「私、コロナ禍を機にホテル暮らし始めました」 スーツケース一つで生活する女性会社員

 コロナ禍を機に自宅を引き払い、完全にホテルで暮らす生活を始めた女性がいる。都内のIT企業に勤める、やよぴさんだ。なぜ思い切った行動に及んだのか、話を聞いた。(共同通信=中村彰)

都心の風景を望みながら仕事をするやよぴさん=フォーシーズンズホテル東京大手町(写真は全て、やよぴさん提供)

 やよぴさんが働く会社は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、5月にフルリモート体制になった。それまでは仕事の忙しさから、会社から徒歩圏内に住んでいた。たまたま部屋の契約更新時期を控え物件を探していたが、「会社の近くでなくてもよくなった」と、広いエリアを検討。そんな時に月決めなど長期のプランを安く提供している予約サイトを見つけ、「あ、ホテル暮らしっていう選択肢もあるのか」と思い付いた。

 周りに短期のホテル暮らしをしている友人が何人かいて、手間や費用を教えてもらい、「現実的にできそうなイメージが湧いてきた」という。7月から2カ月の間、週に数日、都内のホテルに泊まりテスト。「いけそう」という感触をつかみ、9月に自宅を完全に引き払って、ホテルを泊まり歩きつつ仕事をする生活が始まった。

 引っ越しを機会に家具を買い換えようと考えていたので、ほとんどを処分。気に入っているベッドだけは愛知県の実家に送った。「ほぼ捨てて、本当に断捨離です」

 持ち歩く荷物はスーツケース1個。5日分の洋服と靴、小物、コスメなど。ホテルのランドリーを使うこともあるが、月の半分は他県にいるので移動の途中、実家に立ち寄り服を交換する。

持ち運ぶ荷物はこれだけ

 友人たちから「思い切ったことしたね」「不思議なことをしてるね」といった反応があるが、「面白がってくれてる」という。IT業界では、自宅を持ちつつワーケーションを実行している人も多く、「驚かれることはなかった」。

 この3カ月で東京のほか、千葉、愛知、京都、大阪、鳥取、沖縄のホテルを経験。都内だけで30ほどのホテルに泊まった。宿泊費は安いと1泊5000円程度。高いと友人と2人で3~4万円。だが、「高いホテルはそんなに多くは泊まれない」という。いくらくらいかかるのかが気になるが、「これまでの家賃と比べてとんとんか、ちょっと上下する程度」という。

 水道、光熱費はかからず、毎日、掃除やベッドメークをしてくれ、タオルなども交換される。「持ち歩く荷物が限られるので、洋服やコスメを買うのに厳選するように。必然的、物理的に持ち歩けないので、ミニマリストになりました」

ヒルトン東京お台場の室内

 ホテル暮らしを始めるまでは「めちゃめちゃモノを買って捨てられないタイプ」だったので、「親や友人に驚かれている」という。「時間や空間、体験にお金を使うのもいいなと気が付きました」

 友人と過ごすときはキッチン付きの部屋を選び、皆で食事を作る。「昼は仕事をしながらつまめる、おにぎりとかサンドイッチとか。夜はご当地の新鮮な食材をスーパーなどで買います」。鳥取の新鮮な海の幸や、沖縄の石垣牛が印象に残っている。

「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」の室内

 さまざまな宿に泊まり始めて「宿や街の歴史を体感するのが、楽しく新しい発見です」という。「土地の良さとデジタルの力で何かできる機会もあるのでは」と考えている。「地域活性化のために、地方創生を手伝う人材を安い家賃で受け入れているところもある」。そんな場所での生活も視野に入れている。

 コロナ禍の今、ホテルなどが長期滞在の格安プランを続々と打ち出している。あのホテルニューオータニが30連泊39万円からのプランを出したことは驚きをもって迎えられた。都内で30泊6万7500円と、ほとんど家賃並みの価格を提示する予約サイトも登場した。「長期プランやGoToをうまく使い上手に宿を選ぶと、そうお金はかからない。ホテル暮らしの楽しさを考えると、今の生活を続けられるといいなと思う」

やよぴさんのツイッター
https://twitter.com/yayopii

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