戦力外で引退決断「不安ある」…元燕・上田剛史氏がトライアウト当日に向った場所

元ヤクルトの増渕竜義氏(左)と上田剛史氏【写真:宮脇広久】

元153キロ投手・増渕竜義氏は1988年度生まれの黄金世代

プロ野球12球団合同トライアウトが行われた7日、前ヤクルト外野手の上田剛史氏は、親友のもとを訪れていた。今季限りで戦力外通告を受け、一時はトライアウト受験へ向けてトレーニングを開始しながら現役引退を決断。会いに行った相手は、ともに2006年の高校生ドラフトでヤクルトに指名された同期で同い年の元投手、増渕竜義氏だった。

「これからはプロ野球選手ではないので、いち社会人としてやっていかなければならない。不安はあります。増渕がどうやってきたのか、話ができたらと思います」

上田氏はそう言った。これまでも年に1回は顔を合わせてきたといい「トライアウトの日と重なったのはたまたまです」と言うが、都内の自宅から増渕氏が塾長を務める埼玉県の「上尾ベースボールアカデミー」の室内練習場へ車を走らせた。

上田氏は高校生ドラフト3巡目で岡山・関西高から入団。ヤクルト一筋で14年間、俊足・好守の外野手として活躍した。チームきってのムードメーカーでもあったが、今季最終戦翌日の11日、戦力外通告を受けた。周囲にはトライアウト受験を勧める声もあったが、32歳となり「目標を失った気がしました。ヤクルトで十分やったので、次の方向へ歩み出そうと思いました」と述懐する。

「つよし」と「たつよし」…変わらぬ2人の友情

一方、増渕氏は1巡目で埼玉・鷲宮高から入団。最速153キロの速球を武器に、1年目に1軍でプロ初勝利を挙げた。4年目の10年には中継ぎで自己最多の57試合に登板し防御率2.69をマークするなど活躍したが、故障などで伸び悩んだ。14年の開幕直前にトレードで日本ハムに移籍し、15年限りで9年間のプロ生活に終止符を打った。17年4月に塾長に就任し、現在100人超の小、中学生を指導している。

2人はメジャーで活躍する田中将大、前田健太、ソフトバンク・柳田悠岐、巨人・坂本勇人、今年の沢村賞に輝いた中日・大野雄大、日本ハム・斎藤佑樹らと同じ、1988年度生まれの黄金世代でもある。

「つよし」、「たつよし」と1文字違いの名前で呼び合う2人。この日は上田氏が6日に開設したばかりのYouTubeチャンネルの撮影で、お互いにヤクルトのユニホームを着用し、投手と打者を交代で1度ずつ務める“直接対決”を行った。さらに「つよし、足が速くなる方法って、ある?」という増渕氏のリクエストに応じ、上田氏が塾生たちに臨時アドバイスを送る一幕もあった。

上田氏が「たつよしはプロ生活で最初の仲間。僕は1年目から1軍で活躍した彼の背中を追いかけたので、よきライバルでもあります」と言えば、増渕氏は「つよしが引退するのは寂しいですが……本人が決めたことですし、付き合いはこれからも変わりません」としみじみ語った。一緒にプロの門をたたいた2人の友情は永遠に続く。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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