<社説>Go To トラベル 政府は一時停止の決断を

 もはや躊躇(ちゅうちょ)すべき段階ではない。政府はコロナウイルス感染の拡大を防ぐため、一時停止を含む「Go To トラベル」の抜本見直しに踏み切るべきだ。 政府の観光支援事業「Go To トラベル」の利用者の方が、利用しなかった人よりも多く新型コロナウイルス感染を疑わせる症状を経験したとの調査結果を東京大などの研究チームが公表した。嗅覚・味覚の異常などを訴えた人の割合は統計学上、2倍の差があり、利用者ほど感染リスクが高いと結論づけた。

 感染拡大地域における人の出入りや感染者との濃厚接触の機会が観光によって増えるのだから、「Go To トラベル」の利用者の方が感染リスクが高いという研究結果は予想の範囲内と言えよう。しかし、政府は両者の関連性を否定してきた。

 菅義偉首相は11月25日の衆院予算委員会で「Go To トラベル」が新型コロナウイルス感染拡大を助長したとの指摘に対して「専門家の提言では、主要な原因とする証拠はない」と反論し、経済効果を強調した。

 今回、「Go To トラベル」と新型コロナウイルス感染拡大の因果関係の一端が示された。研究に参加した津川友介・米カリフォルニア大ロサンゼルス校助教授(医療政策)は調査結果を踏まえ「事業を中止する必要はないと思われるものの、感染拡大が落ち着くまでは一時停止を検討すべきだ」と指摘している。

 政府はこの研究成果と指摘を率直に受け止めるべきだ。その上でこの事業が新型コロナウイルス感染にどのような影響を与えているのか検証し、結論を出すことが求められる。経済効果を強調し、施策の正当性を表明するような態度は改めなければならない。

 政府は8日、新型コロナウイルス感染拡大を受けた追加経済対策を閣議決定した。民間投資を含めた事業規模は73兆6千億円で、「Go To トラベル」を来年6月まで延長する。しかし、多くの国民はコロナ禍のさらなる悪化を危惧している。

 日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏は、日本では「医療崩壊」が言われ始めており、「病院が赤字にならず、医療関係者が交代で十分に休める体制整備への予算投下の方が、Go Toキャンペーンより優先度は高い」と指摘した。医療体制が逼迫(ひっぱく)する北海道旭川市への自衛隊看護師派遣に照らしても、政府は藻谷氏の指摘を傾聴すべきだ。

 共同通信の全国世論調査で菅内閣の支持率が前回より12.7ポイント下落し、50.3%となった。政府のコロナ対策を「評価しない」が55.5%。「Go To トラベル」は48.1%が全国一律に一時停止すべきたと答えた。政府と国民との乖離(かいり)は明らかだ。

 菅首相は「Go To トラベル」に固執してはならない。コロナ禍を収束させるための決断を急ぐべきだ。

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