来季の目玉は味全の1軍参入 台湾プロ野球の魅力とコロナ対策で残した功績

2020年のCPBLは統一ライオンズがチャンピオンに【写真:Getty Images】

来季は川崎宗則や歳内宏明も在籍した味全が1軍に参入

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の中で、世界最速で開幕を迎えた台湾プロ野球(CPBL)。台湾シリーズでは統一ライオンズが台湾一の座についた。近年低迷が続き、観客動員も苦戦していた統一の復活優勝はリーグにとっても朗報と言える。

台湾シリーズで再び涙をのんだ中信ブラザーズ、あと1勝で後期優勝を逃した富邦ガーディアンズ、そして、シリーズ進出及びモンキーズとしてのリーグ4連覇を逃した楽天モンキーズ、3チームそれぞれが、臥薪嘗胆の思いで来季に臨んで来るだろう。

ただ、来季の一番の目玉は新たに加わる第5の球団「味全ドラゴンズ」だ。かつて3連覇を含め台湾王者に4度輝いた味全は、1999年に解散したが、昨年4月にCPBLへの「復帰」を表明して第5の球団となった。7月にはドラフト会議に参加。「新生」味全は、昨年7月に元ソフトバンクの川崎宗則(BC栃木)が兼任コーチとしてプレーしたほか、アジアウインターベースボールリーグ(AWB)で歳内宏明(ヤクルト)がプレーしたチームとして記憶されている方もいるだろう。

味全はドラフトで指名された若手選手のほか、エクスパンション・ドラフトあるいはテスト入団したベテランや中堅選手などで構成されている。アジアウインターリーグに単独チームで参戦して3位となると、今季から2軍公式戦に参戦し、実戦を通じてじわじわと力をつけた。7月に2軍公式戦と平行して行われたアマチュアとの2軍交流戦で優勝、さらに公式戦でも、元阪神の林威助監督率いる中信ブラザーズ2軍とのデッドヒートを制して優勝。さらに、その中信との2軍チャンピオンシップも3勝1敗で制して、中信の5連覇の夢を打ち砕いた。

打者では2019年のドラフト1位、20歳の4番・劉基鴻が打率.343(3位)15本塁打(3位)75打点(1位)をマークし、左の強打者である黄柏豪が打率.342(4位)16本塁打(1位)73打点(2位)と、リーグ上位の成績を残した。86試合でチーム本塁打数は5チーム中4位の78本だが、盗塁はリーグ1位の147盗塁、盗塁ランキングトップ10に5人と足が使える選手が多い点は魅力だ。

味全には元アスレチックスの王維中もドラフトで加入した

一方、投手は、細かい継投でしのいだ試合が多く、規定投球回数到達者は1人のみに留まったが、今年のドラフトでMLBのアスレチックスなどでプレー経験がある王維中を1位で指名。ローテはこの王維中を軸に、外国人2人、かつてMLBでプレーした羅嘉仁、そして、残り1枠を、MAX157キロの20歳右腕・徐若熙ら、数人の若手が争う形となりそうだ。

新規参入の味全に対しては、この2年、ドラフトの優先指名権が与えられてきた。さらに、昨年に続き、今年もエクスパンション・ドラフトが行われて4球団から1名ずつ指名された。

葉君璋監督が最大の補強ポイントと明言していた捕手は、大学の1年後輩にあたる王維中の推薦もあり、楽天モンキーズで出場機会が減少していた劉時豪を指名。1軍出場400試合強の実績もさることながら、明るい性格でムードメーカーとしての「活躍」も期待される。

中信の呉東融は、今年の台湾シリーズこそメンバーから漏れたが、昨季、二塁手でゴールデングラブ賞、今季もベストナインに選出されており、レギュラーとしての活躍はもちろん、若い内野陣を牽引する役割も求められる。

富邦の陳品捷は、カブス傘下の他、四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスでプレー経験をもつ。外野手登録ながら内野もこなし、ユーティリティーな活躍が期待される。統一の王玉譜はMAX152キロの左腕。制球難で伸び悩んできたが、投手育成を得意とする葉監督のもとで「開花」が期待される。また、初年度の来季は、外国人枠が他チームよりも1枠多い「支配下5人、1軍登録4人(野手ないし投手は最大3人まで)」となる。

味全にはエリート街道を歩んできた選手もいる一方で、「ムネリン」イズムを感じさせる下位指名からハツラツとしたプレーでアピールしてチャンスをつかんだ選手もいる。中堅、ベテランの中には、挫折、遠回りを経験した苦労人も少なくない。

世界最速で開幕を迎えた台湾プロ野球は台湾シリーズでは78%まで上限を緩和

来季は台北市の天母球場はじめ、各地の球場を転々とする予定だが、2022年ないし2023年シーズンからは北部・新竹市の旧新竹球場跡地に建築中の新球場を本拠地として使用する予定だ。来季の1軍初年度はタフなシーズンになることが予想されるが、「3年以内のポストシーズン進出」という目標達成に向け、新球団の奮闘を期待したい。

甘いルックスで人気、実力を兼ね備えた“プリンス”王維中の入団は、味全にとってはもちろん、台湾プロ野球全体の興行面にとってもプラスと考えられる。新型コロナウイルスの感染拡大は抑え込んでいる台湾だが、それでも入場制限の影響で、今季1軍公式戦の平均観客動員数は約3500人と、昨季比で4割減となった。

当然、各球団の収益面にも影響を与えている中で、5球団となった事を「パイの奪い合い」とマイナスに捉えるのではなく、リーグ全体でプラスに変え、盛り上がりにつなげる事を期待したい。

