地球の歩き方」は事業譲渡、「ロンプラ」もオフィス閉鎖、旅行ガイドブックはオワコンか?

旅行する時、ガイドブックは買いますか?私は知らない国に行くとなると、ガイドブックを携えて出発しないと、不安を感じてしまいます。しかし、それも「古い」考え方なのかもしれません。

先日、ダイヤモンド社の子会社であるダイヤモンド・ビック社が、学研ホールディングス100%新子会社である学研プラスに、『地球の歩き方』シリーズなどを譲渡することを発表しました。コロナ禍による海外旅行関連の事業環境の悪化が理由のようです。

実は、英語版ガイドブックで高いシェアを誇るロンリープラネットも、今年4月に豪メルボルンと英ロンドンのオフィスを閉じました。もはやガイドブックは斜陽の媒体なのでしょうか。


「地球の歩き方」パリ特派員として感じること

ダイヤモンド・ビック社は、9月に初の国内版である『地球の歩き方』東京編をヒットさせたばかり。私も、縁があってフランス関連のガイドブックの仕事を手伝う機会があります。

私は今、ガイドブックのほかに、地球の歩き方のウェブサイトで「パリ特派員」として、ブログを更新したりサイト内に記事を提供したりしています。(ちなみに『地球の歩き方』のウェブサイトは誰でも無料で閲覧できます)。ブログへのコメントや関連SNSにいただいたリプライを参考にし、記事内容を決めることもあります。

寄せられる質問や要望の多くは、ストなどの交通情報やテロなどの治安といった、ガイドブックでは間に合わない刻々と変わる現地事情についてです。そののなかで、ガイドブックを買うという行為が、人々の間で旅行準備の優先順位として下がっているとしばしば感じるようになりました。

情報にお金を使わない?

例えば、「パリ市内から近郊有名観光地であるAまでの交通手段を教えてください」という要望をいただくことがありました。

質問者によると「電車での行き方はネットでよく見つけられるが、路線バスでの行き方はネットを検索してもまとまった日本語の情報がない。すべての選択肢を知りたいため教えてほしい」という内容でした。しかし、「地球の歩き方」をめくると、その観光地への行き方は電車もバスも記載されていました。

インターネットの情報が今のような広がりを見せていなかった時代、海外旅行に行くには、何よりもまず先にガイドブックを手にする人が多かったと思います。しかし、インターネットに情報があふれる現在では、そういうことにお金を使わなくなっているのかもしれない、と痛感しました。

仏では6割がガイドブックを購入

統計を調べてみると、インターネットなどに押されがちなイメージのガイドブックも、まだ一定数の需要はあるようです。

JTB総合研究所が2018年、「新しい技術やサービスの広がりとライフスタイル・旅行に関する調査」というレポートを出しました。それによると、3年前と比べ、旅行の情報収集に「紙のガイドブックを持っていく」こと「変わらない」と答えた人の割合は46.7%でした。「紙のガイドブックを持っていく」ことが「減小した」と答えた人も22.8%いました。

フランスの標識

海外はどうでしょうか。私が暮らすフランスは長期休暇を取る人が多く、「バカンス大国」と言われています。フランスの調査会社GFKの2020年の統計を参照すれば、フランスの場合、59%の人が旅行前に紙のガイドブックを購入するそうです。インターネットにずいぶん代替されてきた部分はあるかもしれませんが、まだ需要があると言って良さそうです。

玉石混合のネット情報

ブログやSNSの利点は「スピード」「情報にお金がかからない」点です。ガイドブックの場合は、世に出るまでどうしても時間がかかってしまいます。

掲載には施設の許可を取って、文章や画像をそろえ、誌面のデザインを組み、校正などを経て1冊のまとまったものが作られるからです。1年に1回、内容を最新の情報に更新して発売するとしても、やはり情報のタイムラグは生じます。

またガイドブックは「定番」の場所をまず押さえることが必要であるため、旅行の目的が多様化した現在では、限られた誌面ですべてをカバーしきれるわけではありません。

一方で、インターネットの情報は無料かつ新鮮ですが、玉石混交です。ガイドブックでは、あまたの情報を精査して掲載します(もちろん個人ブログなどでも、そのようにきちんと提供しているものはありますが)。

インターネット内に情報量が氾濫している今だからこそ、有料でもきちんとしたものを手に入れたいと思う人は、一定数存在するはずです。

ロンリープラネットも苦境に

今まで旅行者の旅行を手助けし、海外への旅を簡単にしてきたガイドブックは、時代と共に用済みとなったのでしょうか。

空港の電子掲示板

この逆風は日本のガイドブックだけではありません。世界の旅行者が愛用してきたロンリープラネットも同様です。今年4月に2カ所のオフィス閉鎖を行った同社CEOのルイス・カブレラ氏は、「(ロンリープラネットという)ブランドを多様なチャンネルを持つ旅行プラットフォームに高めていく」と、ガイドブックなどの発行を続けていくための今後の目的について、今年2月に語っています。

なお、ロンリープラネットの苦戦は以前から続いており、2007年には創業者ウィラー夫妻からBBC(英国放送協会)の子会社BBCワールドワイドに事業を売却。そのBBCワールドワイドも、買収したロンリープラネットを買収額の半値以下で、2013年にアメリカのNC2メディアに売却しました。

ロンリープラネットは今後どこに行くのでしょうか。創業者のウィラー夫妻は「初心に帰る。核となるタイトルに集中することが必要だが、ブランドが強いため完全に無くなることはない」と、香港の英字日刊紙サウスチャイナ・モーニング・ポストのインタビューで答えています。

その国や地域の基礎となる部分を確実に押さえ、実直に誌面作りを続けていく。さらに、新しい現象や、多彩な話題をさまざまなプラットフォームでカバーしていく。以前から各社がすでに行っている事柄ではあるのですが、それらをさらに充実させていくことの重要性を感じます。

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