<隠れた名盤>朝倉さや『新・東京』デビュー曲をピアノ伴奏でカバー

 1992年山形県に生まれ、学生時代に2度の民謡日本一に輝いたという朝倉さや。その後、2010年代前半に山形弁や民謡調の歌声とアレンジで、『残酷な天使のテーゼ』や『創聖のアクエリオン』をカバーして一躍有名となった。『Dr.スランプ』のアラレちゃんと同系統の親しみやすいルックスとは裏腹に、その歌声は孤高の存在感を放つ。そこがまた素晴らしい。

 表題曲は、2013年に自身が作詞・作曲したデビュー曲『東京』を、さだまさしのコンサートの音楽監督をつとめる倉田信雄のピアノだけでセルフカバーしたバラード。ピアノ演奏のしんみりとした雰囲気の中で、朝倉が「見慣れてきた東京の狭い夜空」「歩き慣れた山形の広い青空」と伸びやかな澄んだ声で歌うと、誰もがコロナ禍で自由に会えない大切な人を思い浮かべることだろう。また、決して力まず、それでいて凛として「歩きながら探すあたしだけの道」と歌う言葉に励まされる人も多いのではないだろうか。過剰なエールソングが苦手な人にこそ聴いてほしい隠れた名曲だ。

 カップリングには、吉幾三の『俺ら東京さ行ぐだ』を、アメリカ在住のサウンド・プロデューサー、Yukihiro Kanesakaが再構築したものをカバー。懐かしめのディスコ調や、シティポップ風のサウンドの中、東北ネイティブな日本語で明朗に歌っているので、いずれ海外でヒットするのではと感じた。

 本作を聴けば、大切な人との距離は決して物理的には測れないとあらためて気づくはず。

(ユニバーサル・ 1227円+税)=臼井孝

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