世界各国の野球界が新型コロナウイルスに振り回された1年でNPBも厳しい日程の中、無事シーズンを終えることができた。パフォーマンスで盛り上げた選手はもちろんだが、運営を支えたリーグ、各球団の関係者、裏方さん達の貢献も非常に大きかったと言えるだろう。台湾プロ野球でもそれは同様。そこで台湾プロ野球の運営を陰で支えていた人たちについても触れたい。

台湾プロ野球は4月12日(11日の開幕戦は雨天中止)、台中インターコンチネンタル球場で、プロ野球リーグとして世界最速で開幕した。一足早く3月に開幕した2軍公式戦同様、当初は無観客でスタートしたが、5月8日から世界に先駆けて、上限1000人ながら観客を入れて試合を開催。同15日からは上限2000人に引き上げ、球場内での調理済弁当、飲料の販売、親子並んでの観戦などを認めた。

さらに、政府による国内旅行解禁に呼応する形で、6月7日からは入場者の上限を収容人数の50%まで引き上げ、マスク着用も座席着席時は免除、入場時及び場内移動時のみの義務付けへと緩和した。こうしてレギュラーシーズンは最大で10000人強の観客を集めた。台湾シリーズでは上限が収容人数の78%にまで引き上げられ、2万人収容の台中インターコンチネンタル球場には全試合、今季最多となる15600人のファンが入場した。

台湾プロ野球を運営するCPBL及び各球団の防疫対策に対する努力の賜物

台湾政府が水際対策、サージカルマスクの供給含め「先手、先手」の対策を行った事で、国内での感染拡大抑え込みに成功したという「前提」があるとはいえ、開幕戦の無観客から、台湾シリーズの15600人まで入場者数を緩和し、台湾シリーズが例年とほぼ変わらない形で開催できたことは台湾プロ野球を運営するCPBL及び、各球団の防疫対策に対する努力の賜物だ。

CPBLの呉志揚コミッショナーは開幕直後、選手、球団関係者、審判、マスコミ含め、感染者が確認された場合には、リーグを一時中断する方針を示していた。実際、この時期、2軍の選手や審判が感染者の利用が確認された商業施設に立ち寄ったことが判明した際には、自主的に隔離させて、2軍の他の審判も念の為に試合中にマスクを着用した。

このほか開幕前から各球団がシミュレーションを行い、選手、関係者、メディア、ファンを問わず、球場入場者に対して徹底的な感染防止対策を取ったほか、選手に対しては、日常生活からガイドラインを定めた。結果的に、台湾プロ野球は1、2軍の選手やスタッフを含め、感染例を一例も出す事なくシーズンを終えた。

台湾プロ野球は台湾のコロナ対策の成功例の一つとして、世界のメディアで大々的に報道された。また、英語によるライブ中継も北米を中心に大きな反響を呼んだ。中国との関係から、国際社会への参加に様々な制約を受けている台湾は、世界、特に先進国からの目を非常に重視する傾向がある。当然、関係者は喜びや誇りを感じただろうが、同時に台湾プロ野球を「防疫の穴」にするわけにはいかないという大きなプレッシャーを抱えていただろう。

シーズンの終了に際し、各選手がSNSでメッセージを発したが、多くの選手が、無事にシーズンを戦えたことについて、最前線の防疫スタッフやリーグ関係者の貢献、そして防疫対策に協力的だったファンに感謝した。コロナ対策を通じて、世界における台湾の存在感は高まったといえるが、台湾プロ野球もまた、そのイメージアップに大きく貢献したといえる。

台湾でも海外からの入境者や帰国者の感染者は増加している

ただ、非常に残念なのは、現時点においては、日本の皆さんに自信を持って「台湾プロ野球の魅力を体感しに、来春、是非台湾に来てください」と呼びかけられない事だ。今年は、CPBL主催のアジアウインターベースボールリーグの開催が見送られたほか、台湾で開催予定だったWBSCやBFA主催の国際大会も延期となった。

また、これまで各球団がオフに企画していたNPB球団との交流試合やレギュラーシーズン中の日本をテーマとしたイベントの開催についても、現時点では不透明となっている。コロナ禍は、特に国境を越えた交流、人的往来に深刻な影響を与えている。

この7か月あまり、市中感染が確認されていない台湾だが、ここに来て、海外からの入境者、帰国者の感染者数は増加の一途をたどっており、中央感染症指揮センターでは、12月1日から、入境者及び国内における感染防止対策を厳格化、入境時には3日以内のPCR検査陰性証明提出が必須となった。

日本の観光庁に相当する交通部観光局は11月上旬、観光目的の往来の解禁時期について、日本など低リスク国についても、来年の第4四半期以降となる見通しを示した。交通部は、日本との「トラベルバブル」実施について、今後協議を行う可能性はあるとしているものの、その可否については中央感染症指揮センターのアドバイスに従うとしており、慎重な姿勢は崩していない。

従来からのファンに加え、今季、ツイッターやスポーツ専門局などによる試合中継、また、チアガールに関する報道など、各種メディアにおける露出が増えたことにより、新たに台湾プロ野球に興味をもった日本のファンもたくさんいるだろう。当面は、CPBLや各チームの公式SNS、Youtubeの動画など、オンラインを通じて「台湾野球ロス」を凌いで頂きたい。そして今は、ワクチンの開発、普及も含め、新型コロナウイルスの早期収束、そして、自由に往来できる日が一日も早く訪れることを望みたい。(「パ・リーグ インサイト」駒田英)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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